まず始めに、詞書の内容と『聖典セミナー 御伝鈔』平松令三著の現代語訳の対照表を書き記しておきます。

『註釈版』現代語訳
建仁第一の暦春のころ{上人廿九歳}建仁元年(1201)春のころ、二十九歳だった親鸞聖人は、
隠遁のこゝろさしにひかれて源空聖人の吉水の禅房にたつねまいりたまひき比叡山での栄達の望を捨て、念仏門に帰したいとの切なる願いから、法然上人(源空)の吉水のご住房を訪ねられました。
これすなはち世くたりこれはお釈迦様が入滅せられてから二千年以上がたち、仏法が衰えるという末法の世の中になった今、
人つたなくして人間の資質も劣弱になって、
難行の小路まよひやすきによりて実践のむつかしい自力の修行では迷ってしまうことが多いから、
易行の大道におもむかんとなり修めやすい他力の道を進もうとせられたからでした。
真宗紹隆の大祖聖人真実の宗教を盛んにせられた元祖法然上人は、
ことに 宗の淵源をつくし親鸞聖人に宗旨の根源のすべてにわたり、
教の理致をきはめてこれをのへたまふに聖教のすじみちを究極にまで述べ伝えられたところ、
たちところに他力摂生の旨趣を受得し聖人は阿弥陀如来の本願他力によって救われるという趣旨をたちどころに会得し、
あくまて凡夫直入の真心を決定しまし~けり凡夫がそのまま真実報土に往生せしめられる、との信心をすっかり確率せられたのでした。

法然聖人を訪ねる原動力

覚如上人の詞書によると、「隠遁のこゝろさしにひかれて」と曖昧な表現がなされていますが、親鸞聖人の奥さまである恵信尼公のお手紙によると、聖人は六角堂の参籠を契機として法然聖人のもとを尋ねます。

『恵信尼文書』
『註釈版』テキスト『恵信尼からの手紙』今井雅晴著 意訳
山を出でて、あなたのお父さまが比叡山を下りて、
六角堂に百日籠らせたまひて、六角堂に百日の予定で参籠されて、
後世をいのらせたまひけるに、本尊の観音菩薩に来世の極楽往生を祈られました。
九十五日のあか月、聖徳太子の文を結びて、すると九十五日目の暁、お父様が聖徳太子についての願文を唱え終わった時、
示現にあづからせたまひて候ひければ、観音菩薩が出現されてお告げをくださいました。
やがてそのあか月出でさせたまひて、そこですぐさま、まだ真っ暗いうちに六角堂を出て
後世のたすからんずる縁にあひまゐらせんと、たづねまゐらせて、来世で往生できる縁にお会いしたいと探し求めて
法然上人にあひまゐらせて、吉水草案で法然聖人にお目にかかりました。私はこのようにあなたのお父さまから聞いています。
また六角堂に百日籠らせたまひて候ひけるやうに、そしてまた、六角堂に百日の予定で参籠されたように、
また百か日、また百か日
降るにも照るにも、雨が降っても、暑い日差しの下でも、
いかなるたいふにも、まゐりてありしに、どんな大風が吹いても吉水草案に通われました。
ただ後世のことは、その時法然聖人から、来世については、
よき人にもあしきにも、善人であっても悪人であっても
おなじやうに、生死出づべき道をば、ただ一すぢに仰せられ候ひしを、うけたまはりさだめて候ひしかば、同じように極楽へ往生できる道はただ一つ念仏であるとのみ承り、
「上人のわたらせたまはんところには、人はいかにも申せ、たとひ悪道にわたらせたまふべしと申すとも、世々生々にも迷ひければこそありけめ、とまで思ひまゐらする身なれば」と、やうやうに人の申し候ひしときも仰せ候ひしなり。「ああ確かにそのとおりだ」と心に思い決められたのです。

『恵信尼文書』によると「後世のたすからんずる縁にあひまゐらせんと」とある様に、後世の解決のため親鸞聖人は法然聖人の元へ参ったとありますが、『親鸞夢記』に示される夢告の内容(下記、参照)が縁となって法然聖人の元へ参ったと考えるならば、「在俗のままでの仏道修行と民衆に宣布するという使命、を実行するために、法然を選んだはずである(中略)法然を「ごせのたすからんずるえん」と呼んだのは後になってからの恵信尼の理解であって、このときの親鸞には、とにもかくにも、救世観音の告命の実践が、喫緊の命題であったはずである」と平松令三氏は解釈しています(『親鸞』平松令三著 104 頁)。

『親鸞夢記』

救世観音、此ノ文ヲ誦シテノタマハク、コノ文ハ吾ガ誓願ナリ、一切群生ニ説キ聞カスベシ、ト告命シタマヘリ。コノ告命ニヨッテ数千万ノ有情ニコレヲ聞カシム、ト覚エテ、夢悟メオハンヌ(原漢文、返点送仮名に従って解読)。

また、法然聖人について親鸞聖人に伝えたのは、同じ天台の学僧で、唱導師(説教師)として有名であった安居院の聖覚法印(1167~1235)であったと言われています。後の両者の交流から見ても有り得ることでしょう(『親鸞聖人の生涯』梯實圓 著25 頁)。

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