痛風ってどんな病気?

Vol.40 「痛風」の怖さを知っていますか?痛風は、名前が知られているわりには、どんな病気かよく知らない人が多いようです。自覚症状がほとんどないため、病名の由来である「風に吹かれただけでも痛む」ほどの激痛に見舞われ、初めて痛風について関心をもつ人が大半です。
ところが現在、成人男性の5人に1人は痛風予備軍といわれるほど増えていて、決して人ごとではありません。しかも、従来は中高年の男性に多かった病気ですが、最近は食生活の変化に伴って20~30歳代の若い男性にも目立ってきています(※1)。
痛風の直接の原因は、血液中の老廃物のひとつである「尿酸」です。尿酸が一定量以上に増えると、その結晶が関節部分に蓄積し、やがて炎症と激しい痛みを引き起こします。
痛みが起こる場所は、足の親指の付け根が最も多く、全体の約7割を占めています。そのほか、足首、くるぶし、ひざ、耳などにもみられます。
突然の激痛におそわれることが多いのですが、人によっては軽い関節痛程度のこともあります。また、1週間程度で痛みが治まるので、とりあえず湿布薬などでしのぎ、そのまま放置する例も少なくありません。
ところが原因である尿酸の多い状態が続く限り、痛みは繰り返されます。そればかりか、関節部分が腫れてコブ状になったり、尿路結石や腎臓障害を起こしやすくもなります。
さらに痛風は、高血圧や高脂血症、糖尿病などとも関係が深いことが判明し、注目されています。それだけに健康診断などで、尿酸値が高いと言われたら、早めに予防策を講じておくことが大切です。
ちなみに、尿酸値が7mg/dl以上を「高尿酸血症」といい、激痛などの発作が加わった場合を「痛風」と呼んでいます。

 

(※1)痛風は、男性100人に対して女性1~2人という割合で、圧倒的に男性に多い病気です。その理由は判明していませんが、女性ホルモンに尿酸を排泄する働きがあるためではないかと考えられています。そのため女性でも、更年期以降には注意が必要です。

気を付けたい痛風の合併症

痛風と、その前段階である高尿酸血症を放置していると、高血圧や高脂血症、糖尿病など、多くの生活習慣病を併発しやすいことがわかってきました。
痛風の患者さんのうち、半数は高血圧を、半数は高脂血症を併発しています(高血圧と高脂血症の両方を併発している人も含む)。
また糖尿病の場合は、予備軍段階(耐糖能障害)の人に、痛風を併発する人が多くみられます。これは糖尿病の段階まで進むと、尿糖を排出するために尿の量が増え、その結果、尿酸も一緒に排出されやすいからです。したがってむしろ予備軍段階で、注意が必要といえます。
いずれにせよ、これらのことから痛風や高尿酸血症が、いかに多くの生活習慣病と密接な関係にあるかがわかります(※2)。
これらの病気に共通するキーワード、それは「動脈硬化」です。
例えば痛風と高血圧を比べると、前者は血液中に尿酸が増え、後者は血液の圧力が高まることによって生じます。どちらも血管に大きな負担を与え、その状態が続くと血管機能の低下、つまり動脈硬化へと進むからです。
実際に痛風や高尿酸血症を放置していると、高血圧などを併発するだけでなく、動脈硬化を起こし、さらには心筋梗塞や脳梗塞などの危険な病気へと進みやすいことが指摘されています。

 

(※2)メタボリックシンドロームとの関連は、まだ明確にされていませんが、痛風の患者さんには肥満気味の人が多く、また高血圧や高脂血症、耐糖能障害を併発しやすい点でも、リスクが高いといえます。

プリン体への誤解

尿酸といえば、すぐに「プリン体」のことを連想する人も多いのではないでしょうか。プリン体は、食品に含まれる物質で、体内で尿酸に変わります。
「プリン体を多く含む食品をとると尿酸値が上がる」…そんな話が一時、マスコミをにぎわせました。プリン体が多い食品の代表としてビールが取り上げられ、それならばと、発泡酒や焼酎に代えた人もたくさんいたはずです。ビール会社でも、プリン体を減らしたビールを開発したりしました。
しかし、プリン体については誤解が少なくありません。
プリン体は、細胞の核酸を構成する物質で、決して悪者ではなく、新しい細胞をつくるときには欠かすことができません。そのためプリン体のほとんどは、食品からとるのではなく、体内で合成されています(※3)。そして体内で代謝され、尿酸となります。
では、食べ物は関係ないのでしょうか。実際にプリン体を多く含む飲食物を毎日大量にとっていると、確実に尿酸値は上がります。例えばビールを毎日がぶ飲みし、レバー類ばかり食べるようなケースです(下記参照)。
でも、そんな食事を続ける人は、あまりいないでしょう。むしろ問題は、毎日の普通の食事における食べすぎや飲みすぎなのです。
というのも、プリン体はレバー類などに限らず、肉類をはじめ多くの食品に含まれています。どんなメニューであっても、たくさん食べれば、それだけ尿酸は増えます。
またビールに限らず、アルコールそのものが体内で尿酸を大量につくります。さらにアルコールは、腎臓の尿酸排泄機能を低下させるため、ビール以外の酒類でもたくさん飲むと尿酸値が高くなってしまうのです。
そのため最近では、特定の食品にだけ注意するのではなく、慢性的な食べすぎ・飲みすぎと、その結果としての肥満が、痛風や高尿酸血症の原因として指摘されています。

