リモートダービー。ガンバ大阪 VS セレッソ大阪 J1第2節

日時 2020年7月4日(土)18:03
試合会場 パナソニックスタジアム吹田
試合結果 1-2 セレッソ大阪勝利

コロナウイルス感染拡大による中断を乗り越え、Jリーグが戻ってきた。防疫上の止むを得ない事情から無観客という形にはなったが、まずはここに漕ぎつけられたことを喜びたいし、そのために努力してくれた方々に感謝の意を表したい。
リーグ中断明けの第二節。いわば「2回目の開幕」とも言える試合でのセレッソの相手は地元のライバル、ガンバ大阪。これも防疫上の観点から、近隣チームとの対戦が優先された結果であるが、いきなりのダービーでリーグ再開を迎える格好となった。
「リモートマッチ」と名付けられたこの無観客試合。当たり前だが、従来の大阪ダービーとは全く異なる雰囲気の中での試合となった。

セレッソ大阪フォーメーション
25
奥埜
9
都倉
10
清武
17
坂元
5
藤田
6
デサバト
14
丸橋
3
木本
22
ヨニッチ
2
松田
21
ジンヒョン

この試合のセレッソのフォーメーションは、GKがキム・ジンヒョン、DFラインが左から丸橋、木本、ヨニッチ、松田、ボランチが藤田とデサバト、左SHが清武、右SHが坂元、2トップが都倉と奥埜という4-4-2。
前節大分戦(と言っても4か月以上前だが)からの変更点としては、怪我で離脱していた藤田直之がボランチに復帰し、大分戦でボランチに入っていた木本恭生が左CBとなって、大分戦ではスタメンだった瀬古歩夢がベンチに回っている。また、FWがブルーノ・メンデスから都倉賢に変わっているが、この点については中断期間中に序列が変わったのか、それとも外国人は現状、入国時に隔離措置が必要な為、合流が遅れたなどの理由があるのか、諸事情は不明である。また、開幕はベンチ入りしていたMF西川潤はこの試合ではベンチ外。試合後、左太腿の筋損傷で全治4週間であることが発表されている。
なお、コロナウイルスによる中断期間によって今シーズンのJリーグは過密日程が予定されており、それを緩和するため交代枠は1試合につき5人まで認められている。セレッソのベンチメンバーはGK茂木秀を除くフィールドプレーヤー6人のうち、柿谷曜一朗、豊川雄太、ブルーノ・メンデスと3名がFW登録の選手。残りの3名は上述の瀬古歩夢、片山瑛一、ルーカス・ミネイロだが、瀬古がボランチとCBでプレーでき、片山はCB、SB、SH、FWとボランチ以外ならどこでも出来るので、セレッソは5枚の交代枠を攻撃的な選手のために使いやすくなっている。

ガンバ大阪フォーメーション
33
宇佐美
9
アデミウソン
21
矢島
10
倉田
4
藤春
7
遠藤
8
小野瀬
19
ヨングォン
5
三浦
13
菅沼
1
東口

一方のガンバ大阪は、GKが東口順昭、3バックが左からキム・ヨングォン、三浦弦太、菅沼駿哉、左WBが藤春廣輝、右WBが小野瀬康介、アンカーが遠藤保仁、IH(インサイドハーフ)が矢島慎也と倉田秋、2トップが宇佐美貴史とアデミウソンという5-3-2。ガンバは前節マリノス戦では宇佐美を1トップ、井手口・矢島をIH、遠藤をアンカーに置く4-1-4-1で臨み、勝利しているが、この布陣はマリノス戦のために特別に用意したものだったようで、この試合では昨シーズンの基本フォーメーションである5-3-2で臨んできた。なおアンカーに入った遠藤は、この試合でJ1通算632試合出場となり、元名古屋グランパスのGK楢崎正剛の持つJ1通算試合出場記録を更新している。
ガンバの方のベンチメンバーも、パトリック、渡邉千真、そして今季鳥栖から加入した小野裕二とFW登録が3枚。それ以外のメンバーも、ボランチ井手口陽介、関西学院大から加入したユニバーシアード日本代表MFの山本悠樹と豪華な顔触れである。残りの1名は髙尾瑠で、DF登録のベンチメンバーは彼一人。髙尾がSBもCBも出来ることと、小野もポリバレントな選手なので、こちらもやりくりは利く。今季のJリーグは交代枠は増えたがベンチ枠は増えていないので、髙尾や小野、セレッソの片山のようなポリバレントな選手の重要度が高まることが予想される。
なお、フランスのトゥールーズから今季加入した元日本代表DF昌子源は、右足首痛によりメンバー外となっている。

