カトリック社会学者のぼやき

カトリシズムと社会学という二つの思想背景から時の流れにそって愚痴をつぶやいていく

あなたの信仰の意味は何か ー キリスト論の展開(2)

2019-04-23 16:01:05 | 神学


 表題は先に触れた岩島師の「心すべき点」の二点目。自分の信仰が、自分自身にとって、自分の人生にとって、どんな意味を持っているかを問いなさい、という意味だろう。信仰を持っていても、教会に通っていても、現代の日本ではそれで特に人生が変わったとか、職場で影響を受けているとかいう人は少ないだろう。もちろん信仰が人生そのものという人もいるだろうが、私なんぞはそれで人間関係が少し広がり、深くなったという程度のもので、岩島師の言葉には反省しきりである。

Ⅱ 新約聖書のキリスト論

 新約聖書のなかにみられるキリスト論の特徴は、パウロと共観福音書とヨハネ福音書ではキリスト論の強調点が少し異なるところだろうか。共通する原点は言うまでもなく復活体験であり、復活体験を通してキリスト信仰に到達している。中心命題は明確である。「ナザレのイエスは、神の子キリストである」。

1 パウロ

 パウロのキリスト論の特徴は三点ある。
①十字架の神学 パウロ書はどれも十字架と復活の話が中心だ。ナザレのイエスの公生活についての記述はない。パウロはイエスに会ったことがないのだから、当然と言えば当然か。
②神の子イエス イエスが神の子であることを繰り返し強調する。「(神は)罪を取り除くために御子を罪深い肉と同じ姿でこの世に送り」(ロマ書 8:3 新共同訳)(1)。同じロマ書8:32とか、ガラテア4:4-6とか、コロサイ1:15~とか、パウロはイエスが神の子であることに強いこだわりを示す。
③主の再臨 主が再臨されるというとき、終末論的視点がともなうという。「主が来られるときまで生き残る私たちが、眠りについた人たちより先になることは、決してありません」(Ⅰテサロニケ4:15)。イエスを「最後のアダム」とも呼ぶようだ。パウロから終末論を読み取ることは私にはなかなかできないが、大事な論点なのであろう。

2 共観福音書

 中心テーマは共通している。「ナザレのイエスはキリストだ」。だが共観福音書のどれも、名称、時、場所などの記述はリアルで、まるで読み物のようだ。
マルコ: 最初の福音書。序文「神の子イエス・キリストの福音の初め」は、最後の百人隊長の言葉「まことに、この人は神の子だった」(15:39)と対応しているのだという。
マタイ: ユダヤ人向けに書かれている。だから旧約聖書からの引用が多い。
ルカ: 異邦人(ギリシャ語を話す人々など)向けに書かれている

3 ヨハネ

 ヨハネのキリスト論は独特だ。それは「先在のキリスト論」と呼ばれる。プロローグ 「初めに言があった。言は神であった。この言は、初めに神と共にあった・・・」と続く部分は、イエスが父からこの世に送られ、また、父の下へ向かう下降、上昇のパターンを強調する。
また、「子キリスト論(独り子論)」もヨハネの特徴だ。父と子の父子関係が強調される。イエスは父に派遣されて父と一体であり、父に従順である点が強調される。

4 その他の書

 ヘブル書には「大祭司キリスト論」があり、ヨハネ黙示録には「小羊キリスト論」がある。その他の合同書簡にもさまざまなキリスト論があるが、基本はパウロと同じだという。


Ⅲ 初期教会のキリスト論

1 教義の時代へ

 1世紀後半は「使徒の時代」だが、1世紀末から2世紀にかけて「初期教父」(使徒教父)の時代に入る(2)。様々な教父が現れ、また、異端説も出現してくる(3)。この異端説への反駁という形で信仰内容が明確化され、教義が確定されていく。

2 異端(その1)

 1世紀末から2世紀初めにかけて、二つの大きな異端説が登場する。
①キリスト養子説 イエスは元々ただの人間で、ヨルダン川の洗礼によって神の養子になっただけだと説いた。つまり、イエスの先在や受肉を否定した。ユダヤ教の唯一神の信仰を守るための折衷案みたいなものだったのだろう。
②キリスト仮現説 decetism イエス・キリストの神性、神的本質は不変であり、受肉も受難も仮の宿り・仮象にすぎないとする。グノーシス主義の霊肉二元論に影響されて肉体を悪とする思想だ。キリストの人性を否定する。

