2020年7月通信句会 選評 その1
○葛城広光選
特選 10 ビー玉が寄って来て靴底舐めて行った 青島巡紅
「ビー玉が寄って来る」は白昼夢の様。ビー玉は高いところから低いところへ転がっていく。その逆。靴底を舐めても舌を使うとしたらますますあり得ない。童話の様。
○白松いちろう選
特選句 26 大きな白紫陽花の貫禄 坪谷智恵子
(感想)紫陽花は好きな花の中でも最たるものです。特に白い紫陽花は他を寄せ付けない力があります。宗吾霊道のアジサイ園には白い「柏葉アジサイ」が咲き乱れており圧巻です。私はそれを「たらちね」と呼んでいます。それはそれは見事な垂乳根です。
○木下藤庵選
特選句 23 米寿まで生きたごほうびコロナとは 坪谷智恵子
実感です。小生も只今、85才。此のコロナのごほうびは、時間が長びきそうです。
○蔭山辰子選
特選句 103 時はるか礎石のくぼみ梅雨残る 三村須美子
昔から日本の夏は水不足や洪水の被害など、水の恐ろしさ、ありがたさをよく耳にします。特に今年はコロナ禍もあって恐ろしい夏になりそうです。周囲を気遣い自分を守って過ごしたいです。
○野谷真治選
特選句 95 カサブタがとれた餅を焼いている 葛城広光
「カサブタがとれた餅」がユニークで、思わずいただいた。餅にカサブタはあるのか。考えると、面白かった。
○坪谷智恵子選
特選 72 ジージーと梅雨前線せみが押す 三村須美子
灰色の空がつづく中、暗い気分の時に御句を拝見して実感しました。せみの後押ししたいです。
○三村須美子選
特選 100 塔心礎心の在りか自問する 青島巡紅
奈良時代に建立され、国家安泰、民衆の願いのより所とし、幾多の栄枯盛衰を見つめてきた塔である。その塔の心柱を支えた礎石が神社の隅に置かれている。今は用を果たし、塔も飾りもなくただの中心がくぼんだ丸い石。裸のままの石である。この塔の心柱の礎石を見て、己の心のあり方はどうか問うているさまに、ずっしりと重いものを感じました。
○青島巡紅選
特選 23 米寿まで生きたごほうびコロナとは 坪谷智恵子
どの年代においてもこんな菌の感染は御免だ。それが88歳の歳でぶつかるとは。やるせ無い気持ちで一杯になる。「ごほうびコロナかな」という置き方に、憤慨だけでなくペーソスやユーモアを感じます。どんな状況も、笑い飛ばせる心の余裕を感じます。僕は仕事柄(タクシー運転手)いつ感染しても仕方のない状況にあるので、特にこの句には他人事ではないものを感じました。
並選
① 86 日本中皆幸せの来る日待ち 蔭山辰子
コロナ禍、大雨による洪水、何で悪いことは重なるのかと思ってしまう昨今の状況。ワクチンや有効な新薬の完成、洪水被害からの復興、本当に「幸せの来る日待ち」です。日本中だけでなく、近隣諸国が、前者だけなら世界中がその日待ちです。
② 75 日盛の西国街道軒づたい 中野硯池
太陽が真上にある頃、影もないか小さい中、軒の影を飛び石のように頼りに街道を歩く。目に浮かぶようです。
③ 54 今日もあの二人が歩いてる 白松いちろう
個人的なことですが、夜明け前に1時間ウォーキングしています。高齢の御夫婦、お一人、お仲間、犬のお散歩、野良猫の餌やり、いろんな人と遭遇します。挨拶を交わすこともあればないこともありますが、時間帯によって見かける人は決まっています。いつもの顔というやつでしょうか。見えない日は大丈夫だろうか、昨日は調子悪そうだったしな、とか思ってしまいます。今日も元気そうに歩いているというかすれ違うと、こちらまで嬉しくなってしまいます。そういう親しみというか連帯感がある句です。
④ 42 飛車角を後生大事の炎天下 野谷真治
