side sakurai



この現代の世界で、様々な不思議な出来事が起きているとも
知らない、私と頼智様は相葉殿と住まいを移り住む為に
鎌倉の地へと向かっていた。

A「ゴメンね。ニノはちょっと忙しくてさ、今日は
 一緒にこっちには来れないんだ。でも、安心して。
 時々俺もニノも2人の様子見に来るから。」

我々の新しい住まいは、広い庭の付いた、
純和風の佇まいで、懐かしい畳の匂いが漂っていた。
何でも相葉殿の親しい友人なるお方が、住居として
使っておったそうだが、事情で住めなくなり
空き家にしておくのも物騒なので、住人となる者を
探しておられたらしい。

A「ここね、庭は家庭菜園してたらしいの。
 先生も、ここで何か植えて自給自足するといいかもよ。
 何もしないのは、退屈でしょ?
 俺、野菜の苗を買って来てあげるよ。
 何がいい?」

先生「おお、それは有難い。では、芋と大根、ネギ等は
   如何でしょうか?」

A「それは基本中の基本だね。分かった。直ぐ近くに
 ホームセンターが有ったから、そこで買ってくるよ。
 あ、あと、先生って料理は出来る?」

先生「いやぁ・・・私はそのような手解きを
   一度も受けたことがないのです。」

頼智「余は、吸い物や煮物程度ならば出来るぞ。」

先生「そ、そのような事を頼智様にやらせるわけには・・・」

頼智「この時代、余は将軍でも何でもあるまい。
   先生も、いい加減に余をそのように扱わなくても
   良いのだぞ。」

A「いいじゃん、頼智さんがそう言ってるんだもん。
 先生は、菜園担当ということで、役割を分担したら?」

先生「しかし・・・」

頼智「そう致そう。余が台所を受け持つゆえ・・・
   畑仕事を宜しく頼む。」

A「あ、それから、家電の使い方とかは、もう 
 俺は先生に教えたから、ある程度分かるよね?
 あとは買い物なんだけど、俺も毎日は通えないから、
 出来れば必要なものは、これから自分達で買いに行ってね。」

頼智「心配は要らぬ。買い物の仕方は和也に教わっておる。」

A「そう?それじゃあ、俺苗を買いに行ってくるから、
 二人は適当に部屋の掃除でもしといてね。」

先生「色々とかたじけない。」

A「何言ってんの?水臭いな。それじゃ、直ぐ戻るから。」


相葉殿はそう言って、買い出しに出て行ってしまわれた。
私と頼智様は、予め相葉殿が準備してくれた
着替えや生活用品等をそれぞれの部屋に運び
軽く家の中を掃除した。

頼智「しかし、誠に立派な屋敷であるの。
   城に比べれば小さい屋敷ではあるが、庶民の屋敷と
   考えれば、かなり立派なもの。
   相葉殿には数々の面倒を掛けてしまったな。
   何か礼をしたいと思うが、余の持ち出した貨幣では
   この時代、何の役にも立たぬゆえ、どうしたものよの。」

先生「まぁ、致し方御座いませぬ。相葉殿も事情を分かって
   下さってのこと。暫くは事を荒立てぬように、ここで
   静かに暮らしておくしかないでしょう。」

頼智「そうであるな・・・」

先生「頼智様?」

頼智「なんじゃ?」

先生「お寂しくは御座いませぬか?」

頼智「・・・和也のことか。」

先生「あれっきり、何のお話も出来ぬままでございますゆえ。」

頼智「余はもう、和也には会わぬと決めた。
   だから、其方ももう和也の話は・・・」

先生「まことにご立派に御座いますな。頼智様・・・」

頼智「其方が申しておった事、余は信じようと思っての。」

先生「私が申し上げたこと?」

頼智「この今の世に、余と瓜二つの人間が存在するのであれば
   元の世にも和也と瓜二つの人間が存在するやもしれん。
   其方はそう申したではないか?また何がきっかけで
   元の世に戻るやもしれんとも・・・
   余はその時をここで其方と静かに待とうと決心したのだ。
   むろん、このままこの世で生涯を終える事になっても
   余はやはり和也の幸せの邪魔だけはしてはならぬと
   思うておるのじゃ。ゆえに、和也も相葉殿も、これからは
   頼らぬようにして暮らしていかねばの。」

先生「頼智様・・・よう、申されました。
   私も出来る限り頼朝様にお尽くし致しますゆえ・・・」

頼智「んふふふ。尽くさぬとも良い。」

強がってはおられるが、頼智様がお寂しいのは
手に取るように分かる。
あれ程、和也殿との再会を喜んでおられただけに、
その寂しさを埋めて差し上げられるのは
この私では無い事も重々承知なのだが・・・
今は、そっと寄り添って差し上げる事しか出来ず、
現実と向き合いながら、ただここで生きていかねばと
私と頼智様は、今はその事を考える事に精一杯だった。




つづく










   
 
人気ブログランキング