林太郎です。
※長文になります
"優しくなければ 強くなる資格がない"
「強い」とはどういうことかを考えさせられています。
空手は強さを追求します。"空の手"と書くくらいですので、素手による強さを追求します。空手においての武器は"手"ですので、自分の手を鍛え抜いて武器になるレベルにまで昇華させます。
手を握って作る「拳(こぶし)」や、手を広げて作る「手刀(しゅとう)」など、手そのものを武器にして、全身の力が手先の打撃点に集まるように体の各パーツも鍛えて連動させる訓練をします。
さらに達真空手(だるまからて)の場合は、肉体を鍛えるだけではなくて、「意念」も同時に鍛えます。意念とは意識の力、想像力です。宗家は河原の石を拾ってきて手刀で割ることができるのですが、それには意念がなければ肉体の力だけではできないとおっしゃいます。
そんな風にして作る「拳」には想像を絶する破壊力が宿ります。ですから空手は、素手による究極の強さを追求する武術と言えると思います。
そして攻撃力だけではなく、攻撃を受けたときの衝撃を受け止めるための訓練もします。
達真空手の場合は直接打撃制を採用していますので、上級者は稽古の中では拳や掌底、あるいは足の甲を直接相手に当てます。(防具をつけて行う稽古と防具をつけずに行う稽古があります)
まだ体ができていない初級者や中級者はこの稽古はしませんが、「力禅(りきぜん)」と「爆力(ばくりき)」という基礎訓練法を続けていくと、相手の素手による打撃を受けても瞬間的に跳ね返すことができるようになります。
たとえ跳ね返せずにまともに受けてしまった場合でも、「力禅」を続けてきた体は回復力が驚くほど速くなっているために、アザなどは直ぐに消えてしまいます。
このレベルに到達するには地道な日々の稽古が必要ですし、当然のことながら、最初は痛みにも向き合わなければいけません。拳で殴られたり足蹴りされれば痛いのは当然だからです。
でも、実際に突きや蹴りを受ける訓練をしていくと、その攻撃をどう受ければ痛みを最小限にできるかや、攻撃の衝撃を反対に利用して攻撃を仕掛けた相手に衝撃を与える方法を身につけることができるようになってきます。この場合は攻撃をした方がダメージを受けることになります。
また逆に、攻撃を与える側にとっては、どれくらいの力で打つと相手が痛いのかを知ることができますし、下手に打ち込めば自分が痛くなることも体験します。
訓練された生身の体は、相当な打撃を与えても簡単には壊れないですし、訓練されていない体に同じような攻撃をしたら大変なことになることを身を持って知ることができます。
もしもこの様な稽古を入門したての時におこなったらどうなるかは火を見るよりも明らかで、怪我をすることは避けられないでしょう。
あるとき僕は、自分が達真空手に入門して以来ずっと、上記のような訓練を積んできたことをしみじみと振り返ることがありました。1年や2年ではわかりませんが、6年経ってみると、入門したての頃よりも自分の体がいつの間にか鍛えられていることを自覚したのです。
つまり、自分はいつの間にか強くなってきていたのです。
もちろん、宗家に比べればまだまだ雲泥の差ではありますが、訓練を積んでいない人と比べれば、これもまた雲泥の差があることを自覚しました。
そしてそのとき頭に思い浮かんだのは、
強くなっているからこそ他人に対して優しくあらねばならない
ということでした。
思えば僕は小学生の頃から強さに憧れていたように思います。空手を習っている友人がいましたし、カンフー映画を観ては真似事をよくしていましたし、その俳優に憧れて少林寺拳法を習いに行ったこともあります。
カンフー映画では必ず悪人が登場して、主人公がその悪人を倒すというシナリオになっていましたが、自分もいつかそんなヒーローになってみたいと夢見たものでした。
格好良いアクションが強調された作品ばかりでしたので、作品の内容よりもアクションに魅了されて誰かを倒すことが強さだと思うようになっていました。
この考え方だと、自分がヒーローになるためには悪人が必要になってしまいますが、僕は妄想の中で悪人を生み出して、悪人をバッサバッサと格好良く倒す自分を想像して酔いしれていたのです。でも実際には、喧嘩もまともにできない格好悪い少年でした。
それが今はどうでしょう。悪人を倒すつもりもヒーローになるつもりもありませんが、何かの時に誰かを守ることくらいはできる程度の強さを持っている立場になっているのです。
これはある意味、『責任』ではないかと思います。強くなる代わりに、自然に生まれる他者に対する責任です。同時に他者を思いやる気持ちも生まれていると思います。強くなるというのは、たぶんこういう事なのではないかと思います。
