祗園祭礼信仰記「金閣寺」
梅玉/児太郎/福助/松緑/彌十郎/幸四郎/坂東亀蔵/橋之助/男寅/福之助/玉太郎
良い公演だったな 観る人それぞれの視点があるだろうけど、私の場合はまず、えー!児太郎が雪姫ぇ!?という驚きと喜びがあり、そのあと、何だってぇ?福助が復帰ぃ〜?という驚愕があり、観ているときはその2点に集中でした。
時代物に登場する赤姫の中でも特に難役といわれる「三姫」のひとつ雪姫。佇まいの美しさ、演技力、気品、芯の強さなどを要求される大役だそうです。それを24歳の児太郎が初役で勤めるって、早すぎないかと最初は思いました 併せて福助の5年ぶりの復帰が発表されて、松竹は時期を見計らいつつ2人の晴れ舞台をお膳立てしたんだなと思った 福助も児太郎もこの日に向けて努力を重ね相当な覚悟で臨んだのでしょう。
そうしてびっくり、児太郎がこんなに綺麗で、役者として成長していたとはねー これまでも観るたびに、上手くなったなーと思っていたけれど、稽古に地道に励んできた努力が形になってきていることを、今回の舞台の上で証明しましたね。実際、よくここまで出来たなと、その熱演に拍手と応援の気持ちしかありません
上手のお堂の障子が引かれて現れた、幽閉されている雪姫/児太郎の可憐な佇まい、憂いを帯びた表情。夫を救うために自ら犠牲になる覚悟を決め、慶寿院を思って嘆き、大膳が親の仇と知るやキリッと向き合う児太郎。弱く儚げな女性でいるだけではない、気丈夫なところもきちんと表現する児太郎のそれは、福助から受け継いだものなのかも。さらに細かい心情表現は、これから回を重ねることで身についていくはず。
感動したのは桜吹雪の中での「爪先鼠」の場面でした。舞台にただ1人、両腕を縛られている状態で、セリフと所作で十数分を(もっと長かったかな?)持たせなければならないところ、児太郎は時間も空間も十分支配できていると思いました
最初は悲嘆にくれ、夫との再会と別れで想いを伝え、親の仇を知らせたいともがいて縄を切ろうとしてからの強い決意、爪先で鼠を描くところも丁寧で、そして夫を追って花道を去って行くまで、メリハリのある堂々とした演技 さまよったり佇んだりする姿が時に儚げで美しく、頭から上体、足先にかけての柔らかな動き、その身体ラインが綺麗だったし セリフも気持ちの動きに合わせて丁寧に聞かせました。
慶寿院/福助がいる金閣寺の楼上を見上げ「ご恩を受けし慶寿院様を‥‥」のセリフ、どんな気持ちで言っているのかなとふと思ったり。あと、差し金で操られる白ねずみ、品があって綺麗だった
児太郎が去ったあたりから、もう何かドキドキ、ソワソワ 御簾がスルスルと上がって福助の姿が見えた途端に、懐かしさと感動で、胸にこみ上げるものがありました 正直言ってこんなに早く舞台復帰の姿を見られるとは思っていなかったな。紫の衣に白い頭巾姿の福助の身体からは柔らかなオーラが滲み出ているようで、神聖な存在にすら見えました
セリフは3つ、発音はまだ十分ではないけど、心のこもった言葉。お顔も声も5年前の福助だったし、華も無くなっていないし、数珠と経巻を持った左手の動きは美しかった 初日の頃には後ろで福緒さんが支えのために控えていたそうですが、私が観た日には誰もいないように見え、立派にお芝居をされていました。この時点で復帰を決めた福助の勇気と歌舞伎への思いに胸が熱くなりました 児太郎の喜びも計り知れません。
大膳の松緑が何だかスッキリとした良い男に見えました。今回の一座においては十分に大きく、雪姫を見るいやらしさもあって良かったです。直信の幸四郎、スッとした佇まいに気品が漂い、すれ違いながら雪姫を見つめる姿が優しかった。坂東亀蔵が鬼藤太で、なんだかなー こういうお役ときどき勤められますが、基本、亀蔵のニンではないと思うし、もっとぴったりしたお役をつけて欲しいです
今回の座組は中堅どころが中心でとてもバランスがとれていたし、そのすべてを締める久吉が、柔らかさと品性のある、端正な梅玉というのも良かった。児太郎や福助への優しさが感じられました。それにしても、う〜ん、やっぱり古典はいいなー