・面白さ    ★★★★★
・読みやすさ  ★★★★☆
・本の概要
フランスの哲学者、シモーヌ・ヴェイユの著作集。工場日記などが収録されている。

・気になった箇所

「奴隷制を感じさせる一日の最初の小さな出来事はタイムレコーダーである。自宅から工場への道は機械的に決められた一秒前に到着しなければならないという事実に支配されている。五分、十分前に来ても無駄である。このことから、時間の流れは、いかなるものも偶然にまかせない何かしら無慈悲なものに思われる。それは労働者の一日の中で、機械の中で過ごされる生活のすべての部分を残忍さが支配している規則にしばられる最初の耐え難い印書である。偶然は工場内では居住権がない。もちろん他所と同じようにそこにも偶然はあるが認められていない。しばしば生産を犠牲にして、許されるものは次のような兵営の原則である。《わたしはそれを知ろうと望まない》虚構は工場内では非常に強力である。決して守られずしかし永久的に効力を持っている規則がある。矛盾した命令は工場の論理によれば矛盾していない。それらすべてを越えて労働が行われなければならない。労働者は解雇の危険をおかしてそれを何とかしなければならない。そして何とかする。」(239ページ 『工場生活の経験』より)

シモーヌ・ヴェイユ(女性です)は、学校の教授をやめた後、複数の工場でしばらく働いていました。
しかし、ヴェイユの家は貧乏だった訳ではなく、学生時代は非常に優秀な生徒だったそうです。
収録されている『工場日記』や『工場生活の経験』、工場関係者に送った手紙などからは、エリート的な思考が現れながらも、労働者の心理や工場の労働環境を的確に観察しているのが読み取れます。
個人的には、経営者側と労働者側のどちらの言い分にも耳を傾け、平等に観察対象にしようとする姿勢がとても好きでした。

それぞれの著作を読み、共感できる箇所が多すぎて、何を抜き出そうか本当に迷いました。
これも、バイト経験があったからですね。

ヴェイユは、亡くなるまで自らの著作を一つも発表していません。
彼女にどんな考えがあったのかは分かりませんが、世間に名を知られることなく、雑念を排除してレポや著作を書きたかったのかもしれませんね。
もしそうだとしたら、私にとって本当に尊敬できる歴史上の人物になりそうです。