「ほうほう」と中年警官は言った。まるでサンタクロースのお出ましといった感じだった。

 

「これはまた、なんというか、お手柄でしたなぁ」

 

 若い警官とスーツ姿の見馴れぬ男も一緒に入ってきた。ドアの外には他にも何人かいるようだった。

 

「大丈夫でしたかな? どなたもお怪我などされてませんかな?」

 

 中年警官は少々おおげさに訊いてきた。若い警官とスーツの男は似たような表情を浮かべていた――眉間に皺の寄った暗い顔つきだった。僕たちは彼らの方を向いて無事であるのを示した。それも無言でだった。中年警官は笑顔を固めたままひとりひとり見ていった。

 

「ご無事なようでなによりですなぁ。それで現場は勝手口とのことですが、間違いはありませんかな? 他に被害は出てませんか?」

 

「そうよ」

 

 真昼ちゃんがこたえた。もう何度も同じ質問をされていて、それに飽きてるといった声音だった。

 

「今、消防の方たちが見てるわ。塀が燃えて、そこを直さなければいけないだけで他に被害はないみたいね。私たちに怪我もないわ。その、横になってる人はわからないけどね。取り押さえるのに手間取ったから、ちょっとは怪我してるかもしれないわ」

 

 スーツの男はドアの外へ顔を出し、なにか指示してるようだった。足音が裏手の方へ向かっていった。きっと現場検証ってのをするんだろう、と僕はぼんやり考えていた。

 

「あんた、」

 

 真昼ちゃんは若い警官を顎で指した。

 

「見てやってちょうだい。怪我してるかもしれないわ、その人は」

 

 二人の警官は目をあわせると、床に転がった男を両側から抱え、椅子に座らせた。

 

「ほう――」

 

 中年警官がスーツの男を呼び寄せた。すべてがオーバーアクション気味だった。

 

「なるほど、こいつだったんですなぁ。ま、他の件がどうであれ、お宅さんに火をつけたのはこの男だったわけですな」

 

 中年警官がフードとマスクを取り払うと、特徴的な髪形があらわれた。毛先が頬にはりついてヘルメットっぽくなくなってはいたものの、あのコンビニの店員に間違いなかった。その目は血走っていて、顔は赤黒かった。どうもうな犬のように息を「フーっ、フーっ」と吐いてもいた。強く噛みあわせた歯の隙間から洩れる音のようだった。たぶん、自分でも止められない音なのだろう。

 

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《詩のようなものと幾つかの短文集です。

 画像があるので重たいとは思いますが、

 どうぞ(いえ、どうか)お読みください》