「乳がん 無力感が予後に影響する。生き方と心の問題」ピンクリボンシンポジウム2018 | ポポ山に祈りを込めて

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ピンクリボンシンポジウム2018東京

保阪隆先生のお話をまとめてみました。


クローバーどう考えたら「乳がんになって良かった」と思えるのか?

①病気になった「原因」ではなく、「意味」を考える

②心的外傷は「ストレス障害」ではなく「成長」することもある

③病気をキッカケに「第二の人生」が始まる



「がんで困ったときに開く本2019」週刊朝日ムック 朝日新聞出版; 2019年版 (2018/8/7)

(この本は3年に一度改訂)


今回初めてステージⅣの生存率が出ていました。乳がん患者たちの5年生存率が非常に高いのと、ステージⅣになっても5年生存率が37.1%ということに非常に驚きました。この結果は2007~2009年なので10年経った今はもっと高くなっていることを期待しています。(データは10年経たないと出ないため)

【乳がん生存率↑上の数値(女性のみ)】
▼ステージI:100.0%(同増減なし)▼ステージII:96.0%(同0.4ポイント向上)▼ステージIII:80.8%(同1.8ポイント低下)▼ステージIV:37.1%(同2.2ポイント向上)


クローバー患者さんのほとんどが、乳がんになった原因について考えたり悩んだりしています。←これはちょっと間違っています。


なぜかというと、例えば、

食べものが悪かったのだろうか?

悪いことをした罰として病気になったのだろうか?

こんな体に産んだ親が憎らしいなど、こういった原因探しをするのですが、何の意味もありません。


乳がんというのは遺伝、生活習慣、食べ物を含めた全てが関係している多因子疾患ですから原因はまずわからないので、考えても仕方がないと思ってください。


患者さんには乳がんになった原因ではなく、「意味」を探そうよと話します。僕自身は初診開始30分の段階で、この人が病気になった意味はたぶんこうだろうとわかってしまうのですが、あえてそれは明かさないで患者さんが自分で気づくようなことをしています。


こういう質問をします。

クローバー乳がんになったことで、「今、自分になにを教えようとしているのか?」

例えばご先祖様が、

「乳がんになったときに自分に何を教えてくれるのか?」

「乳がんになったことから今自分はなにを学べばいいかと言われているのか?」 

「乳がんになったことによっていかに成長せよと言われているのか?」

ということの意味合いに気づいてほしいです。


この自分の意味合いを探すのも結局は患者さん自身の解釈量で、自分が今この時期になぜ乳がんになったのか、理由を是非考えていただきたいと思います。


ある人は、仕事ばかりやっていて、「立ち止まって健康価値を考える」という意味だったと考える人もいれば、乳がんになった看護師さんは、「乳がん患者さんの心理をもっとよく理解できるように自分が乳がんになったのかもしれません」と話す人もいました。


あとは「夫婦関係を改善せよ」という意味なのか、乳がんになったことによって初めて、いつも帰りが遅かった夫が早く帰るようになったり、病気について話し合うようになったり、今後のことを夫婦で話し合うようになったりと、せっかく病気になったのだからこれを題材にしながら、なにか意味を探して皆成長していかなければいけないのだろうと思います。


クローバー「がんになってよかったこともある」

医学用語的ではベネフィット・ファインディング(Benefit finding) 論文もたくさん出ています。

>苦しみを経験することでそれまではなんともないと思っていた出来事に意味と価値を見出す過程をいう。


「がんになって自分で悪かったこと、よかったこと、どんなことを失ったのか」というリストを作成し、患者さんに目の前で書いてもらいます。


がんになって、①悪かったこと ②失ったこと ③失ったもの


共通して言えることは、

仕事にいけなくなりました。

経済的に不安になりました。  

乳房を失いました。  

女性ではなくなったみたいだ。  

温泉に行けなくなった。

お洒落に関心がなくなりました。

患者さんは書いていくうちに書くことが止まってしまいます。


それでは次に、

がんになってよかったこと、得たこと、それについて書いてくださいと話します。


休息が取れるようになった。

これまで働き過ぎていた。  

健康の価値がよくわかった。

家族の大切さがわかった。  

友人の中でも大切な友人が誰かわかってきた。

空気の美味しさがわかった。  

家族の食事にも気を遣うようになった。

ありがたいな~と感謝することが多くなった。

結果、ほぼ100%が、よかったことのほうが多くなります。


不思議なことに、乳がんの告知3ヶ月後から↑こういう風になってきます。

得たものに気づきプラスに考えられるようになるまで3ヶ月かかってしまう。


なぜ人は3ヶ月かかってしまうのか?

