『名古屋 空手物語 ~怪物志願~ 』第34話


《1980年(昭和55年) 10月以降 昭和道場黒帯後輩 ビッグマグナム教師其のⅡ》


前回から教師っつあんの御話が始まりました。先回の最期デ語った様に此処からは「教師っつあん」の異名(私ダケの呼称)である「ビッグマグナム」を使って話を進めて行きましょう。
どうも、ビッグマグナムの愛称の方が、教師っつあんの実像を捉えている様に思えて仕方御座いません。


他にも私の胸の中ダケで使っている呼称ですが、此れまでにも登場した安吾先輩は「狂犬」、ブーは「ゾウアザラシ」、師宣は「番長」の方がしっくり来る気が致しますワ(苦笑)。
因みに陸自の事をブーは当時「タコ」と呼ンでましたナ。
ブーと陸自と私の3人で、当時流行っていたと申しましょうか先駆けとなったカラオケスナックに出掛けた時の事。其のスナックは、ブーが陰の相談役をしていると噂された名古屋の暴走族の特攻隊長をしていた実弟を持つ友人同級生の店でしタ。


其のお兄ちゃんの店で、兄弟の親父さんを一度だけチラッと観掛けましたが、トレンチコートを着込ンだダンディな親父さんでしたナ。
此の親父さん、或る弱小団体のヤクザに店へ踏み込まれた時、傍に居たブーに「此奴らは、大した事ないからお前の空手で事務所ゴト潰しても良いゾ!!」と云ってブーを煽ったらしいです(爆笑)。


我々も学生や無職で金持って無い連中の集まりだから、お兄ちゃんは能くツケで飲ませて呉れましたワ。ブーの連れで極真の黒帯指導員だからと丁重におもてなしして頂いてネ。
そんな店でカラオケを遣って居た時、ブーがたまたま「パープルタウン♪ パープルタウン♬」(八神純子の「パープルタウン 〜You Oughta Know By Now〜」)と熱唱していたのを陸自が茶々を入れました。
「お前の頭がパープルタウン♪ じゃろぅが」
「やかまひぃわぁ!!! 此のタコが!!」
此の日以降、陸自の呼び方が「タコ!!」に変わりましたとサ。


岐阜県が地元のビッグマグナムは、埼玉県大宮市の中学校に赴任した。現在では、さいたま市大宮区なのかナ!? 能く判らン…何ンでそんな遠くにと思われるカモ知れないが、当時名古屋の中学校に合格するのは難しかったらしい。
大体、愛知県で教職に就きたかったら愛教大(愛知教育大学)を出てないと、コネも使えなくて話にもならないと云われた時代だった。


無事にビッグマグナムの新任挨拶も済み、新しく赴任した新米教師達の為に教頭が歓迎会の場をセットして呉れた。
宴会では皆の酔いも進み教頭も良い心持ちになった処デ、得意のカラオケを唄い出す。皆が教頭の歌をヨイショする中、酔っ払ったビッグマグナムも立ち上がって手拍子を取り始めた。
教頭の苗字は「猪野(いの)」と云ったらしい。


ビッグマグナムは手拍子しながら、「イノ キ、其れ!! イノ キ、其れ!! イノキ、 猪木ボンバイエ!!! 猪木ボンバイエ!!!」と囃し立てテはしゃぎ回り、余り格闘技に詳しくない教頭から「何ンだネ、其れは!?」と冷静に突っ込まれて仕舞った。


ビッグマグナムの専門は「数学」だった。しかし、教員不足の学校では「社会科」も担当させられる。「地理」の授業時間にたまたま韓国の事が話題に出た。
「おぃ、○○!! 韓国の代表的なモンを一つ挙げてみろヤ」
「ええっと、材木かナァ・・・判りません」
「馬鹿野郎!!! 韓国ちゃあテコンドーだろぅがヨォ」
「へっ!? テ、テッ・・何ンですか???」
未だテコンドーなンて、我々空手関係者(然も実戦空手の極真の中でしか認知されていない格闘技)しか知らない時代だった。大体、極真の師範たちが初めてテコンドーの飛び後ろ回し蹴りを瞳にして、アレを避けられるンかと呟いてから何年も経過していない時である。


