コラム 日本経済・金融政策

超高齢化社会の中で社会保障制度を維持することは果たして可能なのか?




総務省は2018年9月16日、65歳以上の高齢者の推計人口を公表しました。人口減少が進む中、高齢者は前年同期を44万人上回る3557万人となり、総人口に占める割合は28.1%と過去最高を更新しました。70歳以上2618万人に上り、全体に占める割合は初めて20%を超えて20.7%となっています。さらに、女性の高齢者は初めて2000万人を超えました。

65歳以上が4人に1人、70歳以上が5人に1人という時代

高齢者人口の割合は先進7カ国で日本が一番高く、2番目のイタリアが23.3%、3番目のドイツが21.7%で、最も低いのは米国の15.8%となっています。

既に2015年の時点において、日本の総人口に占める65歳以上の割合(高齢化率)が26.7%と過去最高に達していました。

1920年の国勢調査を開始して以来、初めて高齢者が4人に1人を超えたことが明らかになったのです。

70歳以上が5人に1人に相当する割合となったのは、戦後の第1次ベビーブーム(1947年~1949年)に生まれた「団塊の世代」2017年から70歳を迎え始めたことが影響しています。

日本の総人口は前年比27万人減の1億2642万人で、2011年以降、減少が続いています。

2018年9月15日時点で65歳以上の高齢者数を男女別にみると、男性は1545万人で男性人口に占める割合は25.1%。女性は2012万人で女性人口に占める割合は31.0%でした。

その一方、2017年の高齢者の就業者数は807万人で過去最多を記録し、14年連続の増加となっています。就業者総数に占める高齢者の割合は12.4%で、人口減少に伴って労働力が不足する中で、仕事に従事する高齢者が多いことが分かります。

「人生100年時代」を踏まえた雇用改革 70歳まで継続雇用年齢を引き上げへ

現時点においては、就業している高齢者の39%にあたる316万人がパートなどの非正規雇用です。

非正規雇用を選んだ理由としては、男女共に「自分の都合の良い時間に働きたいから」が最も多い状況となっています。

2018年10月23日、政府の未来投資会議で、安倍総理大臣は現行の65歳までの継続雇用の義務付けを、70歳まで引き上げ、就業機会を確保することを確認しました。

それに加え、新卒一括採用の見直しや中途採用の拡大に向けて、企業が中途採用比率の情報を公開することや、職務に応じた公正な評価・報酬制度の構築を進めることが必要だとの認識を示しました。

また、安倍総理大臣自らをトップとする中途採用に積極的な大企業を集めた協議会を設け、日本型の雇用慣行の変革に率先して取り組み、「人生100年時代」を踏まえた雇用改革を行う考えを強調しました。

これらの意向は、高齢者だけに限らず、若い世代も含めて雇用市場の流動性を高め、労働生産性を向上させることが狙いです。

安倍総理大臣は、「高齢者の希望、特性に応じて、多様な選択肢を許容する方向で検討したい」と述べた上で、2019年夏までに「生涯現役社会」を実現するための結論をまとめ、速やかに法改正するよう指示しています。

社会保障制度の全世代型への改革に向けて、早急に法律案を提出する方針です。活気のある高齢者が70歳まで働き続ければ、社会保険料や所得税などを納めることにもなり、若い世代の各種の税負担を軽減することにつながります。

企業側にとっても、「生涯現役」を後押しする動きが広がっており、定年を迎えた再雇用者を「即戦力」として期待を寄せています。人材を囲い込むため、給与の待遇改善再雇用の上限年齢を撤廃する動きも目立っているのです。

【参考例】

  • トヨタ自動車 65歳までの再雇用者のうち、組み立てなどに関わる技能職で2020年度から給与を見直す。
  • 大和証券 2017年7月に営業職で再雇用の上限年齢を撤廃。
  • ポーラ(化粧品大手) 人材確保と働く意欲の向上を狙い、定年後の再雇用者について年齢制限を撤廃。

安倍総理大臣は、法整備に当たって高齢者は身体能力や健康状態など個人差が大きいことを踏まえ、さまざまな働き方が選択できるよう、関係閣僚に具体的な検討を指示しました。

高齢者の就労促進について、労使双方が参加する国の労働政策審議会での審議を経て、2020年の通常国会に高年齢者雇用安定法の改正案を提出する予定です。

加えて、原則65歳となっている公的年金の支給開始年齢は、そのまま維持することを確認しました。

2040年には団塊ジュニア世代の影響で、3人に1人以上が高齢者となる

日本の総人口に占める高齢者の割合は、1950年以降に増え続けており、1985年に10%、2005年に20%を超えました。

国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、第2次ベビーブーム世代(1971年~1974年)65歳以上になる2040年には総人口の35.3%が高齢者になる見通しです。

