[Reborn]

朝、予定の時刻より
5分早く目が覚めた。
幼いころ、
“夜寝る時に枕元で願うと
枕が起こしてくれる”と
母の魔法を教えられ
子供心にそれを信じていた。
今では
あと何時間寝れるか逆算をし、
就寝すれば目覚まし時計よりも
早く起きれる体になった。

ダイニングチェアで
暫く呆然としていると
棟内駐車場で盗難アラームが
鳴り響いた。
5分程音は反響したが
車の持ち主が現れ、騒ぎが止むと
春うららを告げる鳥のさえずりが
再び訪れた。

空は少しずつ赤みを帯びて
街のシルエットを
あらわにしていく。


時折凛とした空気が
カーテンの隙間に流れ
夕べの食事の残り香と共に
風は私の鼻腔をくすぐった。

まだ起きる事の無い家族をよそに
私は出勤の身支度をした。
仄かに香るTシャツ、
ベロが出たままのパンツを整え
ハンカチを後ろポケットにねじ込んだ。
洗顔をしながら軽く頬を叩き、
私はギアを上げる。
行くぞ、オトコ!
気持ちに一筋のヒカリを込め
私は一家の父となって
玄関をあとにしたのだった。