Fucked Up(ファックド・アップ)
『Dose Your Dreams(ドース・ユア・ドリームス)』

DOSE YOUR DREAMS [2CD]

じつに4年ぶりとなる通算5作目。今作では11年に発表したハードコア・オペラ・アルバム『David Comes to Life(デヴィット・カムズ・トゥ・ライフ)』の、続編となる内容のコンセプト・アルバムだ。

 

前々作は70年代のイングランドが舞台で、電球工場で働く労働者David Eliad(デビット・エリアーデ)が主人公。Veronica(ヴェロニカ)という活動家の女性に身を焦がすような熱烈な恋に落ち、爆破で彼女を失った。彼女の死の意味を考え、その存在を心に刻み、残された人生を生きていくという内容であった。

 

今作ではデヴィットがJoyce(ジョイス)という高齢の女性に出会うところから話が始まる。彼女の教えで自己啓発され、新しい自分に目覚めていく。そして“Dose Your Dreams(ドース・ユア・ドリームス)”ではジョイスの死別しその遺志を継ぐ決意が歌われている。“I Don’t Wanna Live in This World Anymore(この世に私の生きる場所なんてない)”では深い絶望の淵に落ち、生きる意欲を失うほどの挫折を味わう。そして“Joy Stops Time(喜びは時間を止める)”では、喜びや人を愛する事こそ生きる希望であることを知り、どんなにつらくても生き抜く決意をしていく。そこで物語は終わる。新しい自分に目覚め、挫折を経験し、生きる意味を導いていく。人生の成長を描いた物語なのだ。

 

コンセプトアルバムのため焦点がそこに行きがちだが、肝心のサウンドは全作品のなかで一番実験的な作品といえるほど、充実した内容に仕上がっている。今作でもNEGATIVE APPROACH(ネガティヴ・アプローチ)に多大な影響を受けた怒声ボーカルのインパクトを中心とした、ポスト・ハードコアとでも呼ぶべきか、アート・ハードコア(ピッチフォークではその呼び名を使用している)なサウンドを展開している。アンビエントやエレクトロニカなどのキラキラ系の電子音から、インダストリアルの工場音、サイケデリックなゆがんだギター、大人びたジャズのサックス、幻想的な女性ボーカル、ムーヴシンセなど、シンセポップなサウンドをふんだんに取り入れている。相変わらずどこにもないエクスペリメンタルなサウンドなのだ。

 

だが以前のようなハードコア特有の荒々しい攻撃的なギターサウンドはなくなった。代わりにカラフルなギターで、トリップするような幻想的なサウンドを変化している。ハードコアの荒々しさを求めて彼らの音楽を聴いている人からすれば、この変化に対してガッカリさせられた気分になる。だが彼ら場合、裏切られた気分にはならない。その理由は新しいことに果敢にチャレンジして、意欲的な熱意が作品全体から漲っているからだ。だからその変化に対して好感を持って受け入れられるのだ。

 

まるで現実と寝るときに見る夢との境界線を行ったり来たりし、アンビバレントな気分になるサウンド。新しいことにチャレンジしているし、今作もいい作品だ。