最近、また相撲協会が賑わっていますが、厳しい稽古の中で自分を鍛え上げた人が他人を殴るというのは一体どういう事なのだろうかと疑問に思います。
スポーツ会でも暴力事件が後を絶ちませんが、自分自身を鍛え上げてきた一流の選手が他者に手をあげるというのは、一体全体、スポーツマンシップはどこへ行ってしまったのかと不思議に思います。
試合で勝ち抜いて優勝して日本一や世界一になったとしたら、そのときに周囲の人が注目するのはその人の言動です。
もしも、空手の世界チャンピオンが町で喧嘩して相手を殴り殺したというニュースが流れたらどうでしょう?その親はきっと、自分の子供に空手なんて習わせなければよかったと悔いるに違いありません。
強くなるということは、自分の中にある弱さや痛みを自覚しなければ、本当に強くなることはできないと思います。でもそれができるなら、他人も自分と同じように弱さや痛みを持っているということを想像することができます。
暴力沙汰で世間を賑わしている人達はたぶん、強さをとことん追求して鍛え上げてはきたものの、その過程で必ず出くわすはずの内なる恐怖や弱さや痛みを無視してしまったのではないかと思います。
強いということは、その反面に弱さを知っているということなのです。
そういう事を教えてくれるのが、僕は"武道"ではないかと思います。スポーツの世界でも武道に通じる精神があって、それがスポーツマンシップです。
達真空手に入門すると吉川英治の『宮本武蔵』が必読書として提示されますが、これは武道について書かれた時代小説です。その他にも課題として提示される本が沢山あるのですが、入門者はまさしく、幽閉時代の武蔵(たけぞう)の立場のように武の道についての学びを深めるように訓練されるのです。
「心技体」という言葉がありますが、強くなる訓練をし始めたなら、もっとも重要なのは「心」の部分、つまり"道"を知ることではないかと思います。
僕が中学生の時に極真空手を習っていた同級生の友人は、学校でイジメの対象になっていました。机に落書きされたり教科書や靴を隠されたりして、周りから小馬鹿にされていました。
その友人と僕は放課後も一緒に過ごすことが多かったのですが、今なお覚えているのは友人が口にする「畜生!」という言葉です。そう言うときは決まって何か嫌なことをされた時なのです。拳を作って壁を叩くこともありました。
友人のそういう姿を見る度に僕は言いました。「極真やってるんだからブン殴ってやれよ」と。
いま考えてみれば、友人のために僕ができることがあったと思うのですが、いつも拳を見せて「畜生!」の叫ぶ友人を見ていると、つい極真空手というものの強さを見てみたくなってしまうのです。
当時は極真空手といえば泣く子も黙るケンカ空手として恐れられていましたので、そんなものを習っている友人がどれ程強いのかを見てみたかったのです。
友人は僕の前では拳を作ることはあっても、他の生徒の前ではしませんでした。それはたぶん、僕に心を許していたからだと思いますが、僕がやっちまえ!と焚きつける度に返ってくる友人の言葉も決まっていました。
「人を殴ってはいけないんだ」
そう聞けば聞くほど、事あるごとに僕の言葉も決まって「殴っちまえばいいじゃん」でした。
考えてみれば僕は悪い友人だったと思います。そうやって彼のことを試していたのです。でも、その友人ももしかしたら、僕に対してだけでも自分は本当は強いということを示すことで自分を納得させていたのかも知れません。
ともあれ、
友人は一度たりとも空手を他人の前で使うことはなかったのですが、その友人の態度が35年以上経った今でも脳裏に浮かびます。もしも友人が、たった一度でも拳をあげていたら、僕の友人に対する気持ちは今とは全然違っていたと思います。
友人の態度は当時の僕にとっては衝撃的でした。そして、友人があの時期に貫き通した"武道"は、いまの僕の中で脈々と生きているのです。友人の態度は立派だったと思いますし、今にしてみれば感謝すらしたい気持ちになります。
たった一つの、たった一度の行動が、未来永劫に続くということを友人は叩き込まれてきたのだろうと思います。その事を本人がどこまで理解していたのかはわかりませんが、弱さや痛みを知っていたからこそ出来たことでもあったのではないかと思います。
その友人の態度を決して忘れることなく、これからも自分自身に向き合っていきたいと思います。
以上
河辺林太郎でした。
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【動画・達真空手演武〜日本刀VS空手〜】
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