心理学の医学用語 レジリエンス(resilience回復力、バネのように跳ね返す力)


人間の心にはレジリエンスという機能があり、人によって強さ弱さが違うけれど、そのバネが効くまではどうしても3ヶ月間位は必要だと思うようになりました。


もう一つの考えかたがあります。

東日本大震災の後に、PTSD(Post- Traumatic Stress Disorder心的外傷後ストレス障害)とよくいわれましたが、PTG(Post Traumatic Growth 心的外傷後成長)というのがあります。


がんの告知を受けた→ 心に傷がつく(PTSD) →これをきっかけに成長することもある。(衝撃的な出来事があると、危機的な出来事、困難な経験との精神的なもがき、闘いの結果生じるポジティブな心理的受容の体験)

人に対しての思いやり

新しい道筋がわかった

自分への自信

宗教(哲学)の大切さ

いのちの大切さ

人生に対する感謝

こういうものがやがて出てくるといわれています。ここに向かって患者さんたちは進んでいく。


そのときの問題は、

「死が怖い」 「再発・転移が怖い」とほとんどすべての患者さんが言います。


患者さんに、

「それでは何歳まで生きたいですか?何歳まで生きれば満足ですか?」と聞くと、大抵の方は答えられなくなる。ある人は80歳の平均寿命を言うし、ある人は74歳という健康寿命のことも言います。


クローバー「何歳まではぜったいに自分が生きなければいけないという理由や目標を明確にする」


例えば、

TOKYOオリンピックはぜったいこの目で観たい。

ある種目の決勝にはぜったいに観に行きたい。

息子が結婚するのを見届けたい。

娘のところに孫が生まれるのを見たい。

孫が成人するのを見届けたい。というように、物凄く具体的なことまで考えるようにする。


これによってハードルが低くなり目標が明確になる。


皆さんは平均寿命までは生きなければとか、健康寿命まではぜったいに自立しなければいけないなど、どこかにそういう思いがあるのかもしれないけれど、そこまで生きてなにをしたいのか?どうしたいのか?ということを考えたほうがいいです。


個人的なことを言うと、孫が何年か前に生まれたときに、いろいろ考えてみると、孫まで生まれてしまうと人生のメニューがほとんどなくなってしまった。これからあるのは近親者が亡くなっていくのを見届けるようなことしか残っていない。このように、人生の目標や、生きなければいけない理由というのは皆が考えなければいけないと思います。


クローバー「がんをやっつけるモードはダメビックリマーク


1979年に、ファイティングスピリットをもつ人の10年後の生存率が一番良かった。絶望的になる人は一番早く亡くなる、という調査結果が出ました。そのため、1980年、1990年代のがん診療の現場では、気が弱くなった患者さんを励まして、「がんに負けてはダメじゃない!」と話す医療だった。


ところが、この発表をした方が定年退職された後に、彼のお弟子さん達が再解析をしたところ、1979年のデータとは違う結果になった。一つだけ再確認されたことは、悲観や絶望は再発率を高めて生存率を下げているということはデータ分析が正しかったということはわかったけれど、決してファイティングスピリットをもっている人が長生きするということはなかったということを明らかにしました。


ここで大事なことは、抑鬱的になっていたりウツ病になっていると、やはり予後が悪いというのは事実なようです。


最近メソメソする、外出できなくなった、元気がなくなったという時には、必ず聖路加国際病院の前の保阪サイコオンコロジークリニックに来てください(笑)ウツではないと言われたらそれはラッキーですけれど、もしウツだとしたら治してしまったほうがいいです。


