象が転んだ

たかがブロク、されどブロク

『オンリー•ザ•ブレイブ(2017)』〜感動を超えた驚異と、その脅威が包み込む恐怖と〜

2019年02月23日 04時53分53秒 | 映画&ドラマ

 ”「バックドラフト」を超えた!巨大山火事に挑む男達に世界が泣いた”とあるが、私も泣いた。


 2013年、アメリカのアリゾナ州で発生したヤーネヒルの巨大山火事に立ち向かった、消防精鋭部隊”ホットショット”の実話を描く。
 
 ネタバレになるが、この山火事には200人の消防士が動員されてたが、強風で火の勢いは強くなり、400人に増やされた。住宅約100棟が全焼し、”パーフェクトストーム”と名付けられた荒れ狂う巨大山火事で、消火活動は困難をきわめた。
 アリゾナのプレスコット市から出動した“ホットショット”と呼ばれるエリート消防士20人からなる消防部隊が、1人を除く19人が死亡。”9−11以来の悲劇”として、多くのアメリカ人の記憶に未だに息づいてる。

 この映画は、この”ヤーネヒルの悲劇”をダイレクトに映し出す、脚色抜きの等身大のドキュメント巨編である。

 

ホットショットとは?__________

 ”ホットショット”という日本人には聞き慣れない言葉だが。米国には“ホットショット”は110チーム。各“ホットショット”のチームは20名のメンバーで構成され、過酷な訓練を受ける。

 彼らの役割は、山火事と近隣の住宅の間を分断する為の“防火帯”を構築する為、山火事の燃料源になる雑木林、木々、草木などを手作業で取り除く。
 常に火の手の位置と退却ルートに注意を払い、土を掘り起こし、伐採し、地面を削り取って運ぶ、超の付く重労働だ。

 彼らに必要な資質は、モチベーションの高さ・協調性・仕事へ堅実性、それに楽観的な思考と頑健な体力だと言われる。20kgの荷物を背負い、4.8kmの距離を45分以内で歩く超人的な体力が必要とされる。
 故に”ホットショット”とは、国家のエリート森林火災消防隊で、”消防のネイビーシールズ”と称される。彼らは水を使わない、火を使って火と戦う。山火事には迎え火で対抗するのだ。  

 

自然の猛威と現実の驚異________
 
 私はこういう脚色抜きのドキュメント巨編が大好きだ。そこには、「タイタニック」で見た様な、陳腐で安直な次元の低い”感動”は存在しない。存在するのは、自然の猛威と現実の恐ろしさだけだ。

 見終わって、自然と涙がでた。呆気ない悲しいエンディングに、虚脱と嗚咽を催した。故に住民を守る為に、山火事と勇敢に戦い、亡くなった消防士たちを弔うという、英雄伝でも感動のドラマでもない。

 そこにあるのは、恐怖と驚異だけ。人類の叡智と勇気すらも、いとも簡単に焼き尽くす自然の猛威に、只々ひれ伏すしかない自分がいた。それで涙が出たのだ。

 

ヤーネヒルの猛威___________

 犠牲になった19人は緊急シェルターの中で最期を迎えた。このシェルターの効果は、燃えるものから十分離れた場所で、荒れ狂う灼熱と地獄の様な熱いガスに直接曝されない場合に限られると。シェルターとはいえ、300℃を超えると殆どが死亡する。火災が速く通り過ぎれば大丈夫だったろうとの報告だが、”ヤーネヒルの猛威”は一瞬にして彼らの命を奪った。
 
 彼ら”ホットショット”が逃げ場を失う事になったのは、突然、風の向きが変わり、風が強くなり(17~22m/s)になり、火災エリアがあっという間に200エーカ(81万㎡)から2,000エーカ(810万㎡)へ拡大してしまったからだという。

 火災の3原則は、燃焼物・酸素・熱源だ。ヤーネヒルの山火事は落雷(熱源)によって始まり、猛暑と乾燥と強風(酸素)により、またたく間に広がった。

 山火事の中で最も移動速さが高く、最も危険な箇所は“ヘッド”という名で知られる火災の先端部分。この暑い熱の塊は、風に乗って飛ぶ“スポットファイア”を生じ、高速で先へ進む。その上、ある種の草木類は非常に燃え易く、炎の“フィンガー”を形成。これにより、地上部分には“ポケット”が生じ、火との戦いを難しいものにする。

 熱は上へ昇るので、火災の進展速度は上り斜面の方が下り斜面より速い。故に、丘の上の方が熱くなり、風も丘に向かって吹き上がり、火炎をさらに推し進める。そして、飛び火が丘を転げ落ち、新たな火の手を生じる。

 ヤーネヒルの山火事で19名の消防士が亡くなったが。消防士の死者数としては、2001年9月11日の同時多発テロ後では最も多く、米国の山火事では過去80年で最多となった。


 ドキュメント巨編の理想像を見たような気がした。感動を超えた驚異が包み込む恐怖とその恐怖で涙した自分。ハリウッドもまだまだ捨てたもんじゃない。

 最後に、犠牲になられた19人の消防士にお悔やみ申し上げます。



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