続き

 

直後に鳥肌に覆われた僕は、汗だくで目が覚めた。

僕は周りを見回す。窓から射し込む柔らかな日差しとは裏腹に、寒い昼下がりだった。

…何だ…今の夢は…

妙に生々しく、身の毛の弥立つ夢だった。
 
普通の夢なら、すぐに忘れてしまうのだが、この夢は違う…。

…あれは本当に夢なのか…?

両腕に立つ鳥肌、僕には今の夢は只の夢では無い、と確信できる理由があった。

僕は事細かく覚えている今の夢を、もう一度思い出してみる。

あの夢で違和感があるとすれば、まず僕が母と認識していた女性に、僕は面識が無い。

 

全く知らない女性だった。

そして終わり方だ…。

 

轟音と暗転…。トラックの影…。

 

つまりあのバスはあの時に事故に遭ったのだと考えられる。

…つまり…夢の中で僕は…事故に遭ったのか…

だがその後、暗転してから微かに聞こえたあの女性の声。



「シーツを取り替えましょうね」

まるで介護が必要な老人に対して掛ける言葉のようだ…。または…意識の無い重病人…、または長期に渡り植物状態の人間に対して…。

…夢の中の僕は、あの時に事故に遭い…、それ以降は植物状態のまま、病院のベッドに寝たきりになった…?

嫌な想像にブルブルと体が震えた…。



「また先生になる夢を見たの?」

あの女性は確かにそう言った。

 

『また』と言ったのだ。

 

 

つまり僕は、夢の中の設定では何度も『先生になる夢』を見ているのだ。

僕はあの時に、今の自分について話した筈だ。

 

つまり『先生になる夢』の『先生』とは今、これを書いている僕に他ならない。

最後に、あれが只の夢では無いと確信できる理由だ。

 

僕はあの夢を、違った形で何度も見ていたのだ。

あの水車に見覚えがある事も、それで説明が付く。

あの水車の奥には山頂に続く小さな小道がある。山頂付近には小さな村…、か集落がある。

 

そこは小さいがらも活気があり、皆が生気に溢れている。

…僕は聞いたのだ。

あのトラックが見えた直後、最後のバスのアナウンスを…。

「次は~夢見峠」

…僕は何度も既出の、あの夢見峠に向かっていたのだ。

いつもの夢見峠の夢とは大きく違っているが…。

…だが…この夢と、今までに見た『夢見峠』に関するそれを考慮に入れて、ある仮説を立てると、今回の夢は、僕にとって極上の恐怖に変わる。

今までに見た『夢見峠』の夢は、その全てが「夢見峠に行ってはいけない」という警告じみたものばかりだった。

それはそうだろう。僕は『夢見峠』に行く途中で事故に遭ったのだから…。

夢の最後に聞こえた声は…前述した通り、看護師からのものだと仮定する。

そしてあの女性の言葉から、僕は何度も先生になる夢を見ていた。

繋ぎ合わせると…

今の僕こそ…事故に遭い、植物状態になった僕が…、病院のベッドで見続けている…夢の中の存在…。

過去にも何度も書いた『反魂回帰』にしろ、『笑い女』や『旧校舎の神隠し』の時にしろ、僕には辻褄の合わない事が、無理矢理調整されるような経験がよくある…。

それはそうだろう。

 

だってこの現実は僕の見ている長い長いだから。

考えた事がありますか?これを読むあなたも僕の頭の中で創られた存在かも知れません。ならばあなたに起こった不幸は僕が創ったものという事になります。申し訳ありません。






暖かい陽射しの中、僕は今日も仕事に向かう。

生徒たちは、どんな話を聞かせてくれるだろうと胸躍らせながら…。


凍える夜は、早めに床に着く。

暖かな毛皮の幸せを身体中に感じながら…。



僕は今日もバイクに揺られる。

いつ目覚めるのかと怯えながら…。