クローバー「本当にがんには負けないファイティング・スピリットの意味はあるのか?」


578人のステージⅠ、Ⅱの乳がん患者さんに告知してから1~3ヶ月で心理テストをして10年間新しいデータを出しました。それによると、

・無力感だけが予後に影響していたということがわかった。

楽しそうにしている人が長生きするわけではない。無力感だけが予後を悪くしていた。

自分で自分を励ますことができない。

人生は絶望的だ、自分ではなにもできない。

将来に希望がもてない。諦めたい気分である。

どうしたらよいのか途方にくれている。 ←このスコアが高い人たちが早く亡くなることがわかった。

やはりこの無力感やウツっぽい感じというのは十分に注意をしていただきたいと思います。


クローバー「がんばるぞ という闘争心について」


闘争心が本当に良いのか悪いのかを考える。

キャノン(Walter Bradford Cannon)という生理学者が、闘争心を2つに分けた。

「人間が怖いものに出会った場合、戦うか?あるいは逃げるか?」


恐怖などのストレスの刺激が現われると、アドレナリンやコルチゾール(ストレスホルモン)が放出されることがわかっていて、がんになんか負けないぞという態度だと、免疫機能が逆に低下するということがわかっています。これは副腎皮質から出ていてコルチゾールが免疫機能を低下させているので、やはりあまり気合をもっているのは良くないのではという風に思います。


クローバー「がんが自然に治る生き方」ケリーターナー この本はMUST本です。

これはみなさんが読まなければいけない本です。(保阪先生のブログでも読めるそうです)

医者が匙を投げた患者さんで、あとはもう自分で勝手に代替療法をやってくださいと言われるような状態の人が、ある治療法を自分で取り入れたら、奇跡的にガンが消えてしまって、主治医のところに挨拶に行ったら、その医師はもう死んだのかと思っていたとビックリしたそうです。医師はその人たちのことをちゃんと医学論文に提出してみんなが読める形になったところを、ケリー・ターナーさんという大学院生(博士。腫瘍内科学領域の研究者)が1500件の奇跡的な治癒をした人を集めて調べてみたら、やはり「負けないぞ」というのはあまりよくなくて、「喜びや愛」を感じた治癒モードになっている人のほうが予後が良いことがわかりました。


本の内容は、

食事とサプリを除く7項目は自分で治療方針を決める。

たましいと深く繋がる。

人の愛を受け入れるなど、

治療法は「生き方の問題だけだった」ということらしいので、ぜひ読んでいただきたいと思います。

「がんが自然に治る生き方」 余命宣告から「劇的な寛解」に至った人たちが実践している9つのこと

ケリー・ターナー 出版社・プレジデント社 2014/11/13

Amazonから。

ニューヨーク・タイムズ・ベストセラーとなった話題の書。治癒不能といわれたガンが自然治癒する現象が、実際の医療現場で話題になることはまずない。しかし筆者が目を通した1000本以上の医学論文において、ガンが自然に治癒した事例を報告していた。 こうしたケースが科学的研究対象となってこなかった医療サイドの理由として、
1)医師は治すのが仕事なので、治った患者には関心がない
2)たまたま治った人のケースを他の患者に話しても「偽りの希望」を与えるだけである、などを著者は挙げる。

ガンの自然治癒は、どんな状況で、どのような人々に起きているのか。
全く科学的にメスを入れられていないこのテーマを解明するために、 「劇的な寛解」事例を報告した1000本以上の医学論文を分析し、日本を含む世界10カ国で寛解者と治療者100人以上にインタビューを行った。 その結果、ガンの自然治癒を体験した人々には、「9つの共通する実践事項」があった。 9項目それぞれについて、実在に自然治癒を経験した人々の語りを元に筆者が解説。具体的な実践方法も各章ごとに記している。


クローバー「オキシトシンについて」

さきほど話した愛や喜びなどの治癒モードになると、オキシトシンという物質が出てきます。


オキシトシンは愛情ホルモンといわれていて、

人との親近感や信頼感が増し、

ストレスが消えて免疫力が高まり幸福感を得たり、

安らぎや結びつきシステムの活性化作用があります。


オキシトシンが出るときというのは、

スキンシップやハグをしたとき、

マッサージ、タッチ、ぬくもり

良好な人間関係

少量のアルコール

祈り (祈っていると自分の免疫が上がることがわかっている。なぜかというとオキシトシンだから。しかし、自分のためだけを祈っているとアドレナリンが増えて血圧が高くなったりするので、家族の幸福、他人の幸福、健康、社会平和のような、他人のために祈ることがとても重要です


