さらに何年か経ちました。

熊皮男は あちこちを放浪し、

行く先々で 貧しいひとを助け

自分の代わりに 祈ってもらう暮らしを続けていました。

 

とある町で 日が暮れて

宿屋で部屋を借りようと入っていくと

主人に お前のような化け物に貸せる部屋はないと

断られてしまいました。

裏の厩でもよいからと頼んでも、

馬が怖がるからお断りだ、と。

 

仕方なく、ポケットから金貨を掴みだして握らせると

急にだらしなく 笑み崩れて

なんだい旦那、身なりの割に

おあしはしっかり持っていなさる。

さあさあ、入ってくださいよ、

だがねえ、お願いだから

他のお客さんの前に その姿で出てきてもらっちゃあ

困りますよ。

裏手の奥の お部屋を用意いたしますから

そこから出てきてくださるな、  と、こうです。

 

男は あてがわれた 小さな部屋の

小さな木の腰掛に座って

小さな明り取りに瞬いている

小さな星を 見上げました。

 

あと何年、

こうして 生きていけばいいのだろう。

早く 時間が過ぎてほしいと

心から願っていた その時でした。

 

隣の部屋から 奇妙な音がしてきます。

どうやら 誰かが 呻きすすり泣いているようです。

熊皮男は 哀れに思って そっと隣を 覗いてみました。

 

 

 

粗末な寝床に 崩れるように座り込む

老人の姿がありました。

細いうなじは骨が飛び出し

がくりと項垂れています。

皺の深い枯れ枝の様な 両手で

頭を抱え込み 背を丸め

泣いているのです。

 

「どうしたんだね?ご老人?」

 

思わず熊皮男が声をかけると

老人は 悲鳴を上げて

部屋の隅に すっ飛んで

角にぎっちり 体押しつけ ぶるぶる震えあがりました。

 

男は 怖がらなくてもよい。

俺は熊でも化け物でもなく 人間だ。

隣に部屋を借りたんだが あんまり悲しそうな声がするので

様子を見に来たのだよ、と言いました。

 

老人は はじめこそ 怯えあがって

命乞いをしたり 頭をそっくり外套の下に隠したりして

熊皮男の姿を見ないようにしていましたが、

優しい声と、穏やかな物言いに だんだん、気持ちを落ち着かせて

少しずつ、身の上話を始めました。

 

 

老人は、たくさんあった財産を

なんだかんだで 持ち崩し

手持ちをすっかり失って 途方に暮れているところだったのです。

家には、父親の帰りを待っている

三人の娘があるのだが これでは 三人とも養ってゆけない。

それどころか、ここの宿賃も もはや払えないのだから

早晩、牢屋に叩きこまれてしまうだろう・・・。

 

熊皮男は かすれ声で 打ち明けて来る老人が哀れになって

そっと肩を叩いて言いました。

 

「そんな事なら なんでもないよ、

俺に任せておきな。

さあ、手を出して。」

 

老人の両手のくぼみに 金貨を山盛りのせてやり

そのうえ 隠しに お金のいっぱい詰まった

革袋を押し込んでやりました。

 

 

ああ。老人がどんなにほっと、安心したかおわかりでしょう?

 

「あんたさん、

なりは なんだか、奇妙だが

本当に 心根の あったかいひとだ。」

 

 

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悪魔の思い通りに、

事は運んでおりませんな。

がんばれ!

熊皮男~~~~~!