義経千本桜「鳥居前」
獅童/友右衛門/廣松/九團次/澤村國矢
初春芝居の幕開けとして手堅い演目。様式美のある芝居で目が嬉しいです 配役もなるほどという感じ。獅童はキレのある所作と安定のセリフ回しで、いい忠信でした。静御前を敬う腰の低さ、四天を相手にした力強い立ち回り、花道での狐六法など、メリハリのある演技で、かつ華やかに見せてくれた
友右衛門の義経はゆったりとした雰囲気に品格があり、廣松の静御前は意外だったけど悪くなかったな。女方も勤めていくのでしょうか。九團次の弁慶もこの一座の中では十分立派に見えた。そして、逸見の藤太がとっても良かったんですよ 誰だろうと思ったら澤村國矢でした。滑稽味が十分にありつつ軽すぎず、セリフも音に乗って耳に心地よく、三枚目の敵役として立派にお役目果たしていましたー
「極付 幡随長兵衛」
海老蔵/堀越勸玄/孝太郎/右團次/男女蔵/友右衛門/齊入/松之助/市蔵
海老さん、東京での久々の歌舞伎公演ですね。七月は演目的になんだかなーという感じだったので(私の場合、基本は古典)、團菊祭ぶりといっていいかも。それにしてもなかなか歌舞伎座に出してもらえませんね 座頭公演ではなく、菊之助や染五郎のように幹部俳優と共演させてもらってもっと学んでほしいんですけど それでも、お久しぶりの「幡随長兵衛」というのはなかなか良い選択だったかな
ちょっと熱血ふうだった前回(5年前の團菊祭)に比べるとリキみが抜け、随分落ち着いてきていて貫禄が出ていました。若さの中にも男伊達としての頼もしさ、町奴の親玉っぽさが感じられた 水野の使いに対して勇み足になる子分たちを制するところ、水野の招きを(死を覚悟して)受けるところなど、セリフに説得力がありました 後に残される妻と息子を想う姿や、水野の屋敷でお風呂を勧められ(それが企みだと悟りつつ)腹を決めて見せる毅然とした表情にもジンときた
ところで、以前に観たとき、客席通路後方から出てきた海老さんは、その7・3あたりで立ち止まり、そこからセリフを喋っていたんだけど(そのとき、私はその真横の席に座っていたんですよー)、今回はそのまま本舞台に上がり、セリフは花道に向かう途中から喋っていました。なぜ変えたのかなー。
実は今回、もうほとんど勸玄くん見たさと言っていいくらいの気持ちで臨んだんですが 本当にしっかり演じていて感激です。声も大きく出ていてよく通り、シーンごとにセリフがたくさんあるのに言いよどむこともなく、タイミングもズレず、ちゃんと相手と会話になっていた 大人の中にいると身体の小ささが強調されるので、可愛さと健気さが、もうたまらん 回を重ねれば感情をさらに込める余裕も出てくるんじゃないでしょうか。
そして何より、実の父子で長兵衛/長松を演じたこと。とても面白いんだけど、海老さんちの場合は悲しみがmaxでこみ上げてくる 海老さんの肩を掴みながら肩越しに顔を覗き込み「おとっつぁんと別れるのはおいらが一番辛い」とか、最後の親子の別れで海老さんがカンカンを抱きしめるところとか、どうしたって泣けるでしょう 海老さんの目にも涙が溢れているのをオペラグラスで確認しました。
あと、女房役の孝太郎がとても良かったです いかにも侠客の親分の女房といった、キビキビしたセリフ回しや所作、夫を気遣うさりげない仕草や暖かい眼差しに情が感じられました。男女蔵の出尻清兵衛はわざとらしさがなくて好ましく、素のカンカンに対する愛情があった 水野は左團次降板のため右團次が急遽勤めました。水野って本当に卑怯でヤなやつなんだけど 長兵衛とバランスを保つために旗本らしい品格のある役柄にしてあるらしい。右團次は初役だそうだけど、そうとは思えないほど安定していました
そしてやっぱり、公平法問諍が面白いわー 伊予守は齊入、慢容上人は松之助で、特に坂田公平の市蔵がガラガラとした荒事っぽさを出していて良い。舞台番の新十郎もキリッとしたセリフや所作が江戸っ子っぽくて、すごい好演でした
「三升曲輪傘売」
海老蔵/市蔵/九團次/廣松/男寅
ショーアップした趣向が面白かった 傘売りに変装した石川五右衛門が、手妻(手品)芸を見せながら追っ手を煙に巻く。体のあちこちから傘を出して見せるのが見所です。出してくる傘は20数本、主には袖の中に隠し持っているようで、どうりで花道から出てきた海老さんの格好がちょっと膨れ気味だったわけだ
終盤には立ち回りの若い者たちの背中から小さい傘を出したり、海老さんの口からミニミニ傘を出したりして笑わせます。最後は石川五右衛門の正体を現し、傘に囲まれて華やかに見得。これがなくちゃね 途中で手ぬぐい撒きもありましたが、私の座っている3階席まで届く腕力の人はいなかった 華やいだ気分で劇場を後にできる、初春興行昼の打ち出しにぴったりの演目ですね。