「乳がん患者さんすべてが元気になりますように」 

これを1日3回 お祈りをしましょう。それが自分に返ってきます。


クローバー「物の見方を変えるという方法」

たとえば、コップに水が半分入っていたとします。

ある人は、「半分しか残っていない、ついてないな」と言う人もいれば、

同じ半分なのに、「半分も残っている、良かった」という見方もできるわけです。


同じ事象に対して考え方が違う。


乳がんの患者さんに、「乳がんでよかったじゃない」、「よかったねこの段階で見つかって」と満面の笑みを浮かべて言うとみなさん不快感を持つ方がいらっしゃると思いますが(笑)、やがてこれが受け入れられる。


これが乳がん以外の他のがんだったらもっと大変なことになっています。(お腹に癒着するような手術を受けなければいけなかったりなど)


約1年間、必死に治療が終わる頃に、患者さんの多くは今後の治療計画の修正案を自ら決めるようです。

仕事を辞める人もいれば、仕事を続けながらも新しい自分流の生活を目指す人もいます。


まさに、病気をきっかけに第2の人生が始まります。


このように、乳がんになってから2年以上が経過すると、多くの乳がん患者さんは

1年ぐらいで変わってきて、2年ぐらいで本当に変わってきます。


実際に乳がんになってよかったと言っている患者さんのお話↓


チューリップ黄「私は乳がんになって本当によかったと思っています。夫との離婚の直後に乳がんになりました。ターニングポイントを与えてくれた感じです。職場でも開示しています。銭湯で下町のおばちゃん達がぐるりと私を取り囲んでくれて、体験談を教えてくれと言われ、がんばりな!と言われました。乳がんにならなければ会えなかった人がたくさん周囲にいます。」


チューリップ赤「私も乳がんになってよかったと思います。自分を含め他の患者さんにも会うことができました。世の中には弱い人がいることをわかり、前よりも人間として優しくなった気がします。病期にならなければ先生や看護師さんとも会えなかったです。」


チューリップピンク「私も乳がんになってよかったと思います。上昇志向が強かったので、最初は男性に負けないくらいパワフルな生活をしていました。夫は専業主婦になってくれと言っていたので、すぐに仕事を辞める決心をつけました。それに実家との関係も修復されました。子どもがいないので夫と軽井沢に移住します。母を引き取ってカフェを開こうと思っています。」


チューリップオレンジ「私も乳がんになってよかったと思います。とくに再発してからそう思えるようになりました。乳がんといわれて、手術、抗がん剤の頃は夫のせいで乳がんになったと思い恨んでいました。けれども再発してから「死」が実感できたんです。幸い今は落ち着いていますが、それ以来、毎日生きていることに感謝しています。人間としてすっかり変わることができました。」←この方はホルモン療法だけで肺と骨の転移が消えてしまって、今は2年以上経つのですがとても元気で明るい人生を送っています。


この時期に自分の人生の中でなぜがんになったのか良い機会だと思えるようになった人は、非常に穏やかな生活に変わっていきます。この言い方はトゲのある言い方かもしれませんが、「せっかくがんになったんだから」とよく患者さんに言いますが、せっかくがんになったのだから、この教材をうまく利用してください。ある時は苦しい治療を受けたりしてもいいでしょう。ある時には、友人の優しさに涙したり、木々の緑がこんなにも美しかったのかと感動することなど出来るようになる。即ち、人生そのものを味わう良い機会だと思える人は長生きしています。


書籍『がんでも長生き こころのメソッド』 『がんでも長生きする「心」の共通点』など、これを読んでクリニックに来てくださる方もいらっしゃいます。なにかの参考になればと思います。


クローバー保阪隆先生(慶応大学医学部卒業)について詳しくはこちらです

→ 保阪サイコオンコロジー・クリニック HOSAKA Psycho-Oncology-Clinic

がん患者さんとご家族のための心のケア専門クリニック

Tel 03-6264-1791 完全予約制


以上です。ありがとうございました。

修正箇所は後日更新します。