王様は、岐伯の顔をじっと見ると、言いました。
「そうだ、すまない。
たしかに、私は、知っていることを聞いていた。
私は、岐伯に聞いて、
病の人は、顔色と脈を見るのだと知っていたのに、
母上が急に、痛いと言いだした時、
何もかも忘れてしまって、何もできなかった。
病の者の話を聞くこと、
病の者の顔色を見ること、
病の者の脈を、手で触ること、
これらのことを、これからもっと、自分が経験して、ためして、まとめて、
分からないという医者が、分かるように、
迷っている医者が、迷うことが無いようにしたいと、強く思ったのだ。」
王様は、目の前で苦しむ王太后に、何もできなかったことに
少なからず、ショックを受けていたのでした。
「私は、以前から考えていたのだ。
世界の道理を理解してた上古聖人は、
人にそれを当てはめて試して、全てが合っていることを見つけた。(王様と色17)
歴代の王達は、昔のことをよく知って、その時代に当てはめて、国を治めた。
そして、岐伯のように、
人の体についてよく説明できる人は、
自分の考えがしっかりとあって、迷うことが無い。(あやしい方士6)
これらに共通しているのは、
道理を理解して、道理にとらわれず、
その法則を極めたところを、まとめて、明らかにしていることだ。
それなのに、私は、まだまだそれには及ばない。
私は、王様として、世界の全てを理解し、国を導かねばならないのに。」
王様の話に、
岐伯は深く感心して、いつもよりもっと深いお辞儀をして言いました。
「王様は、すでに、すばらしい王様ですが、
全てを理解されるころには、さらに偉大な王様となられるでしょう。
私がお話しできることは、全て王様にお伝えします。
ですから、王様は、私に何でも聞いてください。」