訴因変更の要否と可否の考え方 | 司法試験のあるきかた

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注:平成26年司法試験刑事訴訟法のネタバレを若干含みます。

 

 

訴因変更の要否とか可否というのは、私が受験生だったころ(特に予備校の入門講座を受けただけで問題演習を全然していなかった学部生の時)は、どういう論点なのかを全く分かっていませんでした。

 

そういう論点を勉強するときに大事なのは、やはり、その論点が想定している典型的な場面を押さえて、イメージを掴むことです。

このエントリーが、訴因変更の要否と可否についてイメージを掴む一助となれば嬉しいです。

 

 

訴因変更の要否というのは、典型的には、裁判所が判決をするに当たって、検察官が公訴事実として明示した訴因の内容(刑事訴訟法256条3項)と、裁判官が心証を基に認定したい内容にズレが生じている場合です。

(後で言及しますが、平成26年司法試験は、起訴後に新たな事実が判明し、検察官が当初設定した訴因とは別の事実を意図的に立証しようとする場面なので、上記青字の場面とは異なります。まずは訴因変更の要否が問題となる典型的な場面から押さえましょう。)

 

たとえば、検察官が起訴状に記載した公訴事実が以下の内容だったとします。

 

被告人は、令和2年9月28日午後10時ごろ、大阪府大阪市北区西天満1丁目12-5付近の路上において、A(当時65歳)に対し、同人の胸倉をつかんで路上に押し倒す暴行を加え、よって、同人に加療約2週間を要する胸部打撲の傷害を負わせたものである。

 

刑事裁判の審理が進み、その結果、審理を担当する裁判官は、被告人がAの胸倉をつかんで路上に押し倒す暴行を加えたのは間違いないが、その時間が、午後10時ではなく午後11時だったとの心証を形成した場合に、上記の公訴事実のまま、しれっと暴行時間だけ11時にしても良いのでしょうか。

また、被告人が胸ぐらを掴んで路上に押し倒したのが、Aではなく、Aと一緒にいたBだったとの心証を裁判官が得た場合はどうでしょうか。

検察官が当初に設定した公訴事実のまま、裁判所は心証どおりに認定することができるのでしょうか。

 

 

このような場合に問題となるのが訴因変更の要否です。

 

訴因変更の要否は、検察官が訴因変更請求をせずとも、裁判所が事実を認定できるかという話なのです。

すなわち、訴因変更の要否が問題になる場面では、検察官は未だ訴因変更の請求(刑事訴訟法312条1項)をしていません

 

これに対し、訴因変更の可否が問題となる場面というのは、検察官が訴因変更請求をした場合に、裁判所がそれを許さなければいけないか、という問題です(条文を見ればわかりますが、訴因変更の要件を満たす限り、裁判所は訴因変更を許さなければいけません。当事者主義が表れていますね)。

訴因変更の可否が問題になる場面では、基本的に検察官は訴因変更の請求をしていることが前提になります

 

まずはここまで区別して押さえましょう。平成26年司法試験のような、訴因変更の要否と可否がまとめて問題になる場面は一先ず後回しです。

 

 

訴因変更の要否については、有名な平成13年決定がありますね。

平成13年決定が示した基準というのは、検察官が訴因変更しないまま、検察・弁護人それぞれが証拠を提出して攻防を尽くし、いざ判決、という段階になって初めて、起訴状に示された公訴事実とは異なる事実を裁判所が認定する際のハードルとして機能します。

 

審判の直接の対象である、罪となるべき事実の画定に不可欠の事項をを裁判所がいきなり変更するのは不意打ちにも程があります。

 

検察官から窃盗罪の嫌疑で起訴されたから、窃盗を行っていないという防御を尽くしたのに、判決の段階でいきなり「あなたは盗品等有償譲受の罪を犯した」と言われたら、「!?」ってなりますよね。

 

だから平成13年決定は、審判対象の画定に不可欠な事項に変更がある場合には、無条件で訴因変更が必要であるとしているのです。

 

そして、そのような事項でなくとも、一般的に被告人の防御の観点から重要な事項であれば、やはりその点について重点的に審理を行うべきですから、訴因変更をさせた上で、変更後の訴因について改めて攻防を尽くすのが健全です。

