「……もう少し、眠りますか?」
相変わらず優しく、前島(まえしま)は花梨那(かりな)に語りかけた。
「もう十分休んだ。」
柔らかく微笑んで答える彼女に、前島は言葉を返した。
「本当ですか?」
「何よ。疑うの?」
「だって、あなた様は心底お疲れになっていると思うので……。」
その言葉に、花梨那の表情に影が差した。
「神山家の、あなた様に対する仕打ち、極めて許しがたい。
……いいえ、はっきり言って私は、あなたの旦那を殺してやりたいぐらいです。」
「前島!」
怒りに打ち震える彼の言葉に、花梨那は驚き彼の名を呼んだ。
「私が………、私がどれほど、あなた様の幸せを願って!!
あなた様が他の男の手に渡ることを、断腸の思いで見届けたと思っているのか!!」
荒ぶる前島の目には、涙が光った。
「あなた様は幸せになるべきです。他の誰よりも。」
前島の目が、花梨那をとらえる。
彼女はその目に吸い込まれそうになるのを感じた。
「前島……。」
花梨那は目を潤ませ、彼を見つめて言った。
「そうね。私、生まれ変わったらあなたと幸せになるわ、絶対。」
その言葉に前島は胸が張り裂けそうになり、すかさず彼女に口づけをした。
このとき二人は時が止まることを、何より願った。
しばしの沈黙のあと、覚悟を決めたように前島が口を開いた。
「お嬢様、もし、もし今後も神山家の御曹司にあなたと初夜を過ごす兆しが見られなかったら……。」
「……?」
「私との子を、神山家の跡継ぎとしてください。」
「!!!」
To be continued
~追伸~
TATSUさん、メッセージありがとうございます浅田瑠璃佳