バスでの出来事。50代ぐらいの女性が、停留所で降りる直前に「一万円札しか持っていない」と運転士へ言った。私はバスの両替機に詳しくないが、この会社のバスでは、両替できるのが五千円札までだ。よくこのバスに乗る私はそのことを知っていたが、女性は乗り慣れていないのだろう、平然と主張した。どうやら納得いかないようだ。その態度にカチンときたのか定かではないが、運転士はつぶやくようにこう言った。

「何で、今ごろ。」

私は、運転士はとにかく困っているのだと感じた。女性は、運転士の言葉に不機嫌そうな顔で黙っている。すぐに、「一万円札を両替できるお客様はいませんか」というアナウンスがあったが、あいにく乗客の誰からも手が挙がらなかった。

困った運転士は、「あそこの売店で両替してきてください」と女性を促した。女性は駅の中の売店へ行きたがったが、「あっちの方が近いから」と運転士が場所を指示したので、そこへ歩いて向かった。

―急がないんだなぁ―

私はそんな風に思いながら、ぼんやりその様子を見ていた。

しばらくして女性が戻ってきた。「断られた。最初に自分が行こうと思っていた駅の方の売店へ行ってくる。」と、運転士に言う。あなたが指示した方の売店はハズレでしたよというメッセージが隠されている、険のある言い方だ。相変わらず急ごうとはしていない。業を煮やした運転士は、女性へこう言った。

「お客さん待ってるんだから、急いでよ」

女性は振り返って運転士を睨んだが、歩いて駅の売店へ向かった。

その時、私はお財布の中に乗車優待券(無料チケット)が入ってることを思い出した。私自身は定期を使っている。

―もし、どうにもならなかったらあげてもいいかな―

と、女性が戻ってきた。またしても、「断られた」と言うではないか。なぜ、ガムの一つでも買ってお金を崩さないのか。両替だから断られるのだ。時計を見ると、すでに停留所に待機して15分程度経っていたので、私はここら辺がリミットだなと感じた。

「よかったら、このチケット使いませんか。

全線乗れるものなので(これで降りれますよ。)」

すると、女性は私を見てこう切り返してきた。

「何で、今ごろ?」

 

最終的に、女性は歩いて別の売店へ向かった。3度目の正直で女性は小銭を手にした。その後、無言で、でもとても乱暴にお金を投げ入れ、バスを降りて行った。

 

本日のテーマ曲:ザ・フォーク・クルセダーズ「悲しくてやりきれない」

悲しくて 悲しくて 

とてもやりきれない

このやるせない モヤモヤを

だれかに告げようか

―ブログがあって、良かった。