なので、被告人の防御に重要な事項に変更がある場合にも、原則として訴因変更を必要とするのです。

 

ただ、平成13年決定は例外を認めます。

それが、具体的な訴訟の経過から被告人の防御に不利益が生じない事情がある場合です。

すなわち、攻防を尽くした結果、裁判所が公訴事実とは若干異なる認定に至ったというのであれば、攻防を尽くした被告人にとって不意打ちにはなりませんから、そのような場合には、被告人の防御の見地から重要な事実に変更があったとしても、防御の利益は害されておらず、訴因変更は不要と言うことになります。

 

訴因変更の要否が問題となる場面で、審判対象の画定の見地から必要不可欠の事項であるかとか、被告人の防御の観点から重要か(更に当該訴訟において攻防が尽くされていたか)を検討するのは、「そのままの訴因で放置して(=変更前訴因を維持しながら別の事実を認定して)良いか」を判断するのが訴因変更の要否の論点だから、ということになります。

 

 

 

これに対して訴因変更の可否は、公訴事実の同一性が認められるかぎり、裁判所は検察官の訴因変更請求を認めなければなりません(刑事訴訟法312条1項)。

 

訴因変更の可否は、非常にざっくりと言えば、「同じ手続内で処理してよいか、それとも別の手続を踏むべきか」を問題にします。すなわち、1個の刑罰権の中で処理してよいのか、それとも別の刑罰権の話なので改めて手続を踏む必要があるのか、ということです。

 

公訴事実の同一性が認められるのであれば、それは社会的に見て同じ事実なので、同じ事実に対する刑罰権は、同じ1個の手続で完結すべきことになります。二重処罰の禁止や一事不再理効との関連で説明する基本書もありますね(酒巻先生の「刑事訴訟法」など)。

 

これに対し、公訴事実の同一性が認められないのであれば、それはもはや社会的に見て別個の事実なので、それを同じ1個の手続で済ませようというのはよろしくない、社会的に2個の事実といえるなら、2個とも別々に罰する可能性を確保せよ、ということになります。

 

 

公訴事実の同一性を検討する際に、非両立性の基準が用いられることがあります。これは、社会的に見て同じ事実と言ってよいかを検討しているものと考えるとイメージが掴みやすいです。

 

 

最判昭和29年5月14日は、背広を窃取したという窃盗の訴因に対して、盗品等有償処分あっせん罪の訴因が予備的に追加されましたが、これは、被害者が盗まれた背広を被告人が所持していたという社会的な事実は変わりが無く、ただ被告人が行った行為が窃盗であるか有償処分あっせんであるかが判然としないというだけです。

 

(私はこの事件の背景を詳しく知らないため、被告人が背広を盗んで質入れしておきながら、「これは被害者を自称する人からもらったんだ。だから質入れした」と弁解し、警察・検察はこの弁解を排斥する証拠を確保できなかったから、「たとえ被告人の弁解内容を前提にしても盗品等有償処分あっせんで有罪」ということを示すために訴因を追加した、という経緯をひとまず勝手に妄想想定することにします。)

 

 

窃盗の訴因と有償処分あっせんの訴因は、抽象的には両立しそうですが、これらの日時が近接している場合には、両立すると考えるのはおよそ現実的ではありません。

 

すなわち、昭和29年最判では、10月14日に被告人が背広を盗んだとされている一方で、追加された訴因では、10月19日に背広の所有者を自称する者から被告人が背広を受け取り、有償処分あっせん(質入れ)を行ったとされています。

これが両立するためには、10月14日に被告人が背広を盗んだ後、5日以内に他の者が被告人から背広を盗み(又は所有者がこれを取り返し)、更にその者か又はその者から背広を取得した者が被告人に背広を渡すという経緯を辿る必要があります。およそ現実的ではないことが分かりますね。

 

そうだとすると、検察官が刑罰権を行使しているのは、背広をめぐる1個しかないであろう被告人の行為であって、それが盗品等有償処分あっせんなのか、窃盗なのかが分かってない、ということになってきます。

だから、公訴事実の同一性という枠組みで、訴因変更の可否を判断することになるのです。

 

 

ここまで述べた通り、訴因変更の可否は、「同じ手続で済ませてよいか」という話です。これが認められるのであれば、検察官は訴因変更請求をすることで、同じ手続で済ませることができます。

