ヒートポンプ

【ヒートポンプ】蒸気、電気、ヒートポンプ、ガスで最もお得な熱媒はどれ?

物を加熱するには、燃料を燃やして発生させた熱をどのようにして被加熱物に伝えるのかが重要です。

一般的には、蒸気、電気、ヒートポンプ、ガスヒーターなどが利用されますが、どの熱媒が一番お得なのでしょうか?

今回は、簡易的にそれぞれの熱媒を用いたときにどの程度効率が変わるのかを計算してみました。熱媒を検討されている方にとって少しでも参考になればと思います。

こちらの記事は動画でも解説しているので、動画の方がいいという方はこちらもどうぞ。

1. 蒸気、電気ヒーター、ヒートポンプ、ガスヒーターはどれが一番お得?

次の4つでエネルギー効率の観点から考えてみたいと思います。

燃料のエネルギーを100とした場合に、最終的に被加熱物にどの程度の熱が伝わるのかについてみていきます。

1-1. 蒸気

  1. 燃料 100
  2. 蒸気 90
  3. 被加熱物 85.5

まずは蒸気です。

蒸気の場合、燃料を燃やして水を蒸発させて蒸気を発生させます。発生した蒸気は、配管で送られ、熱交換器で被加熱物に熱を伝えます。

この過程で、1. 燃料⇒2. 蒸気になる際に、排ガスやボイラーブローなどによって10%程度損失し、2. 蒸気⇒3. 被加熱物に伝わるまでに配管放熱などにより5%損失するとしています。

この場合、最終的に被加熱物に熱が伝わる割合は85.5となります。

1-2. 電気ヒーター(電気コイル)

  1. 燃料 100
  2. 蒸気 90
  3. 電気 36
  4. 被加熱物 34.2

次に電気ヒーターについて考えてみます。

電気ヒーターの場合は、全体で見た場合、燃料から蒸気を発生させ、蒸気の駆動力で発電タービンを回し高圧電気を発生させます。そして高圧電気を送電し、ヒーターによって被加熱物に熱が伝わります。

この場合、1. 燃料⇒2. 蒸気で先ほどと同様で90、発電タービンの効率を40%とすると電気になる時点で36、送電の損失を5%とすると最終的に被加熱物に伝わる熱は34.2という事になります。

先ほどの蒸気に比べるとかなり効率が悪いということが分かります。

1-3. ヒートポンプ

  1. 燃料 100
  2. 蒸気 90
  3. 電気 36
  4. 大気中の熱を吸収 180
  5. 被加熱物 171

次にヒートポンプです。

ヒートポンプの場合も電気ヒーターと同様ですが、唯一違うのが電気を熱としてそのまま被加熱物に伝えるのではなく、大気の熱を吸収させるという点です。

ヒートポンプで加熱する場合は、膨張させて低温になった冷媒に大気の熱を吸収させ、その後圧縮することで高温にするという原理で熱を作り出します。

この場合、電気は圧縮機の動力として利用されるだけなので、熱量は投入した電気の最大5倍程度の能力を発揮することができます。この5という数字はヒートポンプのCOP(成績係数)と言います。

これにより、電気の36のエネルギーは5倍の熱となり、放熱などで5%損失したとすると、最終的に被加熱物に伝わる熱は171になります。

【ヒートポンプ】省エネ機器といわれるのはなぜ?原理や用途を徹底解説

1-4. ガスヒーター

  1. 燃料 100
  2. 被加熱物 90

最後にガスヒーターです。

ガスヒーターの場合は非常にシンプルで、燃料を燃やして被加熱物に熱を伝えるだけです。ガス給湯機を調べてみると、最新のものは排ガス熱交を入れることで効率は最大90%程度だそうです。

この数字をそのまま使うと、被加熱物に伝わる熱量は90という事になります。

どれが効率がいい?

  • 蒸気:85.5
  • 電気:34.2
  • ヒートポンプ:171
  • ガスヒーター:90

この数字を踏まえてみてみると最も効率がいいのはヒートポンプという事になります。

但し、ヒートポンプは大気の熱を吸収させるという原理上、加熱能力が他の熱媒に比べると低いという特徴があります。ゆっくりとしか加熱しかできないけど効率がいいのがヒートポンプです。

一方、蒸気やガスの場合は電気と違い、効率の悪いタービンのような機器を経由しないので比較的効率が高くなります。ただ、ボイラーやガス配管が必要となり、設備が大型化します。

電気はどうしてもタービン効率に大きく左右されるため、エネルギーとしての効率は悪いですが制御性が高く、インフラが最も整っているため家庭においては主役になります。

2. それぞれの燃料費は?

$$必要熱量[kJ]×\frac{100}{効率}×\frac{単価[円/kg]}{発熱量[kJ/kg]}$$

それぞれの燃料で物を加熱した場合、どの程度のコストがかかるのかを計算するには上の式を利用します。

加熱するのに必要な熱量を計算し、効率の逆数を掛け合わせることで、必要な燃料の熱量が出てきます。

そこに熱量単価をかけてあげれば、加熱コストを簡易的に計算することができます。効率が悪いエネルギーを使えば使うほど、加熱のコストは増加することが分かります。

【熱力学】熱量単価、エネルギー単価の計算方法

3. それぞれの熱媒の使い方は?

これらの数値を踏まえたうえで、それぞれの使い方をまとめてみると次のようになります。

  • 蒸気:大規模の工場
  • 電気ヒーター:家庭、小型工場
  • ヒートポンプ:家庭、小型設備
  • ガス:家庭、大型工場

蒸気はボイラーや配管などの設備が必要となるため、大型工場の熱媒に向いています。電気は効率は悪いですが、管理しやすいという点から家庭や小型の工場で利用されます。

ヒートポンプは効率はいいですが能力が低いので大型の設備ではあまり利用されず、家庭向けのエアコンや冷蔵庫で力を発揮しています。

ガスは効率がいいですが、都市ガスではなくLPガスになると輸送、交換コストが上がるので価格は高くなります。また、工場で利用する場合は、ガス配管を引く必要があり、爆発リスクもあることから直接加熱をする用途にはあまり利用されません。

【燃料】気体燃料の種類や特徴について

4. まとめ

  • 最もお得なものはヒートポンプ
  • 実際には使い方によって最適な熱媒が変わる
  • 設備や燃料の単価を見ながら検討が必要

同じ加熱用途でも、どの熱媒を利用するかによって効率は大きく変わります。

ただ、実際には今回の数値に加え、年次点検などの管理コストが発生するため、どの熱媒を利用するのがトータルコストが下がるのかを検討する必要があります。

熱媒を検討される際に、少しでも参考にしていただければと思います。

ヒートポンプ

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エコおじい

プラントエンジニアです。「工業技術をどこよりも分かりやすく解説する」をテーマに2017年からブログ、Youtubeで情報発信をしています。現在、5つのブログを運営中。毎月収益レポートを公開しています。是非、Twitterのフォローお願いします。



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