誰か、嘘だと言ってほしい。

 

 

 

 平成31年4月1日(月)――新元号が発表されるその日、私は観音寺市の某ビジネスホテルで朝を迎えていた。しんと静まり返った港町。不思議と神聖な気分になる。

 

 夜が明けると同時にチェックアウトを済ませ、68番神恵院、69番観音寺、70番本山寺、67番大興寺を打ち、この日の大一番というべき66番雲辺寺へ向かった。

 四国遍路八十八箇所のうちロープウェイやケーブルカーを使って行ける札所がいくつかあるが、標高が最も高い雲辺寺ロープウェイには以前から一度乗ってみたいと思っていた。

 それは単に、高い分だけ眺めがいいだろうという単純な推測であり、費用を節約する意味でもどれかひとつ選ぶならココしかないとふんでいたのだ。

 という訳で、私の四国遍路唯一のロープウェイである。

 

 空がどんよりしているのが気になったが、まあいい。

 

山頂には霧がかかってるだけかと思いきや

 

 切符を買おうしていたら、マスクにダウンコートを着た窓口のお姉さんが、「今日の山頂は、すごく寒いですよ。」と教えてくれた。私がパーカー一枚でいたからだろう。

 その時には「そうか、今日は寒いんだなぁ。」ぐらいにしか思わず、一応お礼を言ってゴンドラに乗り込んだ。なにせ一週間前までTシャツで過ごせるほどの陽気だったので、今回は上着やコートなど持ってこなかったのである。4月だもん。

 出発の時間になって、マスクのお姉さんが乗ってきた。どうやらガイドを兼ねているらしい。

 

 ゴンドラが動き出すと期待が一気に高まる。

 

 思いのほかスピードがあり、スルスルと上昇していく。天候は悪かったが、さっき通ってきた田んぼや溜池がどんどん小さくなって平野が遠くまで一望できた。マスクのお姉さんもマイクを持つといきなり声がデパートのアナウンス調になったりして、旅行気分が高まった。

 

 しかし、半分ほど登ったところで霧が深くなる。

 

次第に霧から雪へ

 

 とうとうまわりが真っ白になり何も見えなくなった。ゴンドラの外は、かなり吹雪いている感じだが大丈夫だろうか?マスクのお姉さんは、「ほら、だから言ったじゃない。」という表情で外の銀世界を眺めている。

 

 

山頂駅に到着

 

4月1日のジョークであってほしい

 

 晴れていれば、山道をゆったり散策しながら、眺めの良いポイントにふと立ち止まって讃岐平野と瀬戸内海の壮大な景色をシャッターに収めている自分を想像した。

 しかし今はそんな事よりも、早いところ参拝を済ませて下山したい気分である。

 

照見五蘊皆空度一切苦厄

 

色不異空空不異色色即是空空即是色

 

般若波羅蜜多是大神呪是大明呪是無上呪是無等等呪

 

羯帝羯帝波羅羯帝波羅僧羯帝菩提

 

 

 

 新元号は「令和」に決まったようで、

 

 僧莎訶(めでたし)。

 

 

 

 でわ!