6.19ひよっこ138話もうひとつのシナリオ、マナバージョン。二年半ぶりに加筆修正してお届け | 散り急ぐ桜の花びらたち~The story of AKB.Keyaki.Nogizaka

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小説家を目指しています。ゆいぱる推し 京都地元大好き 鴨川のせせらぎと清水寺の鐘の音の聞こえるところに住んでいます。








こんにちはマナです。


ひよっこ138話「乙女たちに花束を」

それに対照させるように書いたもうひとつの私のシナリオ。
 
二年半前の11月。
放送が終わって2ヶ月、この時期になんで書こうと思ったのかははっきりない覚えてないけど、出演者の紅白出場でひよっこが再び注目された事で
あの感動のシーンを再び自分の中でリバイバルして感傷に浸りたかったんでしょうか
 
明日6月19日には夕方にまた再放送されます。
その前に良ければマナバージョンもご覧いただければより明日の放送も楽しんでいただけると思います。
二年半前にはなかった、あの由香の名セリフを加筆してリライトしたニューバージョンになっていますw
それではご覧くださいませ♪(-^□^-)

 

 

 

 

 









 

 

※※※

 

 

 

 

「さあ今度はこっちの番だ」

省吾はそう言うと、電話に手をかけた。

牧野由香がすずふり亭に来てくれたのは数日前のこと。

あの由香がどれだけ勇気を振り絞って来てくれたのか、

それは省吾と鈴子には痛いほどわかっていた。

もういいだろう、省吾のその言葉に鈴子は涙を浮かべて微笑んだ。

家族三人、あの日に戻れるのは、もうこの機会しかなかった。

 

「あっ、ヤスハルか。悪いけど、由香をここまで連れてきてくれないか。うん、今すぐ」

 

 

 

 

ランチタイムを過ぎたばかりの平日の昼下がり。客は窓際に日向ぼっこをするように向かい合いコーヒーをすする老夫婦が一組だけ。そんな店内を遠い目で見やりながらレジのなかで小さく深呼吸を繰り返す鈴子。 厨房から聞こえてくるフライパンをかき回す音だけが響く店内。中にいるのは省吾一人だけ。

ゲンもヒデも気を利かしたのか裏庭に出ているようだ。

 




チャリリーン

おもむろに響く玄関の鈴の音。いぶかしげに顔だけをのぞかせる牧野由香。

 

「なにぃ、用って?。。」

 

後ろには微妙な距離を置いてこちらをうかがうヤスハルの顔が見える。

 

「まぁこちらに来て座んなさい」

鈴子がその肩を押すようにして迎え入れる。

そんな様子を厨房からチラチラと覗き見る省吾。大きく息を吐きながら鈴子の合図をじっと待つ。

 

「さぁ、もういいわよ、いつでも。」

その言葉が終わらないうちに厨房のドアが開く。

給仕するみね子の姿はない。

省吾の手自ら由香の前に指し出されるいつものすずふり亭のオムライス。


「はぁ~。こんなの食べさせる為にわざわざ呼んだの?・・」
 

「覚えてないか、お母さんの言葉?」

 

 

 





 

 


幼いころの記憶は由香にはあまりない。

楽しいことは数えるほどしかなかったから。ひとりで留守番、一人で遊んだこと。記憶の断片をいくらめくってもそんな想いでしか出てこない。

ただあの日だけは鮮明に覚えている。

母と言えばこのシーンが頭の中に流れるほど。

 

 

 

すずふり亭のお昼休み。

テーブルを前にちょこなんと座って駄々をこねてぐずる幼い頃の由香。

その視線の先にはウエディングドレスを着たお姉さんがなにやらニコニコと幸せそうに微笑みを浮かべている。


「私はこんなに悲しいのになにがそんなに嬉しいの、なんで・・?」

そんな想いでいっぱいだった。

ずっと指折り数えて待っていたこの日。

偶数月の月末の第四月曜日、それがお店の休業日。

近所の動物園に母が作ったお弁当を持って出かけるのが

二か月に一度の由香の唯一といっていい楽しみだった。
 

「仕方がないじゃない。あのお姉さんはね、ここで結婚式を挙げるのが夢だったんだから。わかってあげて、ね。動物園はいつでも行けるんだから。」

 