さて、前半はおおむねセレッソが主導権を握る展開となった。この試合のセレッソの攻撃パターンは大きく分けて2つあり、一つはロングボール、もう一つはサイドチェンジだった。
まずロングボールについて言うと、幾つかパターンがあり、一つは単純に、前線の都倉の強さに期待して入れるパターン。ガンバの方はヨングォンが余りロングボールに強くないので、都倉とヨングォンの勝負になると勝てる可能性が高い。もう一つは清武が引いてきて菅沼を釣り、菅沼と三浦の間に出来たギャップをFWが狙うパターン。このパターンは、菅沼が出てこなかった場合は清武にミドルパスを送る、という形とセットになっていて、GKからの繋ぎの時に何度か見られた。ガンバの方は、セレッソがGKからの繋ぎを始めようとすると、2トップがセレッソのCBを見て、IHがセレッソのボランチを見て、WBがセレッソのSBを見て、という形になるのだが、アンカーの遠藤は浮いた状態になっており、かつ2トップやIHがセレッソのゴール近くまで上がる分、遠藤の周囲にはスペースがある。そのスペースに清武が下りて行くとフリーで受けることができるし、そこに菅沼が付いてきた場合は最終ラインにギャップが出来るので、セレッソの方はそこが狙い目になっていた。

もう一つの形、サイドチェンジについては少し説明が必要で、まずセレッソの目的としては、左SHの清武をフリーにしたい、という目的がある。この10番がセレッソのチャンスの源泉だからである。一方、ガンバの方も清武を最も警戒している。ちょうどこの試合の直前にガンバの倉田のインタビューがラジオで流れていて、倉田はかつてセレッソで清武と一緒にプレーしたこともある選手だが、やはり一番警戒すべき選手として清武を挙げていた。「キヨが持つとうざい」と言っていたが、この試合での倉田のポジションは右IHであり、ちょうど左SH清武と相対する。つまり普通に戦えば清武は最も厳しいマークを受けるはずで、セレッソの方としてはそこをどうやって緩和するか、と言う所から逆算して約束事が決まっている。そのキーマンが逆サイドにいる坂元である。

ガンバ大阪 vs セレッソ大阪 前半の平均ポジション
上記はDAZNで集計された前半のセレッソの平均ポジションだが、明らかに左右非対称の形になっていて、清武は中にポジションしている一方、坂元はサイドに張っている。また、左右のボランチも役割が異なっていて、左ボランチの藤田がアンカー的である一方、右のデサバトはより前方、IH的なポジションを取っている。つまりセレッソの方は右肩上がりのポジショニングなのだが、同じくDAZNのデータを見ると、前半のアタッキングサイドは右サイドが27%に対して左サイドは46%となっており、攻撃は寧ろ左が圧倒的に多い。坂元はデコイなのである。
坂元がサイドに張ると松田と縦並びになり、背後からボールを受ける形になるので当然相手から受けるプレスは強くなる。それを緩和するために右ボランチのデサバトをIH的に上げて、坂元、デサバト、松田でトライアングルが出来るようにしている。
ガンバの方は、サイドでボールを持たれた時は5-3-2の3の部分がスライドするのが基本。スライドが間に合わない場合のみ、WB(藤春と小野瀬)が前に出てくる。4-4-2と比べて中盤を3枚で構成する分スライドには時間が掛かるので、セレッソの方は坂元のサイドで相手を引き付け、サイドを変えることで清武の周囲にスペースを作ることが出来る。こうした設計は坂元がサイドのデュエルに非常に強いから出来ることで、ガンバの方はスライドせずに坂元の対応をWBに任せてしまうと今度は坂元のサイドから崩されてしまうので、いわばスライドを強制される形になる。

