長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『勝手にふるえてろ』

2019-07-21 | 映画レビュー(か)

主人公ヨシカは20代も半ばになるが、未だ中学時代の片思いの相手”イチ”の事が忘れられない。今日もかつてのイチを脳内に召喚しては恋の妄想に悶える日々だ。そんなある日、会社の同僚”二”から告白されて…。

趣味は絶滅した生き物について調べること、仕事は経理で数字とにらめっこ、という公私共に自閉しきったヨシカの中で10年モノの片想いだけがどんどん醸成されていく。だが、報われない恋で暴走した事がある人なら決して彼女のイタさを笑う事はできないだろう。イチカの目から見た日常はまるで映画の世界だ。喫茶店の可愛いウェートレスも、駅員さんも、川釣りをするオジサンも、コンビニの兄ちゃんも、バスで隣り合うオバサンもみんな彼女の恋を応援してくれる。これこそ好き過ぎて拗れに拗れた片想いの脳内そのものじゃないか!ヨシカは自分の人生を生きることよりも、イチを好きでいる事が人生の目的になってしまっている。


そんな片想いが終焉を迎える中盤、映画は突然ミュージカルへと変貌する。あまりの突拍子のなさに大笑いし、そしてたまらなく悲しい歌詞に涙が出た。片想いというアイデンティティを失い、ボロボロに心が折れて玄関にうずくまる彼女の姿は見る者の胸を締め付けるだろう。

イチカを演じるのは松岡茉優。インタビュー等を見る限り、このフルスロットル演技はどうやら地ではないかと思えるが、4文字ワードをこれだけ可笑しく言える日本の女優は他にはいないだろう。今後、コメディエンヌとしても要注目の会心のブレイクスルーである。

『勝手にふるえてろ』17・日

監督 大九明子

出演 松岡茉優、渡辺大知、石橋杏奈、北村匠海

勝手にふるえてろ
白石裕菜
メーカー情報なし

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