夏休みなので、貿易について子供たちに考えてもらおうと思い、童話を書いてみました。大人にも楽しんでもらえれば幸いです。

 

 

■アリの国では物が余って困っていました

アリの国では、皆が働き者ですから、皆が熱心に働いて、多くのコメがとれました。また、アリは倹約家ですから、少ししかコメを食べずに我慢して暮らしていました。アリたちは皆、歳をとってからの生活が心配なので、たくさん貯金をしたかったのです。

 

しかし、問題がありました。多くのコメがとれるのに、コメを買う人が少ないので、コメが余って腐ってしまうのです。

 

アリの王様は、「コメが余るので、来年は作るコメを半分にしよう。ついては、アリの半分をクビにする」と言いました。クビになったら給料がもらえず、貧しくなってしまうので、アリたちは困ってしまいました。

 

みんなが豊かになろうとして、一生懸命に働いて、倹約もしたのに、みんなが貧しくなってしまうのでは、たまりません。何とかしようと毎日相談していました。

 

■隣がキリギリス国でラッキーだった

隣は、キリギリスの国でした。キリギリスたちは、働き者で、良いコメをたくさん作るし、兵隊も強いのですが、倹約が嫌いでした。「自分たちが作った以上に多くのコメを食べて豊かに暮らしたい」と思っていました。

 

そこで、アリの王様は、キリギリス国に余ったコメを売ることにしました。「私たちの作ったコメを半分売りたいのですが。代金はキリギリス国のお金で払ってもらえば良いですよ」というわけです。

 

キリギリスの王様は、喜びました。お金を印刷すれば、アリたちが作ったコメが食べられるのですから、早速買うことにしたのです。

 

アリの王様も、ホッとしました。そこで働きアリたちに言いました。「お前たちが作ったコメの半分は余っているから、キリギリス国に売ることにした。したがって、来年も今年と同じだけコメを作るので、お前たちをクビにするのはやめた」と。

 

アリたちは大いに喜びました。皆が懸命に働いて、多くのコメを作り、王様から給料をもらうのです。半分はアリ国のお金でもらってコメを買います。残り半分はキリギリス国のお金でもらって、老後のために貯金しておきます。

 

■キリギリス国のお金は要らない?

アリたちは、心配になってきました。歳をとってからのための貯金として持っているのは、キリギリス国のお金です。しかし、自分が歳をとった時に、このお金で何が買えるのでしょうか。

 

キリギリスたちは、作っている以上のコメを食べてしまっているので、アリ国に売るコメなど無いかも知れません。そんな国のお金を持っていても、何も買えないかも知れません。

 

そこでアリの王様は、キリギリスの王様に「次からは、アリ国のお金で払って下さい」と言いました。しかし、キリギリス国はアリ国のお金を持っていないので、それは出来ない相談でした。

 

困ってしまったアリの王様は、考えました。「アリ国のお金を印刷してアリたちの給料にしよう。キリギリス国から受け取った金は、金庫に入れておこう」。

 

「アリたちが、受け取った給料を全部使ってコメをたくさん買おうとすると、コメの値段が上がってしまう」と心配する博士がいましたが、大丈夫でした。アリたちは、歳をとってからのためにお金を貯金しておくので、コメをたくさん買おうというアリはいなかったからです。

 

もしも、コメをたくさん買おうというアリが増えてきたら、その時はキリギリスに売るコメを減らせばよいので、どちらにしても博士の心配は大丈夫だったのです。

 

■アリたちが歳をとりましたが、大丈夫でした

アリたちは歳をとりました。もうコメを作る元気がありません。キリギリス国からコメを買って来て食べるしかありません。でも、大丈夫なのでしょうか。キリギリスは相変わらず少ししか働かずに多くのものを食べていますが。

 

大丈夫だったのです。近くにあるハチの国では、若いハチたちが頑張って働いて、ハチミツをたくさん作り、キリギリスに売っていました。そこでアリの王様はハチの王様に言いました。

 

「私たちは、キリギリス国のお金をたくさん持っています。これでハチミツを売って下さい」と。ハチの王様はよろこびました。「ハチミツが余って困っていたのです。よろこんで、売ってあげますよ。アリの王様から受け取ったキリギリス国のお金は、金庫に入れておけば、きっと役にたちますから」。

 

■アリやハチの王様がキリギリス国のお金を受け取ったわけ

働きアリたちが受け取りたくないと思ったキリギリス国のお金を、アリやハチの王様が受け取った理由を考えてみましょう。

 

理由の第一は、「キリギリス国で買い物をするのに使えそうだから」です。「キリギリスたちは、優秀だ。お金が足りなくなれば、贅沢をやめて余ったコメを他国に売るようになるだろう」という事ですね。

 

「もしもキリギリスたちが贅沢をやめなければ、コメを買うことは出来ないだろうが、その時はキリギリスが住んでいる家を売ってもらえば良い」と考えたのかも知れません。

 

理由の第二は、「これを受け取らないと、作った物が大量に腐ってしまって困るから」です。アリの王様は「キリギリス国に買ってもらわないと、働きアリの半分がクビになって貧しくなってしまうので、それよりはキリギリス国のお金を受け取った方がずっと良い」、と考えたわけですね。ハチの王様も、同じように考えたはずです。

 

理由の第三は、「他の国で買い物をするのに使えそうだから」です。実際、アリの王様はハチの国からハチミツを買う時にキリギリス国のお金を使っていますし、他の国から色々な物を買う時にも使えるだろう、と考えたのでしょう。

 

他の国々の人々も、理由の第一と第二によって、キリギリス国のお金を受け取るはずだ、と王様たちは考えたのですね。

 

キリギリスの国、うらやましいですね。お金を印刷するだけで、アリやハチから欲しいものが買えるのですから。まあ、いつかはアリやハチたちがコメや家を買いに来るでしょうから、その時には贅沢をせずに倹約してコメなどを売ってあげる必要があるわけですが。

 

というわけで、アリもハチもキリギリスも、メデタし、メデタし、というお話でした。

 

おとうさん、おかあさんたちへ

世界で使われているキリギリス国のお金は、皆が欲しがるので、それを持っていれば何でも買えるのです。「皆が欲しがるものを持っていれば、それで何でも欲しいものが手に入る」という事が大切なのですね。

 

じつは、これがお金の本質なのです。日本国内では日本円が、世界の貿易ではドルが使われていますが、それは「国内では皆が日本円を欲しがっている。それは、日本円さえ持っていれば何でも買えるから」ですし、「貿易をする人は皆がドルを欲しがっている。それは、ドルさえ持っていれば何でも買えるから」なのですね。理由の第三が、大事なのですね。

 

おしまい。