自分の進路?

そんなことなど…エラは今まで一度も、考えたことなどなかった。

だって…もう少ししたら、元の世界に帰るのだから…

そう心につぶやくと

「それは、いいの。

 だって私もいつか、自分の元いた場所へ、帰るのだから…」

思わずポロリと、エラは口に出して言う。

「えっ?」

意外そうな顔をして、カスミとシュウヘイがエラを見つめる。

「帰るの?ここにずっと、いるんじゃないの?」

ひどく驚いた顔をする。

 

「もしかして、思い出した?」

カスミの言葉に、今度はエラが驚く番だ。

だって もともとここは、一時的に置いてもらっているだけで、どっちみち、

落ち着いたら出ていく、という約束だったはずだ。

さらには記憶がない、というのは、勝手にシュウヘイたちがそう思っているだけだ。

それなのに、なぜ?

カスミがひどく、傷付いたような顔をして、

「まだ、ここにいればいいじゃない…」

濡れた瞳で、寂しそうに言うのだ。

 シュウヘイは黙って、2人の会話を聞いている。

割って入ることはしないけれど、それでもカスミと同じ思いだったようで、

「そうすれば?」と言うと、カスミの肩を軽く引き寄せた。

 

 何はともあれ、エラの生活は、また新しいリズムが生まれた。

朝起きると、まずは1番に仕事に出かけるカスミのために、

弁当をこしらえ、それに合わせて朝食も用意する。

初めは怖がって使えなかったコーヒーメーカーも、カスミに根気強く

教えてもらったおかげで、ようやく使いこなせるようになった。

つまりは生活の電化製品1式使えないので、とにかく覚えることから

始まった。

コーヒーメーカーも、豆の種類から、カスミの好みを聞き、挽き方から、

入れる量から…

全てが初めての経験なので、失敗ばかりだった。

やたらと濃くて飲めなかったり、

「これは、アメリカンというよりも、色水だね」

薄すぎたり…

またはヤケドしたり、練習のために飲み過ぎて、お腹を壊したり。

中々1人前になるには、大変だったようだ。

 


 

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