父の暮らすホームへ週に1度、面会に行く。
足りないものはないか、
困っていることはないかを尋ね、
何も変わりがないことを確認して帰ってくる。
毎週、行くたびに父は私に聞く。
「ここまでどうやって来たの?」
と。
「自転車だよ。」と私は答える。
父は
「何分くらいかかるの?」と聞く。
私は黙って3本、指を立てる。
すると
「3分?」と聞く父。
ううんと首を振る私。
「30分?」
と聞き直す父。
「そう、30分。」
と私。
「そう、自転車で30分もかけて来てくれてるの。
 世話かけて悪いね」
と父。
「そんな事ないよ。ちょうどいい運動になるから助かってるよ」
と私は答える。

毎回お決まりのやり取り。

1,2分すると父はまた私に聞く。
「ここまでどうやって来たの?」
と。
今しがたと全く同じ会話のやり取りが
もう一度繰り返される。
父の同じ質問に私はまた同じように答える。
最後に
「世話かけるね」と必ず言う父に
「そんな事ないよ、いい運動だよ」
と私も必ず答える。

また数分後、
「かえで、ここまでどうやって来たの?」
と父は聞く。
私はもう一度
「自転車だよ」と言う。
すると
「何分くらいかかるの?」と聞くので
私は笑いながら黙って3本指を立てる。
すると
「30分もかかるのかー!」と父は大袈裟に驚く。
そして、最後にこう言う。
「でも、運動不足の解消になるから
 ちょうどいいんじゃない?(^_-)-☆」と。

全く同じ会話を繰り返している様に見えるが
少しづつ、父なりに記憶を重ねていることが分かる。
3本指は3分ではなく30分のこと、
その距離は大変な距離ではなく「いい運動」になる距離だということ、
少しづつだが、父はちゃんと会話を記憶できている。

とは言え、
次に私が行くときにはまた同じ会話の繰り返しなのだが( *´艸`)

父の記憶の積み重ね方は
速乾性のペンキを塗る作業に似ている。
塗った瞬間は色鮮やかに着色するが
ペンキはすぐに乾いて、ひらひらと剥がれ落ちる。
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赤色、青色、黄色、緑色、ピンク…様々な色を塗ってみる。
塗ったそばからペンキは乾いてどんどん剥がれていく。
けれど、時々、ほんの少しだけ
剥がれずにその場に踏みとどまるペンキの色がある。

1色でいい。
少しだけでもいい。
私はその剥がれにくいペンキの色を見つけた時に
嬉しくなるのだ。

 
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