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◇クラシック音楽◇NHK‐FM「ベストオブクラシック」レビュー

2019-01-22 09:42:10 | NHK‐FM「ベストオブクラシック」レビュー

 

<NHK-FM「ベストオブクラシック」レビュー>

 

~BBC交響楽団 東京公演~

ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番から第3楽章     
                    
  ピアノ:小菅優

  指揮:サカリ・オラモ

  管弦楽:BBC交響楽団
                   
マーラー:交響曲第5番
シベリウス:アンダンテ・フェスティーヴォ(アンコール)

  指揮:サカリ・オラモ

  管弦楽:BBC交響楽団
                   
会場:サントリーホール            

収録日:2018年3月11日

放送:2019年1月18日(金) 午後7:30~午後9:10


 今夜のNHK‐FM「ベストオブクラシック」は、2018年3月11日にサントリーホールで行われたBBC交響楽団東京公演の放送である。BBC交響楽団は、英国放送協会(BBC)の放送オーケストラで、1930年、指揮者のエイドリアン・ボールトによって創設された。ボールトは1950年まで首席指揮者の地位にあり、その後、首席指揮者として、マルコム・サージェント、アンタル・ドラティ、コリン・デイヴィス、ピエール・ブーレーズ、ルドルフ・ケンペ、ゲンナジー・ロジェストヴェンスキー、アンドルー・デイヴィス、レナード・スラットキン、イルジー・ビエロフラーヴェクが務め、そして、2013年からは今日放送されるサカリ・オラモが就任している。 また、これまで、アルトゥーロ・トスカニーニをはじめ著名な指揮者が客演指揮者を務めてきた。イギリスの音楽祭「BBCプロムス」において主要な役割を果たしており、ロイヤル・アルバート・ホールでの初日と最終日には、BBC交響楽団が管弦楽を担当する習わしとなっている。BBC交響楽団は、とりわけ20世紀作品や現代曲に力を注いでおり、最近ではアンナ・クライン、ブレット・ディーン、フィリップ・カッション、ジョージ・ウォーカー、レイモンド・ユーらに新曲を委嘱、それらの初演を行っている。

 指揮のサカリ・オラモ(1965年生まれ)は、フィンランド、ヘルシンキ出身。 シベリウス音楽院でヴァイオリンを学び、17歳でアヴァンティ室内管弦楽団の創設に参加。その後、フィンランド放送交響楽団のコンサートマスターを務める。1993年同交響楽団副常任指揮者の1人となる。1999年バーミンガム市交響楽団の音楽監督に就任、2003年5月同交響楽団が主催するフルーフ音楽祭の芸術監督を務めた。同年9月フィンランド放送交響楽団首席指揮者経て、2012年同交響楽団桂冠指揮者に就任。2006年フィンランドのコッコラ歌劇場首席指揮者、2008年ストックホルム・フィルハーモニー管弦楽団首席指揮者に就任。そして、2013年にはBBC交響楽団首席指揮者に就任して現在に至っている。フィンランド放送響コンサートマスターを務めたことでも分かる通り、オラモは著名なヴァイオリニストでもある。指揮者として、録音でも評価が高く、ロイヤル・ストックホルム・フィルとの共演で「ニールセン:交響曲全集」(3枚組)をリリースし、とりわけ交響曲第1番/第3番のCDは、BBCミュージック・マガジン・アワードを受賞している。

 今夜の1曲目は、小菅 優のピアノ独奏によるラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番(放送時間の都合で第3楽章のみ)。 ピアノの小菅 優(1983年生まれ)は、東京音楽大学付属音楽教室を経たのち、1993年よりヨーロッパに在住。9歳よりリサイタルを開きく。2006年「ザルツブルク音楽祭」で日本人ピアニストとして2人目となるリサイタル・デビューを果たした。コンクール歴はなく、演奏活動のみで国際的な舞台まで登りつめた実力派ピアニスト。2000年ドイツ最大の音楽評論誌「フォノ・フォルム」より、ショパンの練習曲全曲録音に5つ星が与えられた。 第13回「新日鉄音楽賞」、2004年「アメリカ・ワシントン賞」、第8回「ホテルオークラ音楽賞」、第17回「出光音楽賞」、2014年「ベートーヴェン ピアノ・ソナタ全曲演奏会シリーズ」により芸術選奨新人賞音楽部門、2017年第48回「サントリー音楽賞」をそれぞれ受賞している。今夜のラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番での小菅 優のは、実に堂々としたピアノ演奏を聴かせる。しっかりとしたタッチにより一音一音が紡ぎだされ、そしてホールいっぱいに響きわたる様子が聴き取れる。全体にゆっくりとしたテンポで、この有名なピアノ協奏曲を弾き進めるが、締めるべきところは締め、強く打ち出すところは強く打ち出す、といった具合に全体に内容が濃い演奏に仕上がった。まだ、小菅 優は中堅のピアニストであるはずだが、今夜は既に巨匠の片鱗を覗かせるた演奏を披露したような印象を受けた。これからの小菅 優は、さらなる高みへと向かう演奏を聴かせてくれそうだ。

 2曲目は、マーラー:交響曲第5番。この交響曲は1902年に完成した。5楽章からなり、マーラーの作曲活動の中期を代表する作品。第2番から第4番までの3作が“角笛交響曲”と呼ばれ、声楽入りであるのに対して、第5番、第6番、第7番の3作は声楽を含まない純器楽のための交響曲となっている。それにもかかわらず、「亡き子をしのぶ歌」「リュッケルトの詩による5つの歌曲」などとの相互に共通した動機や曲調が認められ、声楽を含まないとはいえ、マーラーの歌曲との関連は失われていない。第4楽章アダージェットは、ヴィスコンティ監督による1971年の映画「ベニスに死す」で使われ、マーラーの音楽の代名詞的存在ともなっている。この交響曲でのサカリ・オラモ指揮BBC交響楽団の演奏は、その分厚いオーケストラの響きにまず圧倒される。一つも奇を衒うことなく、正攻法で曲の輪郭を明確に描き出す。リスナーは、包容力のある大きなうねりの中に身を浮かべながら、この名曲を存分に楽しむことができるのだ。構成力の大きさと、その安定したオーケストラの活き活きとした響が一際印象に残った演奏となった。BBC交響楽団は、古き良き時代の情緒を、今に蘇らせる真に力のあるオーケストラだ。昨今、来日したウィーン・フィルなどの演奏を聴くと、あまりにも現代化され過ぎた感がしないでもない。それに対し、現代曲に力を入れるBBC交響楽団ではあるが、今夜の演奏を聴くと、伝統を忠実に守る姿勢も強く窺わせる。サカリ・オラモの指揮は、大きな空間をつくり出すと同時に、物語を朴訥として語るような親しみのもてる演奏に徹して、なかなか好感がもてた。この指揮者は、交響詩などを演奏させれば実力を発揮しそうだ。有名な第4楽章のアダージェットは、あまり甘美にならずさらりと仕上げたところなどは、逆に深みが感じられた。そして、第5楽章の圧倒的迫力の演奏へと繋げる。アンコールで演奏したシベリウス:アンダンテ・フェスティーヴォの演奏も、リスナー一人一人に語りかけるような味わいある弦の響素晴らしい。今夜の演奏会は、サカリ・オラモ指揮BBC交響楽団が持つ、包容力のある、安定した底力を如何なく発揮したものとなった。(蔵 志津久)


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