前半11分にはセレッソから見て右サイド、ハーフウェーラインあたりで松田、坂元、デサバトのユニットで狭いスペースでボールを繋いだ後、松田に下げて、一気に木本までサイドチェンジ、更に木本から丸橋につないで、丸橋の内側にポジションを取った清武へ。ガンバの方は倉田が対応したが、ボールがサイドからサイドへ大きく動いたことでガンバの方はスライドが間に合っておらず、倉田の周囲(つまり清武の周囲でもある)には大きなスペースがある状態。ここで清武がボールを持って、引いてきた都倉へ、と見せてその裏に斜めに走った奥埜へパス。ボールが大きくなって奥埜には繋がらなかったが、チームの意図を感じさせるシーンだった。
また前半14分には同じく右サイドに相手を集めて松田から木本にサイドチェンジ、というシーンがあり、このシーンではガンバの方はIHの左右が入れ替わって右が矢島になっていたが、清武は矢島がスライドしてくる前に木本からボールを受けてもう一度木本に落とし、自らはサイドへ流れた。そしてボールは木本から丸橋へ。ガンバはスライドが間に合わない場合はWBが出てくるので、丸橋には右WB小野瀬が対応。そうなるとサイドに流れた清武は右CBの菅沼が見る必要があるため、三浦の周囲にスペースが出来る。その三浦の背後から、菅沼が出た裏のスペースを狙って都倉が走り込み、そこに丸橋からパスが出たが、オフサイドとなった。

一方のガンバの方だが、セレッソの4-4-2のブロックの中にボールを入れられない、という状況が続いていた。ガンバの方はビルドアップの時は3バックの前や間にアンカーの遠藤が下りてパスを散らすのだが、基本的に左右にボールが動くのみで、中を閉めているセレッソのブロックの中にいるIHにどうやってボールを差し込むか、というチームとしての意図は感じられなかった。ガンバのIHはブロックの中にいるとボールに触れないのでセレッソの2トップ脇に下りてきて触る、というシーンが何度か見られたが、そうなるとさらにブロック内の枚数が減ってしまう。結局裏に長いボールを蹴って、上背はないが納める力はあるアデミウソンの能力に託すか、そのセカンドを狙う、という攻撃が主体になっていた。

前半31分にはガンバゴールのペナルティエリア内で奥埜が藤春に倒され、PKかというシーンがあったが、主審はノーファウルの判定。このシーンではセレッソゴール前のクロスを丸橋が跳ね返して清武がボールを回収し、ガンバの方は宇佐美、矢島、アデミウソン、倉田、小野瀬の5枚が置き去りにされてセレッソのロングカウンターになったのだが、清武は遠藤のスライディングをジャンプで躱し、更に飛び出してきた三浦もダブルタッチで躱すという漫画のようなプレーを見せて、フリーになった奥埜へラストパス。最後は上述の通り、大外から戻って来た藤春が奥埜を倒してプレーが切れたのだが、ここは清武のらしいプレーが見られたシーンであり、また、藤春のプレーもらしいものだったなと。多分、ここでPKとなっていれば藤春のせいで失点、という見映えになっていたと思うのだが、実際には、カウンターの発端になったクロスが上がった瞬間には藤春も置き去りにされた5枚と同じ高さにいて、しかしカウンターが発動したと見るや全速力でゴール前に戻っていたからギリギリ間に合った。藤春はそういう戻りを厭わない分失点シーンに絡むことも多く、このシーンでもそうなりかけたのだが、それも含めて藤春らしいプレーだったと思う。

