新聞小説 「カード師」   (21)最終 中村 文則 | 私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

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超あらすじ  (1)~15まで

       15~21(最終)まで

 

朝日 新聞小説 「カード師」(21)284(7/20)~295/(7/31 )
作:中村 文則  画:目黒 ケイ


感想
総評:終わってみれば、なんとお粗末な小説だったことよ・・・

英子登場の前にチェック男に騙されたマヌケな男登場。僕ちゃんの知り合いだったが、コロナの余波を食らって郷里に引っ込む。
今現在の世間の状況を、これで表現しているつもりか。

なんともはや。次いでようやく出て来た英子。

死んだ英子の妹だと聞いても、全く響かない。
姉を継いで弁護士になると言ったって、ホステス崩れがちょっと勉強してなれるもんじゃないだろう。
そもそも「僕」を佐藤のところへ潜入させた後、市井を使っていろんなものを奪わせたのが「夜の誘いを断られた腹いせ」だなんて程度が低すぎる。

クラブ”R”に送り込まれたのもその延長なんだから。

マジメに読んで相手をしていたのが、ホント「アホらしい」

今ここで、事細かにダメ出ししようという思いもあるが、全てポンコツでその気が起きない。
とにかく「欲張り過ぎ」で形にまとまらなかったという事か。

物語の後半で、この小説がロールプレイングゲーム(RPG)みたいなノリなのかも?と考えたら、妙にシックリ来た。

数々の無駄エピソードも順にクリヤーするタスクだと考えれば、前後の繋がりや必然性は別にして知識として享受すればいい。
とにかく、こういった形式の小説は初めて。

だからくだらないと思った駄エピも我慢して読んだが、最後まで読んだ感想としては 「なくて良かった」
「俺いろんな事知ってて、すごいだろう」的な浅さが鼻につく。

後半で出て来た三島由紀夫や日の丸国旗の美についても、もう少しキチンと描くと思ったが、単に「イカレ野郎」の演出に使われただけ。

 

ここ十年ほど新聞小説をレビューしていたが、ここまで読むに値しないというのは初めて。

最終回の最後に
◆「カード師」の単行本は来春に朝日新聞出版から刊行予定です。出さんでよろしい(笑)


あらすじ 284 ~ 295(最終回)
<別の世界> 1 ~  7
知り合いの手品師から、田舎に帰るとの電話。以前チェック柄が客として行き、手品の実演をするうちに商品を取られた男。
家賃も払えないから田舎へ帰る。

車だから、他県ナンバー狩りに遭うかも知れない。
コロナはただのきっかけ。思えばあいつに店のものを取られてから・・・こいつはいける、というあの目。
彼は死んだと伝える。知り合いだったとも。つまらなさそうに死んでた。
降りる螺旋階段の先にドア。


手品師の言葉。東京に出て来てすぐ、努力すれば成功するとお前に占われたが、外れた。だから言うなよ。でもあの時は嬉しかった。
降りながら時々電波が途切れる。再びドア。
楽しめよ、人生を、の言葉に涙ぐむ彼。
お前はどうするんだ、と言われた時、英子氏の姿が見えた。

地下駐車場での待ち合わせ。
別れを言い、電話を切る。

英子氏は黒いコートにマスク。マフラーにリングのピアス。

隙がなく、完全に英子氏。
「質問してもいいですか」 「どうぞ」
「あなたは誰ですか」

そうして欲しい気配を感じ、五メートル程の距離で立ち止まる。
聞かなくてもいいんじゃない、との言葉に「教えてください」
鈴木英子の妹だと言った。あの震災で九年前、姉は亡くなった。
その時、自分は死のうとしていた。

厳しい人生に見合うほど精神が強くない。
だが姉の死を知って腹が立った。

同じように幼少期にダメージを負いながらも、人生に挑戦していた姉。
存在そのものが私に対する非難。

だがら、やっぱりこの世界は生きる意味などないと思った。
きっかけは化粧。姉の遺品の化粧品。

彼女のようなメイクをしてみようと思った。
姉はそれによって、テンションを上げ世界と戦った。


姉のメイクを真似ても、顔は姉ではなかった。でも私でもない。
勤めていたクラブを辞めて、司法試験の勉強を始めた。

何度も落ちて、合格したのは六年前。
初めて彼女に会ったのが五年前・・・
姉の名で弁護士登録した。別人になりたかった気持ちだけでなく、姉となる事で自分の生を延長させようとした。
他人の人生を生き直す気持ち。

演技をするうち、どれが本心か分からなくなった。
顧問をしていたあの企業は、徐々に変わってしまった。あんな愚かな人間がトップになるのはたまらない。
佐藤にあなたを近づかせて、乗っ取らせようとしたけど、動きがバレて追放された。
佐藤の遺書があったでしょう?と聞き、私のことは書いてあった?と重ねた。
彼女は、姉の恋人だった佐藤に好意を持っていたのではないか。

好意を持っていたから、直接会えなかった・・・姉の名を騙る存在。
死ぬ前の佐藤からの電話を受けたという。咳で中断しながら礼を言われた。姉が生きていたら、というもう一つの現実を作ってくれた。
UFOの話も聞いたという。

