政府に対し科学的、専門的立場から政策提言をする機関、学術会議の任命拒否問題。会議側が105人を推薦したのに対して6人が任命拒否され、定員210名のところが204名になってしまった。政府は違法ではない、不当ではない、というものの、学術会議法は定員210人(7条1項)と規定しているのだから、違法であるのは間違いがない。

違法とは認識していない(菅さん)というが

 これは足し算引き算の問題で、210−6=204だが、違法と認識できないというのは算数ができない首相ということになってしまう。

 その理由(?)なのか、過去にも人数が欠けたことがあった、という。被告人が、過去に捕まっていない犯罪者がいる、というようなものだ。全く理由になっていない。これが「丁寧に説明」(菅さん)ということだろうか。

 この、過去に欠けたことがあった、というのは病気やご年齢を理由として退任などされた場合であって、任命段階で欠けることは自分の知る限り初めて、とある学術会議の会員はいう。

 つまり、結果的に、210人に欠け、違法状態になることがあったとしても、最初から人為的に違法にしたことはない、ということである。

放置するつもり?

 あと3年ほうかむりすれば、なんとかごまかして次の改選で辻褄を合わせればよい、ということになるかもしれないが、次の改選も、「半数を任命」するのだから、105人しか任命できない(7条3項)。6年間ほうかむりする、ということだろうか。

 そうなると、学術の分野は多岐にわたっているから、その分野の専門家がいない、という事態が生ずる。国会議員が数人足りなくても、何かを決められないということはないかもしれないが、学術会議はそうではない。それとも学術会議の活動能力そのものを奪う目的なのだろうか。

デマ攻撃の目的

 自民党やその支援者たちは、学術会議自体が、中国に協力している、というデマを飛ばしたり、学士院会員になって一生左うちわ、などと全くの事実誤認報道を行っている。

 中国の軍事開発に、日本人が渡って簡単に参加できる、というほどセキュリティーが甘いはずがない。デマを流す意図も問題かもしれないが、国防がその程度のセキュリティーで行われている、という認識を持つような国会議員は小学生レベルの安全保障意識すら持たないということだろう。

 また、学士院云々という報道は、公共の電波で発言する資格のないレベルの人間を登場させるテレビ局の問題でもあるだろう。

 いずれにしてもいえることは、一言で行って煙たい存在なのだろう、学術会議自体潰してもいいようなレベルのものだから、今回のことは問題にしなくてよい、ということかもしれない。

気に食わないから違法でいい、わけはない

 学術会議について、いろいろ議論はあるだろう。だが、気に食わない存在だからといって、違法行為が許されるわけではない。解消するためには、何らかの方法で6人を任命しなければならない。その方法として学術会議法は、学術会議の推薦に基づいて、内閣が任命する、と書いているのだから、内閣が勝手に自分に都合のいい人をつれてきて任命することはできない。

 じゃあ、再度別の6人を推薦してもらって任命すれば、という手はあるが、再度の推薦という手続規定もない(補欠、を予定した規定はある)。つまり、原点に戻るが、学術会議の推薦をそのまま任命するしかないように法律自体ができている、ということなのだろう。

 つまり、任命拒否を撤回してこの6人を任命するしかない。これは意見や提案というより、法律がそういう仕組みになっているということである。

事前のすり合わせが・・・

 菅さんは、この問題は事前の協議やすり合わせがきちんと行われてなかった結果などと言い訳しているらしい。つまり、学術会議の推薦過程に内閣が当然関与すべきであった、ということなのだろう。このひとは、何を言っても墓穴をほってしまう。公務員は政府の家来とでも思っているのかもしれないが、会員の推薦は学術会議が行うとされており、「内閣と協議の上」推薦する、などと書かれているわけではない。三権分立の中でも政府から相対的に独立して職務を行う、独立した機関が存在することはおそらく小学生でも知っている。

 更に問題なのは、事前の協議があろうとなかろうと、やっていいことといけないことがある。他人のミス(おそらく前内閣だろう)で、準備に手抜かりがあったら、今回は中止するしかない。例えばイリュージョンで、アシスタントの準備が悪く、このままでは美女に剣が刺さってしまうと思ったら、中止するしかない。準備が悪かった結果刺してしまった、などと原因を説明してみても、無罪になるわけではない。