ダンディズム全開 渋いオヤジロック炸裂 ROBERT PALMER(ロバート・パーマー) – RIPTIDE(リップタイド)

ロバート・パーマーとの出会いからリップタイド制作まで





1983年ごろから洋楽を聴き始めた歴史の浅い僕には、このイギリスのソウルシンガーについての情報は全くゼロ状態でした。
それで、DURAN DURAN(デュラン・デュラン)からのサイドプロジェクトの一つ、1985年のTHE POWER STATION(ザ・パワー・ステーション)のヴォーカルとして登場したのが初の出会いということになりますね。

 

ロバート・パーマーはイギリス人で1972年デビューのベテランアーティストだったようです。
この時点ですでに7枚のスタジオアルバムを出しており、イギリスや他の幾つかの国ではそこそこのヒットにはなっていたようです。
しかし、アメリカでブレイクするまでには至ってなく、ワールドワイド、という観点では知名度は低いままのキャリアで終わってました。

 

ところが後に現われた、若くて人気絶頂のデュラン・デュランのメンバーたちにとっては、アイドル的な存在だったようで、このサイドプロジェクトでの共演がかなうことになりました。
僕にとっては、突然あらわれたおっさんで、超ベテランのような顔をしながら見たことはない、いったいこれは何者なんだ!?と思ったのを覚えてますね。

 

ロバートのヴォーカルを取り入れたことによって、ザ・パワー・ステーションはデュラン・デュランとは全く異なる魅力を生み出したと思いますね。
あの激シブのヴォーカルはバンドのカラーを、本家とは違う重みのあるかっこいいファンクロックへと変貌させ、世界中で大ヒットを記録しました。

 

これで一躍世界中の注目を浴びたロバートでしたが、ザ・パワー・ステーションと共に歩み続ける道は選ばなかったようです。
アルバムのヒットを受けて、当初予定のなかったライヴツアーが決まりましたが、そこには参加せず、再び自らのソロアルバムの制作に向かいます。(結果としてライヴではヴォーカルの代役として、Michael Des Barres(マイケル・デ・バレス)が起用されました。)
批評家たちは、ツアーに参加しなかった彼に、プロの振る舞いではない、とか言ってますが、売れたからと言って安易に道を変えないおじさんの心意気と信念が垣間見えるようです。

 

そして、ロバートは前作から2年ぶりのソロアルバム制作に取り掛かります。
これまでのアルバムは、3作目以降はロバート自身がプロデュースを行なっていましたが、なんと今回はパワステのアルバムをプロデュースした、Bernard Edwards(バーナード・エドワーズ)が起用されています。
おまけにエドワーズはアルバム曲の大半でベースもプレイしています。
加えて、ドラムにはパワステで共演した元Chic(シック)のドラマー、Tony Thompson(トニー・トンプソン)が参加、彼もアルバムの大半でドラムスをプレイしています。
このように、リズム隊とプロデュースをパワステメンバーで占める、という戦略をとったわけですね。
完全に、パワステプロジェクトの成功に「味を占めた」、と言っちゃっていいでしょう。
先ほど、売れたからといって安易に道を変えない、と言いましたが、ここは訂正すべきかもですね。
むしろ、機を見るに敏、な戦略家というのが真相かもしれません。

 

さて、そんなメンバーを中心に制作されたアルバムは、予想通りパワーステーションの雰囲気が持ち込まれ、それはこれまでいまひとつブレイクしなかった彼のアルバムにとって、大きなブレイクスルーをもたらすカタリスト(触媒)となったのでした。

 

というわけで、今日は1985年リリースの、ROBERT PALMER(ロバート・パーマー)の8thアルバム、RIPTIDE(リップタイド)をご紹介したいと思います。

RIPTIDE(リップタイド)の楽曲紹介

オープニングを飾るのは、タイトルトラックでもあるRIPTIDE(リップタイド)。

 

ノスタルジックな雰囲気あふれるスロートラックのこの曲を聴いて、「外した」と思ったのは僕だけでしょうか。
想像するに、これまでのキャリアでこの手の曲を歌っていて、パワステの方が突然変異だったのか、と考えてしまったわけです。
いやいや、僕が聴きたかったのは、パワステで見せた彼のパワフルなロックヴォーカルなのに、とちょっとした外した感でアルバムはスタートです。

 

ところが、2曲目で全ては一変します。

 

2曲目は、HYPERACTIVE(ハイパーアクティヴ)。

 

ゆったりスロー曲から一変、トニー・トンプソンの力強いドラムスの音から元気な曲が始まります。
これこれ、これを期待していたのだ、僕は。

 

パワステでのリズム隊の演奏により、あの力強い雰囲気を再現し、ロバートも力強く歌い上げてます。
彼の持つヴォーカルのポップセンスとパワフルなバンドサウンドが融合して、心地よいポップロックになっています。

 

この曲はアメリカでは3rdシングルとしてカットされ、ビルボード誌シングルチャートで第33位、同誌Mainstream Rockチャートで第21位を記録しています。

 

3曲目は、ADDICTED TO LOVE(恋におぼれて)。

 