「飛車角」は将棋では攻め守りの中心となる駒。「炎天下」まであれば高校野球を連想せずにはいられません。4番バッターでエースでしょうか、それとも4番バッターはバッター、エースはエースでしょうか。試合は後半戦に入っていてその君か君達を盛り上げて頑張っているナインの様子が浮かび上がって来る句です。今年はコロナ禍で中心、来年は見れることを希望します、そんな声まで聞こえてきそうです。
⑤ 103 時はるか礎石のくぼみ梅雨残る 三村須美子
大きな時の流れと小さな時の流れが同在する句。歴史の流れの中で名前が残った人物の人生を切り取った物語。この句にはそんな深みがあると思います。
⑥ 111 愛犬に夏服着せて宮参り 金澤ひろあき
犬にとっては迷惑なのか、それとも気に入っているのか。夏服を着せられポーズを取らされている。飼い主がカメラを向けている。そこが神社だった。目には留まっても、このように言葉にできないことがよくある。写生句として逸品ではないでしょうか。
⑦ 112 もらい水の列蝉の声とだえなし 金澤ひろあき
蝉の声同様に列も途絶えなし。目から入る情報と耳から入る情報が融合された句。動画を見ている気分にさせる句です。写生句の面白さを感じます。
⑧ 107 メダカ見て広がる話題鯉金魚 三村須美子
メダカを見る人達がいて、鯉がどうの金魚がこうのと話題が広がった。なんだかその情景が浮かんできそうです。盛り上がっていなければ、メダカからあれやこれやと話題は飛火しないでしょう。
⑨ 19 戦場の妙な美談を繰り返す 金澤ひろあき
終戦記念日が8月のためか、夏になるとこの手の話をよく耳にします。今年で戦後75年になります。よく言われることですが、思い出は徐々に美化されて行く。正にその恐怖が「妙な美談を繰り返す」こと、或いは、されることにあります。戦争には戦争中の美談もあるでょうが、それ以上に醜悪、恐怖、嫌悪、憎悪、怨恨etcの負の思念、感情が渦巻く状況の方が多いということを言える世代が言わば絶滅危惧種のような存在になってきている昨今、この状況は怖いものがあります。
⑩ 11 木は爽々 粽作りは中止せず 金澤ひろあき
7月の京都と言えば祇園祭。でもコロナ禍で山鉾は組み立てられず巡行もありませんでしたが、地味に粽は売られていました。その光景を見てホッとした気分になりましたが、感染増加とか嫌な方向に考えが向かいました。そんな僕の気持ちと重なるものがありました。
⑪ 39 大雨や川いっぱいの水恐い 岡畠さな子
「水恐い」というのは稚拙かなとも思ったのですが、梅雨の大雨で河川氾濫、洪水による死傷者家屋損壊といった現状が報道されていました。京都で言えば、桂川や鴨川がそうなったら、どうしようと橋の上や河川沿いの道を車で走っていて思ったこともありました。
素直に「水恐い」という気持ちになりました。 葛城広光
⑫ 93 運転で周りの空気支配する
煽り運転でもしているのでしょうか。車を走らせる仕事をしていると、こういう状況を招いているなと思う瞬間があるので、あるよね、と取りました。
⑬ 48 眠る人いつまでも紙飛行機 野谷真治
起こしても中々起きない人、或いは、疲れていて起きられない人のことを、「いつまでも紙飛行機」と言っているのかなと思いました。酔っ払いも、起こされて、起きる起きると言って起きませんね。どこまで飛んでいくのやら。タクシー運転手は、置き去りに出来ないので困ります。
⑭ 46 口内炎さぐる舌先のかき氷 野谷真治
口内炎は触れるとビビビッととにかく痛い。それを「舌先のかき氷」とユーモアというかアイロニーというかで上手く言っているなと思いました。
⑮ 73 天王山引き寄せて梅雨明けにけり 中野硯池
「天王山」と言えば明智光秀と羽柴(豊臣)秀吉が覇権をかけた山崎の戦いで舞台となった場所。その山が梅雨に物申し明けるというのは天上界でならあるのではないでしょうか。浪漫主義という言葉を久しぶりに思い出しました。
