みんなの学び場美術館 館長 日下育子です。
今日は素敵な作家をご紹介いたします。
テラコッタの彫刻を制作されている彫刻家加茂 幸子さんです。
加茂 幸子さん
以下、2015年4月の再放送でお届けします。
前回石山 駿さんのあと、私からの紹介でご登場いただきます。
石山 駿さん
第1回 、略歴紹介
第2回 、第3回 、第4回 、第5回 、第6回 、第7回 、第8回 第9回 、第10回
加茂 幸子さん
第1回 ~ 大学院で自分の表現の糸口を見つけました~
第2回 ~ テラコッタで気負わず自由に制作しています~
第3回目の今日は、加茂さんのテラコッタでの試行錯誤や制作の実際についてお聴かいただきました。
大きな作品は中に芯を入れて、手びねりで作っていらっしゃるというお話です。
どうぞお楽しみいただけましたら幸いです。
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
「友達になって」
テラコッタ着彩 H72㎝
1995年
「私の空」
テラコッタ着彩 H72㎝
1995年
「月の光」
テラコッタ着彩 H67㎝
1995年(テラコッタ着彩)
「天使ののぞき窓」
テラコッタ着彩 H72㎝
1997年
「友達になってvol.3」
テラコッタ着彩 H60㎝
1998年
「昨日と同じ2人」
テラコッタ着彩 H75㎝
1998年
「赤い実たべた」
テラコッタ着彩 H70㎝
1999年
日下
前回、大学院では、テラコッタに取り組まれたのは加茂さんお一人で、技術的には試行錯誤を繰り返されたということでしたね。
加茂 幸子さん
テラコッタは小さい手びねり的な作品は気安いのですが、ある程度の大きさになるととたんにハードルがあがります。
「テラコッタ技法」という橋本裕正臣さんかな?なんか一冊だけそういう本があって、中に発砲スチロールを入れて芯にして、最後に溶かしてという方法が書いて合ったんですけど、それをやったらその瞬間にバラバラバラと崩れちゃったこともあってこれは駄目だなと。
日下
それは、辛いですね~。せっかく作ったのに。
加茂 幸子さん
ええ。いろいろどうやって芯を抜こうかなとか。テラコッタもその大きさになると重くってですね、特に最初の頃は薄く作るのが下手だったので、やっぱり40キロとか、石に比べれば軽いけどワレものじゃないですか。だから意外に大きい作品ってやっかいというか。
日下
そうですね。とっても神経を使いそうですね。
加茂 幸子さん
難しいのは、基本ワレものだという事と、乾燥と焼成の際に収縮が起こるという事です。粘土だけで形を作ろうとすると、粘土は柔らかいので重力に負けて形がへたったり崩れ落ちたりしてしまいます。
それで塑像などでは木や縄を組んでしっかりとした芯をつくるのですが、私はテラコッタの制作時に最低限しか芯材をいれません。発砲スチロールブロックを芯にして、まわりに新聞紙などをクッションにして粘土を紐状にして下から積んでいきます。そして粘土の水分を調整しながら崩れないようバランスとって形を作ります。
あまり芯に頼って制作すると心材を抜いた時にとても崩れやすい気がします。焼成の時のヒビもしかり。
「私たちはどこへ行くの」
テラコッタ着彩 W90㎝
1996年
日下
「私たちはどこへ行くの」という羊の作品は、すごいボリュームだろうと思うのですが、これも下からひも作りで作り上げるのでしょうか。
加茂 幸子さん
そうなんです。さっきお話した芯である程度縮みに耐えるようにして、すごい厚みにひも作りで作って。 最後は、今だったらこういう形だったら上半分を窓みたいにくりぬいて中を抜けばいいと分かりますが、当時はこの芯の抜き方が分からなくて、板の上で作るんですけど、最初に板に穴を開けておいて、一番最後に道路整備工みたいに穴から芯を掘り出すということをやっていて(笑)。
うーん、何やってたんだろうと思って(笑)。学生の頃は湯水のように時間があった頃なので、懐かしいですね。
日下
でも、それだけ思考錯誤されたという経験はとっても財産ですね。
加茂 幸子さん
粘土って、しっかり定規で測るとか、あまりきっちりした技法は向いていないように思います。もちろん、精密に計算して鋳込みの磁器なんかを作る方法もあるとは思うのですが私には向いていない。
粘土の水分変化や焼成の収縮は経験的に体で覚えて、言葉はおかしいかもしれないけどなだめてすかしてという感じですね。マチエールの出し方なんかもそんな感じで、ある意味、女性的な素材かな、と思う事があります。どのようにでもなるようで、手ごわい。