これですよ、このアルバムの一番の目玉は。
力強いトニーのドラムスから始まるこの曲は、80年代を代表する曲の一つだと思いますね。
ヘヴィなギターリフ、重いリズム隊、ゴージャスなシンセサウンド、その上に乗ったロバートのシブいヴォーカル。
完璧なポップロックだと思います。

 

リードギターにはパワステで共演したAndy Taylor(アンディ・テイラー)が参加しプレイを披露してます。
というわけで、トニー、バーナード、アンディ、ロバートと、ほぼほぼパワーステーションの音で、そこにシンセが気持ちよく乗った感じです。
ほぼパワステメンバーですが、あのファンクロックとは違う、絶妙なポップソングとなっています。

 

印象的なのは、あの「ディッ・ディッ・トゥ・ラヴ」と聴こえてしまうタイトルコールですね。
この独特の言葉がサビメロに乗って頭に残って離れない、キャッチーな効果を抜群に発揮しています。

 

おまけに、PVでは、マネキンのような無表情のモデルさんたちによるバンドもどきを従えて力強く歌うロバートのおっさん姿が、非常にシュールでよかったですよね。

 

この曲はロバートの作った曲ですが、もともとはChaka Khan(チャカ・カーン)とのデュエットソングとして作られていたようです。
ところが、彼女のレコード会社の大人の事情により、このデュエットは実現しませんでしたが、ヴォーカルアレンジとして彼女の名前はクレジットされています。
このデュエットヴァージョンも聴いてみたかった気もしますが、やはりこれはロバートのソロで間違いなく成功だったとも思いますね。

 

この曲がシングルチャートを駆け上がってきたときは、あのパワステのロバート・パーマーのソロとして大いに期待が膨らみましたが、実はこれは2ndシングルだったというのがちょっとびっくりでしたね。
えっ、1stシングルっていつの間に出てたの??と思ったわけです。
パワステ参加効果で1stからヒットしそうなものでしたが、そうはならなかったのがなかなかアメリカ市場もシブいですね。
しかし、この曲で、パワステ効果以上に、まさに楽曲の良さで一気に頂点を極めることになりました。

 

この曲はアルバムからの2ndシングルとしてカットされ、シングルチャートでNo.1、Mainstream RockチャートでもNo.1を記録しました。

 

4曲目は、TRICK BAG(トリック・バッグ)。

 

この曲はEarl King(アール・キング)という黒人ギタリストの楽曲のカヴァー曲になっています。
不思議なノリの曲ですが、次第に引きこまれますね。

 

こういう過去曲のカヴァーはロバートはけっこう挑戦しているようです。
こんな感じでブルーアイドソウルシンガーとしての地位を確立していってるようです。

 

5曲目は、GET IT THROUGH YOUR HEART(心への愛)。

 

この曲はロバート作曲の、スタンダード風楽曲です。
パワステサウンドを期待すると違うのですが、こんな曲こそ恐らく彼のほんとにやりたい曲なんだろうな、と感じさせられます。
やはり彼は歌がシブくて上手いですね。

 

このスローで美しいメロディと演奏があるからこそ、次の楽曲が見事に映えます。

 

6曲目は、I DIDN’T MEAN TO TURN YOU ON(ターン・ユー・オン)。

 

スリリングなシンセのイントロからパワフルなドラムへ。
ゆったりとした前曲からの流れがこれまた完璧です。

 

この曲は、Jimmy Jam and Terry Lewisジャムルイス)作曲で、Cherrelle(シェレール)という女性R&Bシンガーの1984年のヒット曲のカヴァーとなっています。
オリジナルの方は、プリンスのミネアポリスサウンドの影響をモロに受けているポップソングです。
しかし、ロバートはそれを見事にパワステ後の自分のサウンドに変貌させていますね。
シンセを抑え目にし、パワフルなドラムスを合わせて、そこにカッティングギターによってファンク風味を混ぜて、あとはシブくロバートが歌い上げます。
シンプルな楽曲にしたことで、ロバートの低音の歌唱力が際立っていますね。

 

この曲はアメリカでは4thシングルとしてカットされ、シングルチャートで第2位(その時のNo.1はボストンのアマンダ)、Mainstream Rockチャートでは第3位、Dance Club Songsチャートでは第26位を記録しています。

 

7曲目は、FLESH WOUND(フレッシュ・ウンド)。

 

この曲はヘヴィなギターリフと強力なリズム隊により、パワステっぽい楽曲となっています。
少し早口&低音でまくしたてるヴォーカルがまた心地よいですね。
ギターソロもワイルドになっています。
彼の低音重視のヴォーカルは、この手のヘヴィなサウンドと相性がいいように感じられます。

 

8曲目は、DISCIPLINE OF LOVE(ディシプリン・オブ・ラヴ)。

 

これこそ、このアルバムのリードシングルということになっているのですが、散々な成績に終わっちゃってますね。
まあ、あのパワステの大ヒットにより知名度を上げたロバート・パーマーというヴォーカリストの作る次のソロアルバムに多くの人は関心を持ったのでは、と思われます。
そして本人もこの曲で大ブレイクを夢見てたんじゃないかな、と僕は推測していますが、チャート的には悲惨な結果で終わってます。
それゆえ、僕は「恋におぼれて」が先行シングルと勘違いしちゃってましたから。