労働力人口が多い東京でも高齢化率が上昇しており、少子高齢化による社会構造の大きな変化が浮き彫りとなりました。

都道府県別の高齢化率は、最下位の沖縄県が19.7%で、東京都が22.9%。最も高齢化が進んでいたのは秋田県の33.5%、高知県は32.9%と全都道府県で上昇基調にあります。

65歳以上のうち、老人ホームなどの施設に入所している人は168万5千人と急激に増えています。

高齢者では男性の8人に1人、女性の5人に1人が1人暮らしをしています。

世帯人数は、同居者のいない高齢者若年層を中心に未婚者が増えていることから、1人暮らしが32.5%で過去最多を更新しました。

「消費税増税」と「税と社会保障の一体改革」の密接な関係

政府広報や国税庁、財務省、厚生労働省のホームページでは、「税と社会保障の一体改革」の消費税率の引上げによる増収分を、すべて社会保障の財源に充てます。このようにして安定財源を確保することで、社会保障の充実・安定化と、将来世代への負担の先送りの軽減を同時に実現します、と書かれています。

この大義名分によって、「消費税と所得税、社会保険料と国民健康保険料」を引き上げるという構図が、少子高齢化が問題視され始めてから長らくの間、ずっと続いています。

この風潮に対して、TVメディアや新聞社は大して批判することもなく、それに同調する姿勢を取っていることに強い懸念を感じます。

とにかく、大阪北部地震・台風21号・台風24号・海道胆振東部地震被害の本格的な復興が遅れているのに、「まず増税ありき」で政策を考えようとする政治家や官僚が多勢を占めていることが非常に疑問だと思っています。

消費税率を5%から8%へ、8%か10%へ引き上げる条件として、デフレ脱却を求める声も相当根強かったはずです。

それは、デフレを脱却しないと、消費税の増税が、日本経済に致命的なダメージを与えてしまうことが竹下政権の89年や橋本政権の97年の増税で証明されてしまったからです。

でも、2009年~2012年に民主党が政権を取っていた頃は、特に与謝野経済財政政策担当大臣や藤井裕久内閣総理大臣補佐官(社会保障・税一体改革及び省庁間調整担当)が「デフレを肯定的に評価し、容認する姿勢」を見せていました。

「物価下落がマイナス1%ぐらいは、むしろ働く人や年金生活者にとってはプラスの要素」と言明していたのです。

つまり、賃金や年金が同じ条件であれば、デフレの方が購買力が高まる、と考えていたことになります。

要するに、デフレが悪化すれば、労働者の賃金は減少し、年金支給の負担は増えてしまうからです。

デフレは安くモノやサービスを購入できるが、失業や不景気から抜け出せない悪循環に陥る

とはいえ、「デフレ=安価でないとモノが売れない=景気の低迷」とほぼ同じ意味だから、税収の落ち込みは余計にひどくなりました。

詰まるところ、デフレ下で増税を行った場合には、「百害あって一利なし」という現実に直面することを1990年代後半~2000年代前半の現代史が見事に証明してしまったのです。

「好ましいデフレ論」がことごとく失敗に終わった民主党政権時代

民主党政権は、「好ましいデフレ論」を主張していましたが、そこを突っ込んでくれるメディアや記者が出てきて欲しかったと考えています。

確かに、今となっては、自民党が与党となり、アベノミクスを掲げる安倍首相が3期連続で総裁に就任しています。

しかし、その対価として、2012年に民主党の野田元首相が、3党合意(自民党・民主党・公明党)で、消費税の引き上げと議員定数の削減を公約すれば、衆議院の解散総選挙を行っても良いという、毒薬条項を約束させたことが未だに足を引っ張っているのです。

これで、本来、経済成長上げ潮派増税反対だった安倍総理大臣は仕方なく2014年4月に消費税増税に踏み切ることにしました。

※経済成長上げ潮派とは、経済を成長させ、成長率が上がる事で税収が自然増となり、消費税の税率を上げなくても財政が再建されるとする立場[。

民主党政権時代も、デフレ脱却については早急に解決したい課題だったのだけれども、初めて政権を握る与党になってみて、各省庁との連携が上手く取れず、具体的な方策が分からなかっただと推察しています。