これに対し、訴因変更が不可能である場合には、新たに別の手続を踏んでくれ、ということになります。すなわち、訴因の追加や変更、修正、撤回ではなく、追起訴や公訴の一部取下げといったアクションを検察官が執る必要があります。

 

 

 

ここでつまづきがちなのが、「訴因変更の要否」という論点のネーミングです。

これを文字通りに受け取ってしまうと、「訴因変更の要否では訴因変更が必要になるはずなのに、可否の論点では訴因変更が不可能ってどういうことなんだよ!」と混乱することになります。

 

既に太字+下線部で強調したところではありますが、訴因変更の要否の論点で何を判断しているのかといえば、「訴因変更手続が必要か」ではなく「そのままの訴因でよいか」ということです。

上記の緑文字部分で言えば、「訴因変更が必要」という部分がおかしく、本当は「そのままの訴因ではダメ」という表現が正確になります。

 

上記のように、そのままの訴因ではダメで訴因を変える必要がある、ただし訴因変更はできない(公訴事実の同一性が認められない)という場面であれば、「じゃあ新たな訴因を立てて公訴を提起するんだな」ということで、別の訴因での追起訴が選択肢に浮上することになります。

 

 

まとめます。

訴因変更の要否は、「そのままの訴因でよいのか」という問題、訴因変更の可否は「同じ手続内で済ませてよいのか」の問題です。

検察官が訴因変更請求をしてる場合=訴因変更の可否が問題になる場合には、被告人の防御の観点は基本的に問題になりません。

訴因変更請求手続が採られるのは、裁判所による認定といった刑事裁判の最終局面ではなく手続の進行中の場面であり、変更後の訴因で改めて攻防を尽くせば済むからです。

 

 

ここまで、訴因変更の要否は刑事訴訟の終盤で問題になることを前提に書いてきましたが、平成26年司法試験では、検察官による起訴の後、すぐに新たな事実が判明し、検察官が訴因を変更しようとしています。

 

この平成26年の問題の場合、仮に訴因変更が不要であれば、裁判所は当初の訴因のまま新事実を認定することができますから、検察官は当初起訴状に記載した公訴事実を維持したまま、新たに判明した事実を立証していけば足り、裁判所が困ることもない、ということになります(実際、手続的な疑義を残すメリットは全くないので、検察官があえて訴因変更請求をしないような事態は考え難いですが)。

 

なお、平成26年司法試験の出題趣旨にも

検察官による素因の変更が問題となる場合には、大別して、検察官が起訴状の記載と異なる事実を意識的に立証しようとして、証拠の提出に先立って訴因変更しようとする場合と、証拠調べの結果、起訴状の記載と異なる事実が証明されたと考えられることから、訴因変更しようとする場合とがあることについて、留意する必要がある。

と指摘されています。

 

平成26年の問題の事例であれば、そもそも罪となるべき事実が変動しているので、訴因変更は必要になります。公訴事実そのままで、裁判官に新事実を認定してもらおうなんて甘い見通しは通用しないのです。

 

訴因変更が必要=当初の訴因を放置したままでは新たに判明した事実による有罪判決は得られない(裁判所が新事実を認定できない)と分かると、別の訴因を用意する必要があるわけですが、じゃあ同じ手続=訴因変更でよいのか、別の手続を新たに踏む=追起訴によるのか(=訴因変更の可否)が問題になります。

 

公訴事実の同一性が認められれば同じ手続で良いということになりますし、認められなければ改めて刑事手続を用意する=追起訴することになります。

 

 

繰り返しになりますが、訴因変更の要否はそのままの訴因で良いのかという問題、訴因変更の可否は同一手続で済ませてよいのかという問題だと認識すると、前者の論点では訴因変更が必要なのに後者の論点では訴因変更不可能、という結論もあり得ることが理解できるかと思います。

 

 

以前にaskで回答した、下記の訴因に関する話をリメイクしました。

法律論に関するつっこんだ話はこれっきりにして、あとは司法試験の勉強に関するブログらしく、受験生時代の失敗談をつらつらと語れたら良いなあと思っています。

https://ask.fm/Ernie2326/threads/145834927338

 

 

 

 

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