2 使徒教父の反撃

①ローマのクレメンス(30-101)(教皇在位91-101) 「クレメンスの第一の手紙」という使徒教父文書のひとつを書く。コリント教会内の紛争に関してギリシャ語で書簡を認めた。
②ディダケー 使徒教父文書の一つ。ディダケーとはギリシャ語で「教え」という意味らしいが、日本語では「12使徒の教訓」と呼ばれるという。マタイ福音書との類似性が強いのでマタイと同様にシリアで執筆されたらしい。教会生活の規定を記しているという。
③スミルナのポリゥカルポス(69-155) 使徒ヨハネの教えを直接受けたという。受肉の教義とイエスの死の証言をする手紙を残しているようだ。

3 アンチオキアのイグナティオス (35-110)

 使徒教父のひとり。司教。聖人。ロマ書の霊肉キリスト論のケリグマを踏襲しているというが、霊と肉の両系列がどのように結びつくのかは説明していないという。。「公同の教会」(エクレジア)という言葉を初めて用いて、「主教」の権威を強調したという。

4 ユスティノス (100-165)

 最初の護教家教父(4)。「ロゴス・キリスト論」を展開した重要な教父。ロゴス・キリスト論とは、ロゴスをキリストに当てはめた神学のこと。ここではロゴスはみことばのこと(5)。プラトン主義のロゴス概念をベースにした「ロゴス種子」論を生み出し、旧約の預言者たちだけではなく、ソクラテスなどギリシャ哲学者をもキリスト以前のキリストと呼んだという。かれは、キリストは神と人との仲介者であるというヘレニズム的なキリスト論を展開した。カール・ラーナーの「無名のキリスト論」との関連がつとに指摘される。

5 エイレナオス

 2世紀後半の神学者で、リヨンの司教(フランス)。『対異端駁論』で「グノーシス主義」の正体を暴露し、正統信仰を護った。異端に対抗し、初期教会では最も重要な神学者だろう。グノーシス主義に勝てなければ、キリスト教は生き延びれなかっただろう。神学ではユスチノスのロゴス・キリスト論を継承しているが、理性や知識を強調したユスチノスとは異なって愛や救いの業を強調した。かれは「キリスト教信仰の総括者」と呼ばれるほど重要な存在のようだ。かれは「交換の原理」と呼ばれる神学を提唱しているという。「神の子が人間になったのは、人間が神の子となるため」だという。

 細かい話が続いたが、以上が初期教会のキリスト論である。次の3世紀のキリスト論は次回に回したい。


1 この部分の聖書協会共同訳はおもしろい。「神は御子を、罪のために、罪深い肉と同じ姿で世に遣わし」となっている。神学的に何が違うのかはよくわからないが、発音してみるとなにか違うと感じる。
2 教父 Church Fathers( Fathers of the Church) とは、1世紀末から8世紀頃までの古代・中世キリスト教会で正当な信仰を伝え、聖なる生活を送った人のことを指す。カトリックには教父の4条件というのがあるようで、時代的古代性・正統的教義の保持・聖なる生涯・教会の公認、の4つだという(岩波キリスト教辞典)。教父の多くは司教だが、司祭や信徒も含むらしく、またみなが聖人とされたわけではないようだ。現在は、カトリック・プロテスタント・正教を問わず、2世紀頃確立した信条や正典、4・5世紀の4(5)大公会議の決定事項は共通して認めているので、「教父学」(patrology)という学問分野だ独立して成立しているという。
3 異端 heresy とは何か、は一義的には決めかねない。異端は正統(正当ではない)の対概念だから、正統が決まらなければ異端は決まらない。普通は「謬説」を意味するが、キリスト教では教義上の分離を意味しているようだ。今日の日本では、正統と異端の境界を曖昧にする議論が流行っているようだが、社会学的に言えば構成論の視点を導入しないと、迷路に迷い込んでしまうであろう。
4 護教家も誤解を招きやすい用語だ。apologist。単にキリスト教を弁明・擁護する人という意味だけではない。初期教父はキリスト教がギリシャ・ローマ文明のの正統な相続者であり、キリスト教を迫害することはギリシャ哲学・ローマの思想に反すると主張した。
5 ロゴスも難しい概念だが、ギリシャ哲学では言葉、理性、宇宙などをさす。旧約聖書ではさまざまな出来事をさすらしいが、新約では受肉した神の言という意味になり、キリストに収斂する。ロゴス・キリスト論は三位一体論とあいまってキリスト教の教義の中核となる。だが、近代以降、人間理性が神の座につくと、人間社会の無限の進歩が想定されてくる。が、この近代主義は自然の破壊や他民族の征服をもたらす。近代主義の根幹をなすロゴス中心主義を克服していくためには、初期の教会や教父たちが持っていた、もっと躍動的な、包摂的なロゴス概念に立ち戻る必要があるようだ。といっても近代主義も批判・否定さえすればよいというわけにもいかない。稲垣良典先生の近作『神とは何か』からは多くを学ばせてもらったが、近代主義の評価の議論はまだまだ続くだろう。神学と哲学に課せられた課題は大きい。

 

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