「ね、名前は?」

  珍しくしつこく食い下がる信子に、ついに根負けしたのか、その若いメイドは

信子の服をたたみながら、

「ミキと言います」

 まだ幼さの残る、丸いほっぺたの女の子は、顔を赤くして言う。

「ミキ?

 えっ、かわいい名前~!」

 この子って、日本人なの?

 瞳の色は、薄い茶色なんだけど…

どこの国の血が混じっているのかは、わからない。

(おとぎ話の世界とはいえ)

 くっきりとした眉と、丸くて大きな瞳の、少し彫りの深い、くっきりとした顔立ちだ。

(この子、まるでお人形さんみたい!)

 あらためて、線の細い、薄い顔立ちの自分をかえりみて…うらやましく思う信子だ。

 

「ね、日本人なの?」

思わず聞くと、案の定、へっ?という顔をするので、

やはり違うのかなぁ~と、まだ状況ののみ込めない信子は、

少しガッカリするのだった。

だけど、この新しいメイドに、少し心が救われる思いがする。

 これも王子のイキなはからいなのだろうか。

信子はありがたく思う。

「ねぇ、ミキさん!

 ちょっとだけ、庭に出てみない?」

この子ならば、付き合ってくれるだろう…と、信子は誘ってみた。

「ダメですよぉ」と言いつつも、少し瞳が揺れている。

もしかして…これはいける?と。

「ね、ちょっとだけ!

 ねぇ、ほんの少しだけ」

 人のよさそうな顔をしている新しいメイドに、拝むようにして、信子はねだってみる。

 

 すると、やはり思った通り、ピシャリと断ることが出来ないようだ。

「うーん」と困ったようにうなると、しばらく目を泳がせている。

やはりこの子は、自分の思った通りの人なのか?

期待する瞳を向けると、

「じゃあ、少しだけ…

 1人じゃあ、ダメですよ!

 私と一緒ならば、ちょこっとだけ」

根負けしたように、困った顔でそう言った。

 


 

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