長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ハン・ソロ スター・ウォーズ・ストーリー』

2018-08-16 | 映画レビュー(は)

大失敗である。撮影終盤の2017年6月20日、全米公開まで既に1年を切ったタイミングでルーカスフィルムが方向性の相違を理由に監督フィル・ロードとクリス・ミラーを更迭。代打には名匠ロン・ハワードが抜擢され、噂によれば何と7~8割の再撮影が行われたという。スピンオフ第1作『ローグ・ワン』に続く製作現場の混乱、そしてシリーズ前作『最後のジェダイ』からたった5か月後の公開という戦略ミスによってシリーズ史上初めての興行的大惨敗を喫する事となってしまった。

そもそも、一体誰がこの映画を望んでいたのだろう?
ハリソン・フォードによって映画史上屈指の人気アイコンとなったハン・ソロがどこで生まれ、どんな青春時代を送り、どうやってケッセルランを12パーセクで抜け、ミレニアム・ファルコン号を手に入れたのか語る必要があったのだろうか。けたたましく連打されるアクションシーンは語る物語も術も持たない自信のなさの表れだろう。かつて、スター・ウォーズファンは第1作『新たなる希望』を観てセリフだけで語られるクローン大戦に思いを馳せ、オビワン・ケノービとダースベーダーの火山での決闘を口述伝承し、『シスの復讐』が公開されるまでそれは“伝説”だった。今のスターウォーズは語れば語るほど面白味が削がれ、その銀河を収縮させてしまっている。終幕、ある人物の登場に至ってはもはやサプライズよりも食傷感しか覚えなかった。(“ソロ”という名前の由来も明かされるが、何の惜しみもない語り口によってスケールダウンしている)。

もちろん、この結果においてロン・ハワード監督は責められるべきではない。今回の職人仕事はかつてロジャー・コーマンの門下生としてそのキャリアをスタートさせた彼にはうってつけの仕事だ。ローレンス・カスダンによって施された脚本の西部劇テイストを汲み取り、冒頭には自身も出演したジョージ・ルーカス監督作『アメリカン・グラフィティ』の懐かしい香りも漂わせる。何より俳優陣の活気は俳優出身監督のロン・ハワードならではの楽しさだ。
 ハン・ソロの師匠を演じる豪放なウディ・ハレルソン、ハン・ソロの童貞(?)を奪った我らが女王エミリア・クラーク、軽妙洒脱なランド・カルリジアン役ドナルド・グローバーら近年、ドラマ界で大人気のオールスターキャストが勢揃い。おまけにサンディ・ニュートンが『ウエストワールド』とショーグンワールドを経由してこのディズニーワールドに顔出ししてくれている。MVPはドロイドL3に扮したフィービー・ウォーラー・ブリッジだろう。ドラマ『フリーバッグ』で頭角を現した脚本家、女優はCGでもキレ味抜群の芝居の上手さであらゆるギャグをキメている。

 このメンバーに囲まれてはほぼ実績ゼロの主演オールデン・エアエンライクは分が悪い。果敢にハリソン・フォードをフォローするが、間に困るとニヤケ顔を連発し、演技の手数が少ない。当初、このヤング・ハン・ソロでシリーズ化が検討されていたが、ルーカスフィルムは今回の失敗を受けてスピンオフ企画の全面見直しを始めたという。エアエンライクのスターの道は断たれたのか。ルーカスフィルムとディズニーがフォースにバランスを取り戻す事を期待する。


『ハン・ソロ スター・ウォーズストーリー』18・米
監督 ロン・ハワード
出演 オールデン・エアエンライク、エミリア・クラーク、ドナルド・グローバー、ウディ・ハレルソン、ポール・ベタニー、フィービー・ウォーラー・ブリッジ
 

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