おしんこちゃんの学級日誌~聖山学園のある日 舞台裏・時永先生の個人的メモ | 想像の箱庭‐SHU_ZENの書き溜め小説

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全部まとめてフィクション、同じ世界観のファンタジー小説です!
毎週、週末にドカン!と更新しています。

本編が書きあがるまで息抜きの不定期連載番外編、
「おしんこちゃんの学級日誌」

今回は、そのまた番外編。

※注意※ 前作「世界創造××」とのリンク要素が非常に濃いので、
「えー、おしんこちゃんだけしか読んでないよー」
という方はとばしてくださっても構いません。


―――――――――――――――――



「もうちょっと、嫌いになってみたいんだ」
「……は?」
「勿論、好きにもなって、みたいんだ」



……聞こえたその声。
思わず奇妙な心地で耳をすます。


「……つまり人を知りたいの!」


……何故、「俺」はその言葉であの怪物を止めてしまったのだろう。

その言葉の主が、「あの」橘だということに気がついたから?
それともその言葉の内容が、興味深かったから?


「それを知らなきゃ、私は嫌いになれない。
それを知らなきゃ、ちゃんと好きにもなれない!
食わず嫌いなんて、一番嫌だ。
色々キリのいいとこまで知ってから……私は死にたい!!」



知りたい。
その気持ちにお前は突き動かされてきたのか。
知りたい。
それが理由か。お前が他とは違うのは。

お前は分類をしたいのか、橘。

……身の回りの雑多なものが、雑多なままでいるのが我慢できないのか。


「……」


知る。
嫌いになるために、好きになるために。

……俺は……どうだったろう……?

身の回りの全てが嫌いなのは、「知っている」から?
いや、特に……ろくに知りもしないような。

最初から、嫌いだったような。
いや、最初からだったか?

その前は?
そもそも「最初」とは、どこだ?

……少しだけ、なぜだろう。
「ひび割れた」気がした。

自分なりに丁寧に積み上げてきた感情に。日常に。
「杭」のようなものが撃ち込まれた。

……知りたいと思ったことが、はたして自分にあるだろうか?
知るということを、自分はしてきただろうか?

そもそも……知るって、どういうことだったろうか?


「……。」


……いや、何をしている。
ここまで見せたんだ。早く意識を刈り取れ。


自分の中で、少し高めの声が叫ぶ。
……そうだ、何をしてる。何を迷うことがある?

目の前のそれは、貴重な「サンプル」だ。
この内なる声が気に入った、俺がピンときた、そんな何かだ。

今度こそうまくいってほしいとは思う。
……この間連れて帰ったやつはすぐ死んでしまったから。
耐性も適正もあまりなかった。
そう、今ならまだ間に合う。誰も見ていない。

――攫うなら、拾うなら、今がちょうど――


「時永先生とか植苗くんとか、そういうすっごい変わった人たちのこと、もっと等身大に理解してみてから、死にたい」


――また、止めてしまった。

どうしたものか。
時永先生、と自分の名が出て。
……瞬間、あれを不思議と、狙う気が失せたのがわかった。

面白いやつだ。
変わった生徒がいるものだと入学時から気にしていた。

どれだけ小さく愚痴っても毒吐いて呟いても、殆ど拾ってしまう。
しかも頭もいい。察しもつく。

だから、逆にいうと「危険な子」だった。
いつかどうにかしなければと恐れてもいた。だが。


――「時永先生って、なんか、見てると典型的な『人嫌い』でしょ」


あの時、もしかしたらひとつ、何かがズレたのかもしれない。
見透かされて、同情されたのが分かった。
でも普通ならそこで怒りが生じるところを笑いかけられて……
内心、ホッとしたのもあった。

ああ、こいつは敵にならない。何故だかそう思ったのだ。

あの後起き上がって、目の前をころりと転んだカロリーメ◯トクッキーを見て。

あのズカズカ入り込んでくる帆園ほどではないが、こちらを見通そうとする存在なのは、なんとなく理解して……

怖かった。
怖かったが、同時に。


「……何を」


……何を、今更。


「……。」
「……アァァ」
「何をしているグレイブフィール」
「??」
「……そうか。待てと言ったのは私だったな」


微動だにしない、透明な怪物を前に……時永は一人呟いた。


「……橘」


橘真子。
もしかしたらいつか真実につきあたるかもしれない、察しの良さを持つ女子生徒。


「……。面白いやつだな。過去に一人の女が理解しきれなかったものが、今度は一人の少女に理解できるわけないだろう?」


察しがいい、出しゃばらない、何故か不思議とイラつかない。
……だが、何よりあの橘真子という生徒は……死ぬほどくだらない、純粋無垢な大馬鹿者だ。

時永はふう、と息をつく。

後にオカルト研究部内で嫌と言うほど噂になる、軟体動物じみたその透明な「タコ」を背に隠し。

何故そんな表情になったのか自分でも不思議ではあったのだが……苦笑いしながら今後の決断を下した。


「……馬鹿すぎて門番にもならん。グレイブフィールの餌にする価値もないな、あれは」



―――――――――――――――――――
※そうして彼女は、本編……
「世界創造××」への出演を回避したのでした。

……なんだかんだで時永に気に入られていたんですね、彼女は。


当おしんこちゃんシリーズのキャラクター紹介はこちらから!
前作「××」から引き継いでいる学校の設定等はこちら→聖山学園

このお話は連載終了した「××」と連載中の「コマ割」両方の前日譚としても楽しめるお話です。興味ある方はぜひ、今までのお話にも遊びに来てね!
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そして小説家になろうにて連載中の「世界創造××」のリメイク版はこちらにて公開を行っております!
「世界創造××~誰かが紡ぐ物語~」
数時間前ですが、第3部を連載開始しました。

名前も「結託編」となりブログ版から少し構成を変えていますが、中身のベースになっているのは「第3部・前編」と同じです。
「第3部・後編」はカウントが少しズレて「第4部・決別編」になる予定ですので、興味のある方は引き続きチェックしてみてくださいね!