「わかんない、わかんない、わかんないっ!!」

 

「由香。。」

 

由香の泣き声が店内に響く。みるみる今日の主役の表情が変わっていく。

眩いばかりだった純白のウエディングドレスがみるみる色あせたものに見えてくる。

「由香」

 

・・・

 

「由香、いい子だから聞きなさい。。」

 

・・・

 


母の手には厨房から出されたばかりのオムライス。

それを由香の前にそっと置く。

そしてまるで子守唄を聞かせるように微笑み語りかける。


「いい由香
お母さんが教えておいてあげる。
世の中で一番いけないことはね、

悲しい顔でいることとお腹を空かしていること。
それだけわかっていれば由香は幸せでいられる。
ちゃんと生きていける」

・・・
 

母の顔を見上げる由香。六歳の子には少し難しい。
でも怒られているのではないことは分かっていた。

何故ならその顔は笑顔で一杯だったから。

「解らないわね。でも、これだけは分かって。あなたは一人じゃない。
大きくなっても、何があってもあなたにすずふり亭がある。

このオムライスがあるの。
ここでお腹一杯食べたら、あなたは幸せになれるのよ」

この頃から母は自分が長くないことをわかっていたらしい。だから...

「そうすればあなたはずっと一人じゃない。分かって、由香」

大きくなってから由香はその事情は聞いた。
母が死んで悲しみにくれるお通夜のことだった。


 



 

 

 

 

 

 

「あの時のオムライスだ、由香」

「・・・・」

「一人で寂しかったか?」

「・・・・」

「お腹空かしてなかったか?」

「・・・ ・・・・」

「とりあえずお腹一杯食べろ。話はそれからだ」

 

溢れる涙をその目に湛えたまま、オムライスを挟んでじっと堪える二人。

今までの長い時の流れを愛しむように沈黙の時間をそっと抱きしめる

重ぐるしいけどもそれは三人にとってとても大切な時間。

 

 

 

「ゆっくりでいいんだ、なくしたものを取り戻さないか俺たち?」

 

こらえていた涙がポタポタとテーブルの上に落ちた。

ケチャップとソースの香ばしい匂いがもう無防備になった由香の五感を刺激する

それは由香にとっては幸せの香り

何より自分と家族を結びつける唯一無二の薫り

 

「鈴子さんと買い物に行きたい、お父さんと映画見に行きたい」

 

口をもごもごさせながら絞り出すようなか細い涙声はあの日の由香のままだった。

 

 

 

玄関先ではヤスハルが大粒の涙をいっぱいこぼしながら懸命にお客さんを止めていた。

「ごめんなさい、今はダメです、取込み中で、はい、絶対ダメ!」

 

厨房にも人影が見えた。そっと覗き込む、みね子とヒデ。

「がんばれ、由香。しっかり、省吾さん」

 

みんなの想いが一つになったすずふり亭、幸せのまどろみにつつまれたそのひと時。

オムライスの黄金色は幸せの色、由香が口に運ぶと卵のとろりとした触感とケチャップの甘酸っぱい香りが口いっぱいに広がった。

 


「一番いけないことは悲しい顔と一人でいること、

そしてお腹を空かしていること。

だよな、由香」

省吾が目を真っ赤にしながらそう言って笑った。

 

「おかえり、由香」

誰の声だかはわからない、けれど由香にはそんな声が聞こえていた。

 

 

 




☆☆

 

 

 


おとうさん。

由香はもう大丈夫です。

周りのたくさんの笑顔とたくさんの涙が由香を強くしてくれたようです。

おとうさん、私達の由香はもう大丈夫です。
                           


                           みね子

 

 

 



 

 

 



☆☆☆







 

 


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