さて、スコアレスで折り返すかと思われた前半ロスタイム。セレッソの先制点が生まれたのは上述のサイドチェンジの形からだった。
前半46分、セレッソは右サイドから松田が持ち上がり、サイドに張った坂元にパス。坂元が藤田に落として、藤田が逆サイドの清武にサイドチェンジのパスを送った。清武はデサバトにボールを落とし、デサバトが更に左の丸橋へ。このサイドを大きく変えるプレーでまた倉田の周囲、そして右CBの菅沼の周囲にスペースが出来、このスペースで清武と奥埜がパス交換した後、今度はもう一度逆サイドの松田へ。そこから松田が奥埜にパスを付けようとして相手に当たり、藤田がセカンドを拾って今度は都倉に付けるが都倉が三浦に潰され、また藤田がボールを拾った。
右から左、もう一度右とボールが動き、更に右でボールの奪い合いが続いたことで左サイドの清武は完全にフリー。藤田から清武にパスが出て、ガンバの方は菅沼が飛び出す。そのスペースを埋めるため小野瀬が中に絞る。出来た大外のスペースに丸橋が走り込む。丸橋がフリーで清武からボールを受けてグラウンダーのクロス、奥埜は三浦の前に走り込むと見せてマイナス方向に動き直してフリーになり、クロスを綺麗に左足で合わせてゴールを挙げた。

奥埜のこのゴールにより試合はセレッソの1点リードで折り返し、後半に入ったのだが、後半に入ってもガンバのサッカーにあまり変化は見られなかった。ブロックの中にパスを差し込めないので基本はロングボール。ただ、そのロングボールが収まったりセカンドを拾えたりして高い位置に起点が出来るとセレッソの方はブロックを落とすので、ガンバの方はCBが高い位置を取れる。そうなるとCB・WB・IHのコンビネーションでサイドを攻略する余地が生まれるので、そこを足掛かりにしたい、という感じだった。
後半1分にはヨングォンが蹴ったロングボールをセレッソの方が跳ね返したセカンドを倉田が拾い、右サイドに展開して小野瀬がクロス、松田が撥ね返すがまたガンバがセカンドを拾って、これでセレッソの方を押し下げることが出来た。この形から菅沼がガンバから見て右サイド高い位置でボールを持ち、ハーフスペースにポジションを取った小野瀬にパス、小野瀬の方に目線が向いた木本の裏に倉田が斜めに走り込んで小野瀬からのスルーパスを受けると、飛び出してきたヨニッチもシュートフェイントで転ばせ、決定的なシーンを迎えたが、逆サイドから絞って来た松田がボールをクリアした。

一方、セレッソの方は少し攻め筋に変化が見られた。前半は右SHの坂元がサイドに張ったポジションを取ることが多かったのだが、後半は中に入るシーンも多くなった。坂元のポジショニングの規則性としては、松田が大外のレーンからボールを持ち上がった時や、大外のレーンから高い位置を取ろうとしている時は中にポジションを取り、逆に松田がその一つ内側のレーンから上がって来る場合は大外にポジションを取るようになっていて、後半は前者のパターンが増えた。坂元が中に絞るとガンバのIHとWBはそこを警戒して中に絞る。そうなると松田が高い位置でボールを受けられる。すると今度はガンバの方はWBが出て対応するので、その時は坂元はWBの裏の大外レーンに向かって走る。そこにパスが出るとガンバの方はCBが出て対応するので中の枚数が減る上、坂元は左右どちらでもクロスを上げられるのでチャンスにつながりやすくなる。坂元が外から中、また中から外と、大外レーンと内側レーンをジグザグに動くことで、セレッソは右サイドの高い位置で起点を作りやすくなっていた。もしかすると、前半のサイドチェンジを多用するやり方はカットされると相手のカウンターにも繋がりやすいので、リードを奪った後半はより低リスクに、同サイドでボールを繋いでチャンスメークしよう、ということだったのかもしれない。

