WEB小説 拡張された世界 〜第一章22〜
前方付随車両の拡張空間内・・・
♪ ♪ ♪ ・ ・ ・ ♪ ♪ ♪ ・ ・ ・
合図の音楽と共に、車両内放送が流れる・・・
「間も無く終着駅の0779ステーションエレベーター前に到着します。」
アナウンスと共に駅員に扮した俺(拡張プログラムの擬似映像である)が現れる。
「中富様、間も無く終着駅です。乗り換えのご準備は出来ていますか?右前方をご覧下さい!」
示した方向には、天まで延びるようなステーションエレベーターが映り、その先にはプレートが空を自由に行き来している景色が広がる。
「中富博士。あなたが提唱したフロンティアライン計画が実現した世界です。」
そう、この車窓から見える景色…拡張空間で見せている世界は、俺とアリスとで急いで作ったプログラムの世界である。この即興プログラムデータを拡張空間に流し込み、その拡張空間の基となったシステムAIに干渉すること(もしくは、対話すること)を『プログラムダイブ』と呼ぶ。
このプログラムダイブを使って、中富博士のAIと対話し、17式の暴走を止めるのが、本作戦の主要目的である。
即興で作った干渉プログラムなので、チグハグな部分もあるが、中富博士のフロンティアライン計画をかなり忠実に映像化させたプログラムだ。
「まさか…!」
中富博士の表情が変わる。いやっ、正確に言うと中富博士のAIに何かしらの干渉を与えた証拠だった。
「本来は上のプレートは見えなくさせるはずですが、ステーションエレベーター周辺はセキュリティの問題から見せるようにしています。むしろ、これだけの技術の結晶をステルスしてしまうなんて狂気の沙汰ですよー!」
「君は技術者かね…!であれば、もっと多方面からの視野について学びなさい。周辺社会、生活環境への影響など考慮して考えられた計画なのだよ!」
「いいえ!それは言い訳に過ぎません!技術によって解決出来る問題を予算の都合で折り合いを付けた妥協案に過ぎません。」
「君は!失礼だな!」
「いいえ!言わせてもらいます!」
…何故か、空間拡張世界の中で、俺と中富博士は口論を初めてしまった。
言い争いこそ、真のコミュニケーション!
まあ、ひとつ言えるのはプログラムに多大な影響を与えたのは間違いない!
「マスター!なんだか楽しそうです!」
アリスの一言で、俺は我に返る。本来の目的を忘れ、中富博士とのディベートに熱中してしまっていた。
「博士・・・博士のフロンティアラインに掛ける熱い気持ち、十二分にわかりました!」
「いやいや、君くらい意見をぶつけて来てくれる人は初めてだよ!楽しかった!」
「博士・・・そろそろ、この17式の暴走を止めてもらえませんか?」
俺は本題を切り出す。プログラムに干渉して、暴走を止める!
「私は技術者として、弾かれた人間だ。それがずっと不服で生きてきた。でも、今思えば、私は弱い人間だから、当然の結果なんだと思う。」
そう言いながら、中富博士はうつむく…。
「どういう事ですか?」
・・・中富博士が歩いてきた人生・・・そして、何故列車暴走事件を引き起こしたのかを話してくれる・・・先程、アリスが調べた情報通りだった。しかし、検索情報にはない出来事を話してくれる・・・
「・・・そういう事があって、フロンティアライン計画は頓挫し、私もオーグアーミーの駐屯基地に左遷された。それでも、夢は諦め切れず少しでも計画の足しになればと進めてきたが、妻は先に他界し、私も体を壊してしまった。そんな時に、私に生きた証を残さないかと言ってくる者がいたんだ。」
「えっ!!」
「私が死んだとしても、私が生きて夢見た証は残してくれると言われ、私は心の脆弱さから、お願いしますと承諾してしまったんだ。」
「ちょっと待って下さい!博士が電脳の一部を17式に移植したのは、博士の考えじゃなくて別の誰かって事ですか!?」
なんと言う事だろうか!今回の暴走事件の容疑者は中富博士のAIだか、暴走に至るまでを誘導させた第三者がいると言う事実が発覚する。
「誰に誘導されたんですか!?」
「それはわからない…と言うか、その部分はプログラムから既に消去されてしまっている。それに今走らせている17式の暴走は私の意思では止められなくなっている。加速プログラムが付けられている。」
「加速プログラム!?」
AIにおける電脳より優先される強行型プログラムを加速プログラムと呼ぶ。
「ちょっと待って下さい!アリス!博士のコアに接続して、加速プログラムの解除と消去されたデータの再構築は出来るか!?」
「はい、マスター!ケーブル接続で可能です!」
「博士!コアに接続させてもらえますか?」
「それはダメだ!コアに外部干渉が入るだけで、爆発するように設定されている。サルページは出来ない。だから、私のコア部分を焼き切ってくれ!お願いだ!」
「焼き切るって、そんな事をしたら・・・」
「もう、時間がないんだ!間も無く第17式機動装甲列車は爆発するように、これも加速プログラムが設定されている。」
走行が停止すれば爆発すると、ブライアさんがそう言ってが、もっと残酷なプログラムが設定されていたようだ。
「そのロボットで、私のコアだけを焼き切るんだ。そうすれば爆発させずに止められる!なんとか迎撃ミサイルが起動しないように、加速プログラムを押さえ込んでみせる!」
「ですが、博士・・・!」
「君!名前は・・・?」
「月ヶ瀬悟と言います。」
「悟くんか・・・たのむ!私を誘導させた者の正体は思い出せないが、その者は、人間と技術・・・人間とロボットとを引き離そうという意思が感じられる。」
「人間とロボット・・・とをですか?」
「君と君の横にいる彼女とをケンカさせよう・・・そんな感じだ。」
・・・人間とロボットとの関係性は色々とシビアな問題だ。今現在の世界は、ロボットであるリアースによって人間は統治されている世界だからだ。
「私や君は技術者だからわかると思うが、ロボットやテクノロジーに嫌悪感を抱くなんて皆無だ!」
「おっしゃる通りです!そこには夢や期待しかありません!」
「ああ、ありがとう、悟くん!君にお願いしたい!私の尻拭いをしてほしい・・・我々と技術との間を引き裂こうとする者を止めてほしい!」
「・・・博士・・・。」
中富博士は言葉こそ洒落めいていたが、表情は真剣だった。
「今世紀最高峰の技術者様の尻拭いが出来るなんて、こんな名誉な事はありません!」
「・・・悟くん・・・。」
「謹んで、お引き受け致します!俺とアリスの仲を引き裂こうとする奴なんて、ぶっ潰しますよ!!なあ、アリス!!」
「はい、マスター!! でも、マスターの言い寄り方が、少ししつこい所があるので、ちょっと距離をあけてもらえたら助かるかなーって・・・」
「おいっ!アリス!!」
・・・そうして、俺とアリスは再びエムズ(対犯罪者用戦闘重兵器車両EMZ-03 )に乗り込んだ。
狙うのは、暴走する17式のコア部分・・・中富博士のAIだ。