○葛城広光選
特選 10 ビー玉が寄って来て靴底舐めて行った 青島巡紅
「ビー玉が寄って来る」は白昼夢の様。ビー玉は高いところから低いところへ転がっていく。その逆。靴底を舐めても舌を使うとしたらますますあり得ない。童話の様。
○白松いちろう選
特選句 26 大きな白紫陽花の貫禄 坪谷智恵子
(感想)紫陽花は好きな花の中でも最たるものです。特に白い紫陽花は他を寄せ付けない力があります。宗吾霊道のアジサイ園には白い「柏葉アジサイ」が咲き乱れており圧巻です。私はそれを「たらちね」と呼んでいます。それはそれは見事な垂乳根です。
○木下藤庵選
特選句 23 米寿まで生きたごほうびコロナとは 坪谷智恵子
実感です。小生も只今、85才。此のコロナのごほうびは、時間が長びきそうです。
○蔭山辰子選
特選句 103 時はるか礎石のくぼみ梅雨残る 三村須美子
昔から日本の夏は水不足や洪水の被害など、水の恐ろしさ、ありがたさをよく耳にします。特に今年はコロナ禍もあって恐ろしい夏になりそうです。周囲を気遣い自分を守って過ごしたいです。
○野谷真治選
特選句 95 カサブタがとれた餅を焼いている 葛城広光
「カサブタがとれた餅」がユニークで、思わずいただいた。餅にカサブタはあるのか。考えると、面白かった。
○坪谷智恵子選
特選 72 ジージーと梅雨前線せみが押す 三村須美子
灰色の空がつづく中、暗い気分の時に御句を拝見して実感しました。せみの後押ししたいです。
○三村須美子選
特選 100 塔心礎心の在りか自問する 青島巡紅
奈良時代に建立され、国家安泰、民衆の願いのより所とし、幾多の栄枯盛衰を見つめてきた塔である。その塔の心柱を支えた礎石が神社の隅に置かれている。今は用を果たし、塔も飾りもなくただの中心がくぼんだ丸い石。裸のままの石である。この塔の心柱の礎石を見て、己の心のあり方はどうか問うているさまに、ずっしりと重いものを感じました。
○青島巡紅選
特選 23 米寿まで生きたごほうびコロナとは 坪谷智恵子
どの年代においてもこんな菌の感染は御免だ。それが88歳の歳でぶつかるとは。やるせ無い気持ちで一杯になる。「ごほうびコロナかな」という置き方に、憤慨だけでなくペーソスやユーモアを感じます。どんな状況も、笑い飛ばせる心の余裕を感じます。僕は仕事柄(タクシー運転手)いつ感染しても仕方のない状況にあるので、特にこの句には他人事ではないものを感じました。
並選
① 86 日本中皆幸せの来る日待ち 蔭山辰子
コロナ禍、大雨による洪水、何で悪いことは重なるのかと思ってしまう昨今の状況。ワクチンや有効な新薬の完成、洪水被害からの復興、本当に「幸せの来る日待ち」です。日本中だけでなく、近隣諸国が、前者だけなら世界中がその日待ちです。
② 75 日盛の西国街道軒づたい 中野硯池
太陽が真上にある頃、影もないか小さい中、軒の影を飛び石のように頼りに街道を歩く。目に浮かぶようです。
③ 54 今日もあの二人が歩いてる 白松いちろう
個人的なことですが、夜明け前に1時間ウォーキングしています。高齢の御夫婦、お一人、お仲間、犬のお散歩、野良猫の餌やり、いろんな人と遭遇します。挨拶を交わすこともあればないこともありますが、時間帯によって見かける人は決まっています。いつもの顔というやつでしょうか。見えない日は大丈夫だろうか、昨日は調子悪そうだったしな、とか思ってしまいます。今日も元気そうに歩いているというかすれ違うと、こちらまで嬉しくなってしまいます。そういう親しみというか連帯感がある句です。
④ 42 飛車角を後生大事の炎天下 野谷真治