ガンバの方は後半8分に遠藤を下げて井手口、矢島を下げてパトリックと2枚替え。冒頭に書いた通り今季は5枚まで交代カードを切れるので、ビハインドのガンバは積極的に動いてきた。井手口は遠藤のいたアンカーの位置にそのまま入り、パトリックは前線に入って宇佐美が右IHに回り、倉田が左IHとなった。

ガンバ大阪フォーメーション(後半9分時点)
18
パトリック
9
アデミウソン
10
倉田
33
宇佐美
4
藤春
15
井手口
8
小野瀬
19
ヨングォン
5
三浦
13
菅沼
1
東口

ガンバの方としては、セレッソのブロックの中にボールを入れられないので、それだったらロングボールやクロスのターゲットになれるパトリックを入れた方が良い。また、パスを繋がないのであればパサーである矢島や遠藤よりも井手口の方が良い、ということでの交代だったかなと。
前半10分にはIHに回った宇佐美がセレッソのボランチの前でボールを受け、セレッソの陣形を左右に絞らせて右サイドに展開、小野瀬がクロスを上げて、逆サイドのWBの藤春が飛び込み、中に折り返してパトリックがボールを押し込みそうになったがヨニッチの足に当たってCKになる、というシーンがあった。

ロティーナ監督はすぐに動き、このCKが蹴られる前に坂元を下げて片山を投入。片山はすぐにパトリックのマンツーマンに付いた。セレッソのCKの守備は基本ゾーンで、デサバトと奥埜がヨングォンと三浦にマンツーで付く、という形だったのだが、そこに高さのあるパトリックが加わったので、フィジカルの強い片山をそこに付ける、という対策を取ってきた。このCKではボールはパトリックの所には飛んでこなかったのだが、後半15分のCKではパトリックの所にボールが上がって、パトリックが片山に競り勝ってヘディング、しかし片山が付いていたことで強いボールにならず、GKジンヒョンがボールをキャッチしている。
また、片山は逆サイドからクロスが上がる時は大外、松田より更に外に落ちるようになっていた。後半10分のシーンでそうだったように、WBを置くガンバは大外から大外へと大きく展開することでセレッソを揺さぶっていたので、それに対する対策も担っていた。

一方、坂元が行っていた、右サイド内側のレーンに絞って松田を上がらせ、そこから相手WB裏の大外レーンに走って縦パスを引き出す、という動きは片山も行っていた。
後半15分、片山が内側のレーンから相手WB裏に走り、そこに松田がパスを出そうとしたが、ダッシュしてきた倉田がボールを足に当て、セレッソのスローインになった。このスローインは最初松田が投げようとして、ロングスローのある片山にスイッチしたのだが、片山はロングスローを投げずにボールサイドのペナルティエリア角に寄って来た奥埜にスロー。奥埜が三浦を背負いながら納めて都倉に預け、都倉が右サイドの松田にボールを落とした。ガンバの方は、CB中央の三浦が奥埜への対応のためペナルティエリア角まで出て、今度は松田がクロスを上げそうになったので中央に戻ろうとしたのだが、三浦がいた場所には最初スローインを投げた片山がいて、三浦が放したことでフリーになった。松田はクロスを上げずに片山に浮き球のパス。ガンバはヨングォンが三浦と入れ替わりで対応に出たが間に合わず、片山がペナルティエリア内右サイドからマイナス方向にグラウンダーのクロス。逆サイドからゴール前に清武が走り込んだがシュートには至れず、ボールを後ろのスペースに落とすと、走り込んできたのは丸橋。ペナルティエリアやや外のスペースに置かれたボールを左足で一閃すると、糸を引くような弾道のボールがガンバゴール逆隅に突き刺さった。

