月の雫 ⑸
大っきなオレンジ色の月がすごくて、俺も翔くんも、今起こったことを一瞬忘れて、その月に見惚れてた。
そんな俺たちに構わず、彼女はクルッと180度体の向きを変えて、近くの椅子に座った
はぃ?へっ?なんか…
たった今こんな事が起きたのに、何事もなかったような態度。
「月見てたって…さぁ…。普通、月見るのにあんなとこに立ってみるか?それに、俺らが近づいたらさっき後ろに下がったろ」
「……だ………おど…く」
またボソボソと蚊が鳴くような声で、なんか言ってる
小さすぎて、全く聞こえないから自然と近くによって、口元に耳を近づける形になる
「誰、でも自分の、家、に人が勝手に入っ、てきたら…驚く」
「……家?自分ちって…」
そう言われて、ここに入って初めて辺りを見渡す。
屋上には、端の方に人が住むような建物があった。その建物以外は、広いコンクリートが広がって、小さな植物が置いてある
「ここ、アンタんち?」
俯いたままで深く頷く
改めて周囲を見てみると、彼女の座った椅子はサマーベッド*……だし、小さなテーブルにはワインと、チョコ、、?があって、その場所でワインを楽しんでたのかわかる。
ここ家…、えっ?じゃ、俺ら…
彼女を見たまま固まってた俺の肩を翔くんが叩いて
「智くん、俺たちやっちゃったみたいだね。
確かに知らない男が二人も、いきなり敷地内に入ってきたら、驚くよねぇ
…見事、不法侵入ってやつ?(笑)」
苦い顔で笑った。
*プールサイドなどにあるリクライニングできるベッド