 

(※3)私たちのからだでは、プリン体の80%以上が体内で合成され、残りを食品などからとっていると推定されています。

<プリン体を多く含む食品(100g中)>

レバー類(鶏、豚、牛)、白子、アンコウの肝、魚の干物類、イワシ、カツオ、干しシイタケなど。尿酸値が高めの人は、こうした食品を続けて食べないようにしましょう。

痛風になりやすいタイプとは

痛風や高尿酸血症の患者さんには、次のようなタイプが多くみられます。

◎成人男性である(※1を参照)、肥満気味である、アルコールが好きでよく飲む、ストレスが多い、時々激しい運動をする、家族に痛風の人がいる。

このうち「肥満」については、高血圧などを併発しやすいほか、肥満の人には汗かきが多いこともリスクとなります。というのも尿酸は、汗からは排出されません。大汗をかいて尿の量が減ると、かえって尿酸の排出を妨げる結果になるからです。
ストレスについては、実際にストレスを受けたり、疲れているときには、尿酸値が高くなります。血管を収縮させ、腎臓の働きを低下させるためと考えられています。
運動については、激しく動き回るスポーツ(サッカー、テニスなど)や筋肉運動(重量挙げ、筋力トレーニングなど)をすると、尿酸が増加します。こうした運動の場合は、こまめに水分を補給し、尿の排出を促すようにしましょう(運動中に汗をかいても、尿酸は排出されません)。 ただし、運動がいけないわけではなく、痛風の原因となる肥満予防のためには、有酸素運動(ウォーキング、軽めのジョギング、水中歩行、固定式自転車こぎなど)などを続けると効果があります。この場合にも、水分補給を十分に。
家族との関係では、痛風そのものは遺伝しません。しかし、最近の遺伝子研究から、痛風の発症にかかわる遺伝子が複数発見されていて、遺伝子による代謝異常がある人は、痛風や高尿酸血症になりやすいこともわかってきています(※4)。
遺伝子異常は自分ではわかりませんが、家族に痛風の人がいる場合には、体質や食生活が似ている可能性があるので、若いころから注意したほうがいいでしょう。

 

(※4)遺伝子異常による例として、「家族性若年性高尿酸血症腎症」があります。この場合、若いころから高尿酸血症になり、腎臓障害を起こしやすくなります。また男性だけでなく、女性でも発症します。

食生活で注意したいこと

痛風と高尿酸血症は、食生活と大きなかかわりがあります。とくに次の点に注意しましょう。

 

◎食べすぎ・飲みすぎに気を付ける

痛風はかつて「ぜいたく病」ともいわれたように、飽食の結果ともいえます。食事全体の量だけでなく、高カロリー・高脂肪食(肉類、レバー類、魚卵類など)をたくさん食べないことも大切です。アルコールも、栄養はあまりありませんが、カロリーはあるので、飲みすぎには十分な注意が必要です。

◎プリン体の多い食品を続けてとらない

プリン体を多く含む食品は、続けて食べないことが大切です。とくに酒の肴になる、白子、アンコウの肝、干物類などには注意し、飲酒中でも野菜をたくさんとることを心がけてください(野菜は尿をアルカリ性にし、尿酸を溶けやすくします)。

◎料理法や食べ方にも気を付ける

プリン体は水溶性で、煮たりゆでたりすると水に溶け出すので、摂取量を減らすことができます。同じ食品でも、こうした料理法を心がけましょう。
ただし、寒い時期に気を付けたいのは鍋物です。鍋物の煮汁には、いろいろな食品のプリン体が溶け出しています。最後に雑炊やおじやにして食べると、大量のプリン体をとることになります。尿酸値が高めの人は、とくに気を付けましょう。

 

痛風治療のうそ?ほんと!ビールはダメでも焼酎ならOK?