2点のビハインドとなったガンバだが、攻め筋にあまり変化は見られず。相変わらずIHがセレッソのブロックの外に下りてきて触る形が多いのだが、そうなる理由はガンバの3バックの左右、ヨングォンと菅沼が持ち上がるプレーをあまりせず、また、左WBの藤春も運ぶタイプではないからで、IHの倉田か宇佐美が下りてこないとボールを前進させられないからである。IHが下りてきて受け、そこからWBにはたいたりアンカーやCBに落としたりした後、パスアンドゴーでまたブロックの中に入って行ってセレッソのブロックを動かそうとするのだが、セレッソの方はゾーンで守っているのでそういう出入りにはあまり反応しない。結果、ブロックの外からクロスを入れる形であったり、ロングボールを蹴って高い位置に起点が出来た場合にのみチャンスらしいシーンが出来る、という感じだった。

しかし、後半20分にガンバは1点を返す。このシーンはガンバのGK東口がロングボールを蹴って、アデミウソンがガンバから見て左サイドで松田と競り合いながらもボールを収めたところから始まった。ここから、アデミウソンがフォローに来た藤春に落とし、藤春が宇佐美に預けたのだが、セレッソの方もブロックを作り直して対応。位置関係としては、サイド大外に藤春がいて、その内側にセレッソはヨニッチ、松田、藤田、片山の4枚の選手の四角形でブロックを作っている、ブロックの中にアデミウソン、外側に宇佐美、という形だった。つまりセレッソの方は枚数は足りていたのだが、4枚のうち、片山と藤田の位置関係が本来のポジションと逆になっていて、片山の方がボランチ側にいた。ここで、片山がちょっと宇佐美に食いついてしまい、ボランチのポジションから出てしまったのだが、そのタイミングで宇佐美からアデミウソンに縦パスが出て、アデミウソンが片山の空けたスペースを内側にドリブル、右足でファー側のパトリックに向けてインスイングのクロスを上げた。セレッソの方はパトリックに木本が付いてボールを頭で跳ね返したのだが、勢い余って倒れてしまい、そこにセカンドボールを拾った小野瀬のシュートが飛んできて、木本が地面についた手に当たってPKという判定になった。
スローで見ると確かに木本はボールが当たる瞬間に手を動かしたように見え、避けようとしたようにも、手で防ごうとしたようにも見える、という感じだったが、PKを取られても仕方のない当たり方ではあった。本来ならば、今シーズンからはこういうシーンでVARが介入する可能性もあったわけだが、過密日程によりVARの導入は見送られている。ただ介入は「明らかな誤審」があった時だけなので、「微妙な判定」の時はVARは非介入。もしVARがあったとしても、恐らくこのシーンの判定はそのままだったのではないだろうか。

ガンバの方はこのPKをアデミウソンが冷静に決め、試合は1点差に。また、得点後にガンバは倉田を下げて小野を投入した。
一方セレッソの方も、後半29分には清武を下げて柿谷、都倉を下げてブルーノ・メンデスと2枚替え。前目の選手を替えたのはガンバの攻撃がロングボール主体なのでそこに制限を掛けたいというのが一つの理由だと思うが、そもそもセレッソの方は清武と柿谷、都倉とメンデスの間にクオリティの差は殆どなく、得意なプレーがやや違うだけなので、5枚替え出来る今季は2枠に4人のレギュラーがいると考える方が良い。特に清武は昔から、過密日程になると必ず怪我をする選手なので、もう一人のレギュラーとして柿谷の負う役割は大きい。

小野の投入後もガンバの攻撃は大きく変わらず、というか、よりクロス主体で徹底されたという感じで、とにかくパトリックに向けてボールを上げる。1点目につながったのも一応パトリックへのクロスが発端ではあったので、続けて行こうということだったのだと思うが、さすがにセレッソの方も試合を通じてずっと同じパターンが続くと慣れて来るし、クロス対策として片山を入れてもいるので、ガンバの方は殆どチャンスを作れず、時間が過ぎていく。
ガンバは後半36分に菅沼を下げて山本を投入し、4バックに移行。同時にアデミウソンも下げて渡邉を投入し、井手口がアンカー、小野が左IH、山本が右IH、宇佐美がトップ下、パトリックと渡邉が2トップという4-3-1-2に布陣を変更した。