とは言え、そのままデフレを放置して長引かせていたら、「失業者は減らない、貧困層がさらに増える」という悪循環が発生していたはずです。

民主党政権時代は、実体経済の需要がない不況が長引き、「デフレが続いている」というだけで、新規雇用が生まれず、実は数十万人の失業者が存在していたのです。

デフレこそが、経済成長を阻害させる諸悪の根源であることを理解すべき

このように、良いデフレというのは存在しません。もしあるとすれば、一部の富裕層、金持ち達が、モノやサービス(住宅、自動車など含む)を安く手頃な値段で購入できるくらいです。

もちろん、同じように低所得者にとっても、生活必需品を安く買えるのですが、そんな状況では豊かな暮らしを望むことは到底不可能です。

何より、日々の仕事や労働環境が不安定であっては、精神的なストレスやダメージを受け続け、鬱状態になったり、生きる意欲を喪失してしまいがちです。

「夢や希望」「生きがい」を持って日常生活を営むことは、人間の心の安寧や幸福感にも関係してくるのです。

その意味でも、消費税増税はデフレ脱却を妨げ、心の萎縮をもたらす要因となり得ます。

超高齢化社会において、社会保障制度を維持することはもちろん出来ます。

ただし、そのためには、安倍総理大臣がそうであったように、経済を成長させ、成長率が上がる事で税収が自然増となることを目指す必要があります。

その結果として、消費税の税率を上げなくても財政を再建していけるからです。

それを、短期的な5年、10年のスパンで考えるのではなく、30年、50年、100年といった長いスパンで長期的に考えていく発想が大切です。

社会保障制度を維持するためにも「教育」への投資は必要である

「国家百年の計」と言いますが、安倍首相も、国会の年頭所感で「一年の計は穀を樹えるに如かず。十年の計は樹を樹えるに如かず。終身の計は人を樹えるに如かず。」と述べています。

これは、春秋戦国時代の斉(せい)の名臣である管仲(かんちゅう)が、中国の覇者に君臨することになった国王の桓公(かんこう)に送った言葉です。

かつては小国に過ぎなかった斉(せい)の国王、桓公(かんこう)は、内政改革を行って国力を増大させ、最も勢力のある強い国となりました。

それは、政務補佐役を務めていた管仲のアドバイスおかげで、桓公(かんこう)が中国を統治する立場にまでのし上がることが出来たからです。

上記の「国家百年の計」には、「1を植えて1収穫するのは穀物。1を植えて10収穫できるのは樹木、そして1植えて100の収穫をするのは人だけが行うことが出来る」という意味があります。

かつての春秋戦国時代、管仲(かんちゅう)は、「私は人材という種を斉(せい)の国に蒔きました。これを育て収穫して上手く活用することこそ真の国王と言えるでしょう。これからは、この国の人材育成に力を尽くして次世代へ人材を残すことこそ大切なのです。」と桓公(かんこう)に言いたかったのです。

つまり、「長期的な観点に立って人材教育に力を入れるべきであり、その理由は国家を形成しているのは、人材であるからだ。」と伝える意図があったのです。

2019年10月に実施される消費税10%の増税は、「教育無償化の財源に当てる」と安倍総理大臣は述べています。

確かに、「人を育てること、教育を充実させること」は非常に重要なテーマです。

しかし、その財源を消費税に頼るという方法は如何なものでしょうか?

教育国債など、他の方法をもっと議論しても良かったはずです。

日銀の金融緩和が行き詰まりを見せる中、ぜひ「国債発行による財政出動」について、改めて前向きに政策の中に取り入れて欲しいと考えています。

教育とは、代表的な「人材投資」です。教育をしたその時点では、生産性向上は起こりません。しかし、教育は、「現在の便益」ではなく、「将来の生産性と供給能力の向上」のために行われる投資なのです。

教育への惜しみない投資は、「国力を発展させ、次の世代にツケが残らない」ための最善の方法だと言えます。

しかし、財務省の官僚は「消費税増税」を通じて、教育の充実を図ろうと画策しています。

この背景には、プライマリーバランス(基礎的財政収支)の黒字化こそが、最優先事項である、という誤った発想が深く根付いているのです。

プライマリーバランス(基礎的財政収支)の黒字化とは、「何かの支出を増やす場合、他の支出を削るか、もしくは増税」を前提にしています。いわゆる緊縮財政です。

今の日本が置かれている状況は、緊縮財政では衰退するだけです。絶対に立ち直ることが出来ません。

国家が盛衰するかどうかの分岐点にある以上、正しく適切な形で責任ある財政出動を行うべきだと切望しています。



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