その時の笑い声は、幼い頃の彼の、感情の声かも知れない。
事情を聞いていたら、もっと協力する事が出来たという言葉に、男性を信じないから、と返す。
市井を使って佐藤の髪や爪を奪い、脅しの材料に使おうとした。
ポーカーもあなたの命令だったはず。
「腹が立ってたんだから。最初に久しぶりに会って、断られたんだよ?」

「は?」と聞き返す僕。
久しぶりに会った女との時間より賭博に惹かれていた。更にその後依頼を断ろうとした時には誘った。だから復讐が必要。
そんなつもりはないとの否定にも、最悪なゲームに参加して全財産を取られればいいと思った、と返す。
彼女の笑いは、ギリシャ神話のヘラを思わせた。

僕が生涯で内面を見せたのは彼女だけ。
これからどうするのですか、との問いには、作った財団をもっと大きくして、姉の遺志を継ぐと言った。
「一人でですか」と近づいた僕を制する。
私に好意を持っているとしても、それは姉を真似ているだけ。

結局は姉に惹かれた。

姉になろうとする妹。もう一つの現実をあなたが無意識に求めた・・・
その可能性はあった。
本当の私はもう、どこにいるかわからない。今抱きしめられたら、私の考えも変わりそうだけど・・・
といってから、この距離感を示す。

あのウイルスに弱いという彼女に、進めようとした足が止まる。
単なるけん制なのか。

だがウイルスが気にならないほど、僕たちは若くもない。
地下駐車場からの出口を出て行った彼女。ドアが閉まった。
山倉の言葉がよぎる。「君は幸福になる」
どうやらそれは難しい。”半分以上がなくなる”は金銭以外の意味もあったかも。
しばらくその場に立っていた。

---久し振り。  ブエルだった。


<エピローグ> 1 ~ 5(最終回)
久し振りと言ったが、数週間前に夢で会っている。
ここは占い用マンション。

額縁に気配を感じた。中にブエルがいて、大きくなった。
小さい頃に呼び出した、そのままの姿。
佐藤と君が会った時、君はギリギリだった。

佐藤の感情の加減だけで君は助かった。
あともう一つ。あのクラブからの帰りに、君がタクシーで高速を走った時、追い越しのトラック運転手が一瞬睡魔に襲われた。

死ぬところだった。
ブエルから、以前の獣臭がしない。

それは君が清潔にしたいという意思の表れ。
今なら君に色々教えられる・・・
テーブルにウェイト=スミス版タロットが裏向きで並んでいた。
何度かめくり、知りたいことを知ることができる。

知りたいだろう?行方不明になった君の母親のその後。
--君の父親が誰か。
知りたいとは思わなかった。首を横に振る。
私のような存在は、奇妙な場所に居る。

あるドアのすき間から、昔の君を見つけた。
母親の部屋で、舞って見つからないカードを探し続けている。
心配ないって伝えてくれないかな・・・
君が最初呼び出そうとした悪魔は、私ではなくアスタロトだった。
覚えていた。
アスタロトの最初の記憶。戦時中、貧しい兄妹の妹が、祓いのため市民に殺されようとした時のこと。

この二人を第三者として見ている事に気付いた。

自分たちが何のために発生し存在しているのか、実は良く知らない。
ブエルが続ける。
最初の記憶は、古代ローマのコロッセオ。

剣を持った男とライオンの対峙。男は多分奴隷。
楽しまれるための戦い。これは違う・・・
更に様々な光景を見た。

皇帝ネロがやったのは、キリスト教徒への、松明代わりの火あぶり。
モンゴル軍は、投石機に疫病に罹った男を生きたままセットして撃ち出した。私たちは人を惑わすと君に言ったが、厳密には違う。

事物発生のきっかけは、全て人間。私達は精神の投影に過ぎない。
彼らの欲望や行動を追認するだけ。
今は疫病下だが天災、戦争など様々な惨劇が生じ、私やアスタロトの様な存在が生まれた。世界は更に精神的に病むだろう。
君は結果的に、病んで行く世界を励ますかも知れない。

ディオニュソスのように。
やや不吉なのは、君の願望が少しづつ希薄になっていること。
君はそろそろ新しく目覚める。時間がない。
僕は数枚あるカードの一枚のめくった。息を飲む。
「本当に?」
そうだよ。世界はそんな風だ。

佐藤の親友だったIは惜しいところまで行っていた。
もう一枚めくるといい。  「そんな」
んん、この世界は面白いだろう?だが全部じゃない。
一枚のカードが宙に浮き、ブエルの色が薄くなって行く。

--やはり君達は、絶望なんてできないんだよ。
浮いたカードが回転する。
--だってそうだろう? 明日何が起こるのかも、わからないんだから。何か夢を見ていた気がしたが、思い出せなかった。

新たな顧客、吉田にリモートで占いを行う僕。意外にうまく行っている。
今興味があることを試してみては?とアドバイス。
彼女は恐らく大きな失恋の後。

画面越しに彼女を見ながら、更に励ます。

部屋にあった膨大なカードは、大半を売ることにした。
クラブ”R”からのオファーはまだ保留。顧客が増えている。
「私は・・・・自信がなくて」と吉田。
占いは力だ、と言ってカードの束を掴んだ時、その中の一枚が意味ありげに落ちた。
裏向きのまま。次第に笑みが浮かぶ。今度は何のカードだろう。
僕は指を伸ばして拾い、テーブルの上でめくった。 (了)