「飛車角」は将棋では攻め守りの中心となる駒。「炎天下」まであれば高校野球を連想せずにはいられません。4番バッターでエースでしょうか、それとも4番バッターはバッター、エースはエースでしょうか。試合は後半戦に入っていてその君か君達を盛り上げて頑張っているナインの様子が浮かび上がって来る句です。今年はコロナ禍で中心、来年は見れることを希望します、そんな声まで聞こえてきそうです。
⑤ 103 時はるか礎石のくぼみ梅雨残る 三村須美子
大きな時の流れと小さな時の流れが同在する句。歴史の流れの中で名前が残った人物の人生を切り取った物語。この句にはそんな深みがあると思います。
⑥ 111 愛犬に夏服着せて宮参り 金澤ひろあき
犬にとっては迷惑なのか、それとも気に入っているのか。夏服を着せられポーズを取らされている。飼い主がカメラを向けている。そこが神社だった。目には留まっても、このように言葉にできないことがよくある。写生句として逸品ではないでしょうか。
⑦ 112 もらい水の列蝉の声とだえなし 金澤ひろあき
蝉の声同様に列も途絶えなし。目から入る情報と耳から入る情報が融合された句。動画を見ている気分にさせる句です。写生句の面白さを感じます。
⑧ 107 メダカ見て広がる話題鯉金魚 三村須美子
メダカを見る人達がいて、鯉がどうの金魚がこうのと話題が広がった。なんだかその情景が浮かんできそうです。盛り上がっていなければ、メダカからあれやこれやと話題は飛火しないでしょう。
⑨ 19 戦場の妙な美談を繰り返す 金澤ひろあき
終戦記念日が8月のためか、夏になるとこの手の話をよく耳にします。今年で戦後75年になります。よく言われることですが、思い出は徐々に美化されて行く。正にその恐怖が「妙な美談を繰り返す」こと、或いは、されることにあります。戦争には戦争中の美談もあるでょうが、それ以上に醜悪、恐怖、嫌悪、憎悪、怨恨etcの負の思念、感情が渦巻く状況の方が多いということを言える世代が言わば絶滅危惧種のような存在になってきている昨今、この状況は怖いものがあります。
⑩ 11 木は爽々 粽作りは中止せず 金澤ひろあき
7月の京都と言えば祇園祭。でもコロナ禍で山鉾は組み立てられず巡行もありませんでしたが、地味に粽は売られていました。その光景を見てホッとした気分になりましたが、感染増加とか嫌な方向に考えが向かいました。そんな僕の気持ちと重なるものがありました。
⑪ 39 大雨や川いっぱいの水恐い 岡畠さな子
「水恐い」というのは稚拙かなとも思ったのですが、梅雨の大雨で河川氾濫、洪水による死傷者家屋損壊といった現状が報道されていました。京都で言えば、桂川や鴨川がそうなったら、どうしようと橋の上や河川沿いの道を車で走っていて思ったこともありました。
素直に「水恐い」という気持ちになりました。 葛城広光
⑫ 93 運転で周りの空気支配する
煽り運転でもしているのでしょうか。車を走らせる仕事をしていると、こういう状況を招いているなと思う瞬間があるので、あるよね、と取りました。
⑬ 48 眠る人いつまでも紙飛行機 野谷真治
起こしても中々起きない人、或いは、疲れていて起きられない人のことを、「いつまでも紙飛行機」と言っているのかなと思いました。酔っ払いも、起こされて、起きる起きると言って起きませんね。どこまで飛んでいくのやら。タクシー運転手は、置き去りに出来ないので困ります。
⑭ 46 口内炎さぐる舌先のかき氷 野谷真治
口内炎は触れるとビビビッととにかく痛い。それを「舌先のかき氷」とユーモアというかアイロニーというかで上手く言っているなと思いました。
⑮ 73 天王山引き寄せて梅雨明けにけり 中野硯池
「天王山」と言えば明智光秀と羽柴(豊臣)秀吉が覇権をかけた山崎の戦いで舞台となった場所。その山が梅雨に物申し明けるというのは天上界でならあるのではないでしょうか。浪漫主義という言葉を久しぶりに思い出しました。