ガンバ大阪フォーメーション(後半36分時点)
39
渡邉
18
パトリック
33
宇佐美
11
小野
29
山本
4
藤春
15
井手口
8
小野瀬
19
ヨングォン
5
三浦
1
東口

この采配の意図は良く分からなかった。渡邉に関してはクロスやロングボールのターゲットということではっきりしていると思うのだが、山本については、プレーを良く知っているわけではないがどちらかと言うとパサータイプの選手だと思うので、こう言う試合展開で良さを出せる選手ではない気がするし、矢島を下げたこととも矛盾する。髙尾を入れて小野瀬をIHにするか、もしくは髙尾は菅沼より運べるので、布陣は変えずに単に菅沼のところに髙尾でも良かったのではないだろうか。

一方セレッソの方は、後半41分に奥埜を下げて豊川を投入。

セレッソ大阪フォーメーション(後半41分時点)
32
豊川
20
メンデス
8
柿谷
16
片山
5
藤田
6
デサバト
14
丸橋
3
木本
22
ヨニッチ
2
松田
21
ジンヒョン

豊川も精力的に相手GKやCBまでプレスに言っていたので、精度の高いロングボールを入れさせないように、というオーダーはあったものと思われる。ただ正直、ロティーナ監督はガンバのこうした攻撃をそこまで脅威には感じていなかったのではないだろうか。交代枠は1枚残っており、ベンチにはCBとボランチが出来る瀬古がいたので、ロングボールやクロス対応を考えるならデサバトや藤田を下げて瀬古をボランチに入れるという判断もあったはずだがそうしなかった。今のままで守り切れる、という判断だったのではないだろうか。
試合は結局、この後スコアが動くことなく1-2でタイムアップ。初めての「リモートマッチ」による大阪ダービーは、セレッソの勝利で幕を閉じた。

セレッソとしては準備してきたことをしっかり発揮できた試合になったのではないだろうか。一方、ガンバのサッカーは機能不全だった。この試合ではセレッソのブロックの中にボールを入れることは殆ど出来ず。試合後のDAZNのスタッツを見ると、ボール支配率はガンバが55%に対してセレッソは45%とガンバの方が10%ほど多かったのだが、プレーエリアはガンバ陣内が26%、セレッソ陣内が27%と殆ど五分。パス数も、セレッソの414本に対してガンバは624本と数字上はガンバが上回ったが、ガンバのパス数はヨングォンと三浦がそれぞれ74本、70本と突出して多く、それに続くのが遠藤、菅沼、宇佐美、小野瀬、藤春となっていて、宇佐美以外は全員ブロックの外でボールを受けるポジションの選手である。その宇佐美もブロックの外に下りてきてボールを触る回数が多く、つまりガンバの方はセレッソのブロックの外をボールが行き来しているに過ぎなかった。結果、ブロックの外からのロングボールとクロスに攻め手を限定され、その攻め手も片山の投入によって蓋をされた。スコア以上に内容には差があったと思う。

ただ、「もし観客が入っていれば」とは思う。例え内容が悪くても、ホームのサポーターがいれば、アデミウソンのPKで1点を返した時に、もの凄い圧力のリアクションがあったはずで、それは試合の流れを変えるに十分な圧力になったはずである。プレーをするのは選手だが、その選手のプレーに価値やパワーを与えるのはやはり観客で、それがないサッカーはやはり一味も二味も足りない。
この試合の終盤ロスタイム、ガンバのCKのシーンでGK東口がゴール前に上がり、その流れからセレッソの豊川がボールを奪って、無人のゴールに向けてドリブルを始めたシーンがあった。結果的にはゴール前に必死で戻った井手口がボールをクリアしたのだが、そのシーンを見ながら、もし観客が入っていれば、セレッソサポーターの大歓声と、ガンバサポーターの大絶叫が聞けたシーンだったのに、と思わざるを得なかった。
スタジアムに観客が戻る日が待ち遠しい。