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物を言わないと「腹ふくるる」のが人間ですが、物を言おうとすると「喉のふくるる」類人猿がいます。フクロテナガザル。名古屋市の東山動物園に行ってきました。

 

ここのケイジ君の雄叫び「ア"―――――――が「おっさんみたい」ということでよくテレビで取り上げられます。確かに、いらいらしているおっさん、落胆したおっさんは「ア"――――――――」といいますね

 

 

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ケイジ君は日に数度しか鳴きません。鳴くところに遭遇できるのは、かなりラッキーなのです。

 

 

つがいのマツと広々した飼育舎で暮らしていました。私たちの目の前にやってきましたが無言です。子供たちが「鳴け!」と言っても黙ったままです。あきらめて、園内を一巡しました。帰りしな近くを通ると、聞こえるではないですか。

「ア"―――――――

 

ケイジ君の方へ走っていきました。

 

 

「ア"――――――――」ばかりが有名ですが、雄叫びには前奏があります。

ポワーン、ポワーンとなんとも間の抜けたような、大阪市が無形文化財に指定した横山ホットブラザーズの「お~ま~え~はアホか」のノコギリ芸のよう音です。マツと掛け合いながら鳴いている。知らなかったのは、フクロテナガザルには大きな鳴き袋があることです。ゴムまりみたいに膨らませて鳴きます。顔ぐらいの大きさになります。

 

 

ポワーンに続いて、あの絶叫がきます。満腔の怒り、絶望、悲嘆、いやいやそんなネガティブなものではありません。歓喜でもないです。全身全霊で周囲に自分をアピールしているように聞こえます。「俺はここにいるんだ。参ったか」と。声の届く範囲は2キロにも及ぶといいます。そして、クワッ、クワッと白鳥のような声を出します。

 

 

3種類の別次元の鳴き声が織りなす三重奏がしばらく園内に響きました。

 

 

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フクロテナガザルは、とてもきれいなサルです。毛の色は黒くつややかで、顔は青みがかったグレイです。穏やかで深みのある目がきらきらしています。賢者の相ですね。

それから、後ろ足の人差し指と中指が皮膚でつながっています。これは仏の相です。「手足指縵網相(しゅそくしまんもうそう)」。仏の三十二相のひとつですね。衆生を救う水かきなのです。

 

 

薬師寺の薬師如来坐像の縵網相