日下
加茂さんのその粘土の感じ方はとっても独特で興味深いです。ところで、作品の着彩は、色泥でしているのでょうか。
加茂 幸子さん
基本、焼いた後にアクリル絵の具で色着けしていくんですけど。粘土も顔料がわりに使ったりしているんですけど、ただ基本は絵具だけだと馴染まないので、それをやすったり、磨いたりとかしながら、何回も重ねたりして、結構時間をかけるというか。
大作だと色だけで最低でも1週間くらいかかってしまって、そんだけ手が入って来ると色が浮かないというか、ちょっと表面を摩耗したりするので、時間経過したみたいな感じの具合になるまで色に摩擦を与えたりしながら馴染ませていくんですね。
日下
なんか艶があってきれいですよね。素晴らしいです、この質感が。
加茂 幸子さん
もう彩色は結構こだわってますね。その艶はアクリル自体の艶なんですよね。塗り重ねして、アクリル系のブラシとかで磨くとまあ、下はザラザラだと光らないですけど、こするとやすりかけとかもしているんで、自然な艶が出てきて、艶出しとか塗っている訳ではなくて、粘土の艶なんですね。
色だけつけているとやすりがけとかで、力を使うんで、機械だとあんまり上手くいかなくて、何か筋肉痛になるのは着色のときという変な技法です(笑)力を入れて磨いたりしているから。
日下
ええ~! 意外ですね。作っている時の方が大変そうなイメージがありますけど。
加茂 幸子さん
そうなんですけど、そこは粘土なので、そんなには抵抗感はなくて。最近初は大学に属していることもあって、窯があるので、本焼きとかも研究してみたいなと思っています。今は素焼きで止めた状態なんですけど、素焼きの技法って、作品を外には置けないんですよ。水に弱いから。本焼きまでかけちゃえば、外におけるので、野外に。それは上手く行ったらいいなと思っていますね。
日下
楽しみですね。そうすると野外の展開が見えてきますね。
加茂 幸子さん
それがやっぱり陶芸の研究が必要ですね。
日下
今日もとっても興味深いお話をありがとうございました。
「友達になって vol.2」
テラコッタ着彩 H74㎝
1996年
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
編集後記
今回、かねてから知り合いだった加茂 幸子さんにお話をお伺いしました。加茂さんと私は、それぞれ二十代後半の時に、何かしら美術イベントで出会ったのですが、それがどこだったのか、両方とも定かな記憶がないという不思議なご縁です。(笑)
その頃から、私は加茂 幸子さんは、早くから熟達していて、大人っぽく、独自の世界がある作家として素晴らしい制作をしていらっしゃると思っており、今回、お声掛けさせていただきました。
加茂 幸子さんは5年ほど前から東京の新宿にある文化学園大学造形学部で助教をされています。ウィークデ―は東京のご実家から大学にご出勤なさって、週末だけ自宅のある福島に帰っていらっしゃるそうです。ご主人様は福島大学で彫刻を教えていらっしゃいます。
今日は、加茂さんのテラコッタ制作の実際的な技法のお話をお聴かせいただきました。とってもハリのあるかたちは、私は、塑像から型をとっていらっしゃるのかと思っていたのですが、一点ずつ手びねりで制作されていることがとってもすごいと思いました。
芯の抜き方や彩色など一つ一つに工夫と試行錯誤があって、加茂さんの独自の作品世界が出来あがっているのだなぁと実感しました。
次回は、制作テーマについてお伺いしてまいります。
どうぞお楽しみに。
**********************************
◆ 加茂 幸子さんが掲載されているWEBページ
◇GALLERYマスガ ⇒ 加茂 幸子さん展覧会紹介ページ
◇画廊すいらん ⇒ 加茂 幸子さん経歴紹介ページ
2010年 展覧会によせての言葉
◇ギャラリーアートもりもと ⇒ 加茂 幸子さんインタビュー記事
:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
★☆ アーカイブス ☆★
学び場美術館 登場作家リストⅢー2014
学び場美術館 登場作家リストⅣー2015
人気ブログランキングへ ←ポチッとおしてね!
↓こちらも
にほんブログ村 ← ポチっとおしてね!
人気ブログランキングに参加しています
あなたの応援が励みになります。