 

第1回 痛風は、食事療法など生活習慣の改善だけでは治らないの?

 痛風の原因である高尿酸血症は、食事や飲酒などの生活習慣による影響が、2~3割、尿中尿酸排泄低下や尿酸産生過剰などの体質 的な影響が、残り7~8割を占めています。このため、禁酒やかなり厳密な食事療法を行っても血清尿酸値の下降は、1mg/dl前後となり ます。一度でも痛風関節炎(痛風発作)を起こしている患者さんの場合、関節内に既に尿酸塩結晶が溜まっているため、この尿酸塩 結晶を溶解消失させるためには、血清尿酸値を6.0mg/dl以下でコントロールすることが望ましいため、食事療法のみでこの治療目標を達 成することはかなり困難だと考えます。一方、痛風発作を起こしてない高尿酸血症の場合、血清尿酸値が7台であれば、食事療法にて十分ですし、8台でも食事療法のみでも痛風発作を抑制できる可能性があると思います。但し、血清尿酸値が9を超える患者さんでは、痛風発作の有無に関わらず薬物療法を検討することをお勧めしています。
結論として、痛風発作を起こしたことがある患者さんでは、薬物治療が中心となり、痛風発作を起こしていない高尿酸血症では、 食事療法が中心と言うことになります。
薬による治療をお望みでない方は、痛風発作を起こす前に早めの受診して管理栄養士さんから食事指導をお受けになることをお勧めします。

第2回 痛風は一生涯治療を続ける必要があるの?

第1回でお話したように痛風の原因である高尿酸血症は、その7~8割が体質的な影響によっています。そして、この体質は、 そう簡単に変わるものではありませんので、原則として一生涯の治療が必要な病気であると言わざるを得ません。
しかし、痛風患者さんは、30歳~60歳頃の方が圧倒的多く、70歳を超えると少なくなります。この理由は、尿酸産生量が、 20歳~40歳頃に増加し、その後減少することが上げられます。60歳を過ぎると尿酸産生量が低下して高尿酸血症の頻度が減少 することが報告されています。また、高齢になると免疫機能の低下により痛風発作自体を起こし難くなることも知られています。
結論として、痛風は生涯治療が必要な病気ですが、高齢になると高尿酸血症が改善されたり、痛風発作を起こすことが少な くなるため治療を中止することが可能となる可能性があります。しかし、30、40歳代の患者さんにとっては、数十年という先の長 い治療が必要ということになります。

第3回 尿酸降下薬はどのくらいの期間飲む必要があるの?

第2回で、痛風は数十年に及ぶ長期間の治療が必要だというお話をしました。尿酸降下薬の服用も基本的には長期に渡って必要と考えられます。主な尿酸降下薬であるユリノーム(ベンズブロマロン)にしてもザイロリック(アロプリノール)にしても安全に長期間の服用が可能な薬です。
尿酸降下薬の服用を開始すると血清尿酸値が低下します。血清尿酸値の治療目標は、6.0mg/dl以下ですが、急激に血清尿酸値を低下させると痛風発作を誘発してしまう恐れがあるため、通常2ヶ月間程かけて徐々に血清尿酸値を低下させ治療目標値に達するようにします。血清尿酸値が正常化しても関節内には、尿酸塩結晶が残っていますので痛風発作を起こす可能性がありますし、尿酸降下薬の服用を止めると直ぐに血清尿酸値は再上昇してしまいます。血清尿酸値を6.0mg/dl以下で良好にコントロールしていくとやがて関節内の尿酸塩結晶が溶けて無くなります。尿酸塩結晶が溶けて無くなる間での期間は、尿酸コントロールが良好でも1~2年以上かかると考えられています。
当クリニック痛風外来での治療成績でも1年間を過ぎてから痛風発作を発症する患者さんもあり、少なくとも2年以上のコントロール期間が必要であると考えています。

第4回 尿酸降下薬中止のタイミングは?

 良好な尿酸コントロールを長期間続けていると関節内の尿酸塩結晶も溶けて無くなり、血清尿酸値自体も低下傾向を示します。血清尿酸値が4台や5台前半が続くようであれば、尿酸降下薬の減量も可能です。ユリノームで12.5mg、ザイロリックで50mgまで減量後も血清尿酸値が4台や5台前半で維持できているようなら、尿酸降下薬の中止が可能となる可能性があります。この場合は、尿酸降下薬を2週間程度中止して尿酸クリアランス検査を実施して、このまま服薬中止が可能かどうか判断することになります。
しかし、実際に服薬を中止出来る患者さんは少なく、更に長期に渡って服薬が必要な患者さんが多いのが現実です。服薬中止後の食事療法の継続や定期的な診察や検査が必要なのは言うまでもありません。

第5回 尿酸クリアランス検査でどんなもの? 1回受ければ良いの?

