海難事故の一方の当事者の中国も、当然ながら、海難事故直後から自国の対処活動を積極的に報道している。


 中国は、1月19日に総合記者会見を行い、イラン、バングラディッシュ、国際海事機関(IMO)などと

積極的に協力することや捜索救助活動の状況を公表し、国際法条約に基づいてサンチ号をサルベージすること、

および油濁防止の対応などについての事後処理を行うことを表明した。


 さらに25日には、中国、イラン、パナマ、香港特別行政区と合同事故調査のための協定に合意し、

IMOなどの関連協定に従って合同調査を行っていくことを矢継ぎ早に明らかにした。


 中国は、かねて尖閣諸島の領有権のみならず、沖縄トラフまでが自国の大陸棚であると主張している

こともあり、サンチ号の沈没場所が中国の大陸棚であることから、人道上の問題であるとともに

海洋環境上の問題であるサルベージを積極的に行うことを口実に、沈没場所が中国の大陸棚であることを

国際的にアピールしていると思われる。


 中国は、5月17日から燃料抜取り作業を開始しているが、日本の了解を得たかについては不明である。


 北朝鮮のものと思われる不審船が、奄美大島西方の日中中間線の中国側で沈没した際、日本は、中国側に

協力金を支払ったうえでサルベージを行ったことはつとに知られている。


 日本が、大陸棚上に沈没したサンチ号の外国企業によるサルベージにクレームをつけたこと、あるいは

共同サルベージを提案したことは寡聞にして報道されていない。


 中国は、サラミ戦術を推進し、国際的な認知を確保するにあたって、サンチ号事件を有効に活用したので

あった。


日本の縦割り行政では中国の海洋侵出を止められない

 沿岸国は、自国のEEZと大陸棚資源について主権的権利を行使でき、これらの行動について

排他的管轄権を行使できる。


 日本は、かねて日中間の大陸棚の境界を中間線であると主張しているのでサンチ号の沈没場所は、

日本の大陸棚上の問題でもある。


 しかしながら、日本がサンチ号の海難事故を報道したのは、第10管区海上保安本部と地方紙が主体であり、

政府が官邸の危機管理センターに情報連絡室を設置したのは、ようやく2月2日のことであった。