 

なぜヒットしなかったのか、考察するに余りに地味だったからでしょうか。
でも、これはかなりいい曲だと思いますけどね、個人的には。
粘着質なベースのグルーヴと、パワフルなドラムスが引っ張り、そこにロバートのヴォーカルがのって、とてもかっこいいポップソングになってると思いますけど。
サウンド的にはパワステを継承していて、あの流れなら大ヒットしてもおかしくないはずでしたがね。

 

この曲の失敗でアルバムまで失敗なら、パワステ効果ゼロ、ということで失意のソロアルバムになりかねなかったわけですが、「恋におぼれて」と「ターン・ユー・オン」の大ヒットで息を吹き返して、ロバート自身内心ホッとしたのではないでしょうか。

 

アルバムの中でも、しっかり存在感のある力強い楽曲で僕はとても好きですけどね。

 

この曲は先行シングルとしてリリースされ、シングルチャートで第82位、Mainstream Rockチャートでは第63位に終わっています。

 

アルバムラスト9曲目は、RIPTIDE (REPRISE)(リップタイド(リプライズ) )。

 

オープニングの曲の少しヴァージョン違いの繰り返しでアルバムは静かに幕をおろします。

まとめとおすすめポイント

1985年リリースの、ROBERT PALMER(ロバート・パーマー)の8thアルバム、RIPTIDE(リップタイド)はビルボード誌アルバムチャートで第8位、アメリカで200万枚を売上げる大ヒットとなりました。
母国イギリスでも、キャリア最高の第5位を記録しています。
また、大ヒット曲「恋におぼれて」は1987年のグラミー賞 最優秀男性ロックボーカルパフォーマンスを見事受賞しました。

 

そこそこ長いキャリアを持ちながらもブレイクに至っていなかったロバートでしたが、今回見事に大ブレイクを果たすことになりました。
その要因の主要なものは、やはりザ・パワー・ステーションでの参加であることは間違いないでしょう。
若くて人気絶頂のデュラン・デュランのメンバーと組むことは、知名度を上げる点で大きく貢献したに違いありません。

 

それに加えて、今回のアルバム制作に、ザ・パワー・ステーションで組んだメンバーを起用したのも成功につながる要因だったとも思えます。
ベーシスト兼プロデューサーとしてバーナード・エドワーズ、ドラムスにトニー・トンプソン、とあのパワステのヘヴィなファンクロックの屋台骨となった二人は、ロバートの音楽に革新をもたらしたといえるかもしれません。
彼等の参加により、最新のエイティーズサウンドへと自身の音をブラッシュアップすることになったのです。

 

もともとスタンダードナンバーも歌いこなすロバートが、ヘヴィなリズム隊に乗せて歌うという変化を多くの音楽ファンが気に入ったということになるでしょう。(まあ、オールドファンがその変化をどう思ったかはわかりませんがw)。
パワステで渋かっこいいヴォーカルを披露したロバートは、自身のソロアルバムでも同様のかっこよさをアルバムに封じ込めることに成功したのです。

 

そして大ヒットに貢献したのは、あの斬新なPVも含まれるでしょう。
「恋におぼれて」のあのシュールなビデオの成功で気をよくしてか、「ターン・ユー・オン」ではさらに美女の数を増して再び好評を得ています。
やはりダンディなおっさんは美女を引き連れてこそ映えるのでしょう。

 

一部のメディアからは、パワステサウンドをパクっての成功と揶揄されてもいますが、本人は逆に自分がパワステにあのサウンドをあげたんだと言い切っちゃってます。
まあ、時代の求めるものに敏感に合わせた彼の勝ちだと僕は思いますね。
そして、やはり何度も言いますが、パワステでの成功が彼の大ブレイクへの起爆剤になったことも間違いないでしょう。

 

ダンディなおっさんシンガーが、パワステで若者たちと交わり、パワーを取り戻して花開きました。
緩急入り混じるアルバムの構成もとてもよく、彼のヴォーカルスキルを際立たせているこのアルバム、なかなかの名作だと僕は感じています。

チャート、セールス資料

1985年リリース

アーティスト:ROBERT PALMER(ロバート・パーマー)

8thアルバム、RIPTIDE(リップタイド)

ビルボード誌アルバムチャート第8位 アメリカで200万枚のセールス

1stシングル DISCIPLINE OF LOVE(ディシプリン・オブ・ラヴ) ビルボード誌シングルチャート第82位、同誌Mainstream Rockチャート第63位

2ndシングル ADDICTED TO LOVE(恋におぼれて) シングルチャートNo.1、Mainstream RockチャートNo.1

3rdシングル HYPERACTIVE(ハイパーアクティヴ) シングルチャート第33位、Mainstream Rockチャート第21位

4thシングル I DIDN’T MEAN TO TURN YOU ON(ターン・ユー・オン) シングルチャート第2位、Mainstream Rockチャート第3位、Dance Club Songsチャート第26位

※シングルリリース順はアメリカのものを掲載しております。