 クリアランス検査というのは、主に腎臓から尿中に排泄させる物質の血中濃度と尿中濃度を測定して時間あたりの排泄機能を算出する検査のことを言います。一般的には、腎臓全体の機能を示すクレアチニンクリアランス(クレアチニンという物質の尿中排泄機能)が知られていて、良く測定されています。クレアチニンクリアランスの正常値は、80~120ml/分とされていますが、日本人では低めの方が多く、80ml/分前後に多くの方が分布しています。クレアチニンクリアランスが、60ml/分を下回ると明らかな腎機能低下と考えます。痛風・高尿酸血症の患者さんの多くは、 クレアチニンクリアランスは比較的保たれているにも関わらず、尿酸クリアランス(尿酸の尿中排泄機能)が低下していることが多いことが知られています。クリアランス検査のためには、一定時間の蓄尿(尿を溜めて頂くこと)が必要です。24時間法、2時間法、1時間法などがありますが、当クリニックでは1時間の蓄尿にて実施しています。検査全体で2時間弱ほどで終了します。


高尿酸血症の原因としては、前述の尿酸排泄低下型の他、肝臓での尿酸産生が増加している尿酸産生過剰型、2者が併発した混合型の3タイプに分類されます。血清尿酸値を低下させる薬である尿酸降下薬には、尿酸排泄促進薬と尿酸産生阻害薬の2種類がありますが、尿酸排泄低下型に対しては、尿酸排泄促進薬を尿酸産生過剰型には、尿酸産生阻害薬を使用するのが原則です。混合型に対しては、2種類の尿酸降下薬の併用が効果的です。

このように高尿酸血症の原因に応じて尿酸降下薬を選択することにより少量の薬で十分な効果を期待することができ、副作用も少なく良好な尿酸コントロールが可能となるなどのメリットが生まれます。

高尿酸血症の原因は、体質によるものが多く、短期間で変化することは殆どありませんので、一度検査を受ければその結果で数年間にわたる治療を継続することが可能です。しかし、前回でご説明したように将来、尿酸降下薬の中止など治療内容の変更をする場合に再度クリアランス検査をお受け頂くことがあります。

第6回 ビールはダメでも焼酎ならOK?

 高尿酸血症を指摘されたり痛風になるとビールを飲むのを止めて焼酎に変える方がとても多いです。ビールは、高尿酸血症や痛風の一番の大敵のように言われていますが、本当にそうでしょうか。一方で、ビールなどアルコールのプリン体含量は、他の食物と比べると少ないので高尿酸血症や痛風の原因ではないという正反対の意見も見受けられますが本当に正しいのでしょうか。

最初に正解を言うと両方とも間違っています。

ビールが痛風の原因である血清尿酸値の上昇を引き起こしやすいことは確かです。他のアルコールと比べても血清尿酸値が上昇しやすいことも確かです。これは、ビールがアルコール類の中でプリン体を多く含むためと考えられています。

尿酸の元になるプリン体を、缶ビール350mlでは、約20mg含みます。これは、牛肉や豚肉100gに含まれるプリン体の約1/4~1/5の量です。この話だけを聞くと「たいしたことはないな、ビールが痛風の大敵というのは間違いなのかな」と考えてしまいます。但し、ビールは、一般的に大量に飲まれることが多いアルコールです。数リットル以上のビールを飲む方も珍しくありません。したがって、ビールのプリン体含量が少ないとは言えません。また、ビールの中のプリン体は、食物中のプリン体より吸収率が高い可能性もあります。

さらに、ここが大事なのですが、アルコールは、それ自体の分解の際に尿酸を産生し、尿中尿酸排泄を阻害する働きもあるため、血清尿酸値が上昇することが多くなるという事実があります。このため、プリン体を含まない焼酎やウイスキーなどの蒸留酒の飲酒でも血清尿酸値が上昇します。

ビールの多飲後に痛風発作を起こすことが多いのは昔から良く知られていますが、これは飲酒後に血清尿酸値が急上昇することによると考えられます。

 

 

従って、ビールも500mlくらいなら血清尿酸値をあまり上昇させることはありませんが、焼酎でも沢山飲めば血清尿酸値を上昇させてしまう可能性があります。ワインは、血清尿酸値を上昇させにくい、痛風を起こしにくいという報告がありますが、ワイン好きの痛風患者さんも多く見受けますのでいずれにしても飲み過ぎは禁物だと思います。

 

 

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