「テメぇら、本当にテコンドーを知らンのか・・・」
ビッグマグナムは、全員の机と椅子を後方へ移動させて黒板前に空間を創ると準備運動を始める。
「しょうがネェなぁ、お前ら。今から、観せたるワ」
少し嬉しソォで得意気なビッグマグナム。


松井章圭や緑健児ばりの飛び後ろ回し蹴りを教室内で放つ。
「能く観たか、此れがテコンドーの必殺技、飛び後ろ回し蹴りだゼ。試験に出すから、しっかり覚えとけヨ。ガッハッハッハハハ」


「数学科」と「社会科」を兼任しているとたまに間違う事態に遭遇する。
1階の教員室を出たビッグマグナムは、渡り廊下を通って別校舎へ入り3階の一番端に位置する教室へ辿り着いた。
教壇でさてと教科書を開こうとして「社会」の教科書なのに気付く。


生徒達の机の上に出されていたのは「数学」の教科書であった。


「うがぁあああ、数学だがヤ!! 間違ったゼ…何ンで社会の教科書を持って来チまったかナァ」
ビッグマグナムは、教壇の机を何度も丸めた社会科の教科書でブッ叩き怒りをぶつける。
「大体、俺に2教科も任せる学校が悪りぃンだゼェ!!! かぁああ、畜生…今から又、あの遠い職員室まで教科書を取りに戻るンかヨォ、チクショオおおおおおお」
もぅ、ボヤく事ボヤく事、怒りが更に新たな怒りの火を灯し際限が無いとは此の事だ。


何時まで経っても授業が始まらないから、前の席に座る気の弱ソォな生徒がオズオズと手を挙げて云った。
「あのォ~、先生。良かったらボクが教科書取って来ましょうか」
「何!? お前、取りに行って呉れンの。偉いネ、君ィは♥ 二学期の通信簿の数学は5ランクにしといてやるからナ」
眩いばかりのニコニコ笑顔に変わったビッグマグナムでした。


毎日、2~3名の教師が週間交替デ校門の前に立ち、遅刻した生徒を捕まえると云う業務があった。
生徒の中には、教師を振り切り閉ざされた校門や周辺を囲う鉄網の柵を乗り越えて強引に登校する者も居る。大体の教師は、そんな時生徒を見逃してやるモノだ。
ビッグマグナムは、何事にも本気を出し全力で取り組む。


鉄柵や校門を乗り越え様とした生徒を無理矢理引き摺り降ろし地面に叩き付けて血塗れにしながら初日ダケで43人の生徒を捕縛して仕舞った。普通、先生方が捕まえる遅刻者は、多くても日に4、5名である。多少の遅刻は、瞳を瞑り見逃して来た。
ビッグマグナムは、初日ダケで遅刻者の取り締まりの週番から外されたらしい。


三人の生徒が、ビッグマグナムの前に立たされ俯いている。ビッグマグナムは、教室中を見回し静かに告げる。
「シンナー吸っとったンは本当に此の三人ダケなンだナ…今なら正直に名乗り出りゃあ許したるゾ。後デ発覚したら、後悔する事になンぜ!!!」


後デ更に二人の生徒がバレて、ビッグマグナムにしっかりと後悔させられたソォである(苦笑)。


ビッグマグナムにボコボコにされた悪餓鬼の生徒同士が、深夜に電話で悪口を云い合っていたのを、片方の生徒の妹が訊いておりしっかりとノートに書き写して母親に渡した。
其のノートは、母親からビッグマグナムに手渡される事となった。ノートの中身を確認したビッグマグナムの額には、青筋が浮かびピクピクと痙攣していたと云う。
其の後、二人の悪餓鬼共がどンな運命を辿ったか定かではない。


今回は、此れぐらいデ・・・未だ々々、ビッグマグナム伝説は続きます。


【※此の作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、一切関係ありません】