「WILD」@東京グローブ座 | 明日もシアター日和

明日もシアター日和

観たもの読んだものについて、心に感じたことや考えたことなど、感想を綴ってみます。

作 マイク・バートレット

演出 小川絵梨子

出演 中島裕翔/斎藤直樹/太田緑ロランス

 

 イギリス人が好きそうな皮肉の効いた展開で、かなり面白かった🎉  これは2013年に起こった「スノーデンの暴露」事件をモチーフにしています。(復習→)スノーデンはアメリカ国家安全保障局(NSA)およびCIAの職員だった青年。彼はNSAが、大手通信会社から数千万人分の通話記録を出させて一般市民を監視していること、複数の大手IT企業のサーバーに盗聴用機器を接続してユーザーのチャットやメールなどのデータを集めていることなどを暴露しました。国家が秘密裏に一般市民のプライバシーを侵害していることが明るみに出たわけです。アメリカ政府はスノーデンの逮捕命令を出し、現在、彼はロシアに滞在(亡命)中。

 

 この戯曲の主人公はアンドリューという名で、ほぼ上記のようなことをして亡命。舞台は彼が滞在しているモスクワのホテルらしき一室。彼はそこで、ある組織のリーダーからの連絡を待っている(ウィキリークスとアサンジを連想させます😬)。そこに、その組織のメンバーだという「女」と「男」が交互に現れ、アンドリューの身の安全を保障するから、組織に協力しろと迫る。彼らが本当に組織の人間なのか怪しいし、2人の言うことは意味を成さないことが多いんだけど、時々鋭い言葉をアンドリューに突きつけ、彼の行為の意味を問いただす……😎

 

 チグハグの会話はピンター劇のような不条理感があり、刺激的で好みでした👍  アンドリューは筋の通った話をしたいのに、はぐらかされるかと思えば抜け目なく切り返され、身の置き方の判断を迫られてじわじわと追い詰められていく。その過程で自分の信念が少しずつ揺らいでいき、真実と虚構のジレンマにハマっていく感じです😳

 部屋のセットはどこか安っぽい雰囲気。役者はその部屋を縦横に動きながら演技し、その動きによって立場(主導権を握る側と問いただされる側)がコロコロ変わるサマが分かります。2人の男女の目的はなかなか見えてこないけど、一方で、アンドリューの暴露行為に潜むさまざまな問題があぶり出されていきます。

 

 彼がやったことは利他的行為だったのか、単なるエゴイズムだったのか🙄  「世界を救うためにやった」という彼は間違っていないけど、純粋すぎていかにも青臭い💦  彼は自分の家族や恋人を捨て、自らの人生を犠牲にしてまで勇気ある行動をとったのに、人々はもう彼のことなど忘れてしまっている😢  だったら彼の行動にどんな意義があるのか?

 

 さらにもっと深いところまで疑問は広がります。アメリカ政府は「盗聴したのは、そこから重要監視対象者を振り分け、それによってテロリストの脅威から国民を守るためだ」という大義名分を発表した。そうだとしたら、国家が市民を盗聴監視することによって私たちの安全は守られているのではないか🤔? 自由であるとは、その安全な社会の基盤の上に成り立っているのではないか🤔? 逆に、彼が暴露したことで市民生活(安全)はより良くなったのか🤔? 世界は良い方向へ変わったのか🤔? 結局、市民のプライバシーが国家にさらされたことは実は取るに足らないことなのではないか🤔?

 

 アンドリューを演じた中島裕翔は、正義感と信念に従って行動したヒロイックな青年という役柄にぴったり✨ 2人に迫られるうちに信念の土台を揺さぶられ、不安に襲われ、虚と実のジレンマに陥ってしまう。そのあたりを素直な演技で見せていました👏  欲を言えば、神経質でナイーヴな面、精神的に追い詰められていく窒息感など、細かい心理的変化をセリフで表現できればと思いました。

 「男」を演じた斎藤直樹は、つかみどころのない少し不気味な男をスマートに好演🌟  問題は「女」役の太田緑ロランスだったな😑  演技以前の問題で、舞台用の発声ができていないため、セリフが通らない、聞こえない、つぶやくように言うとこちらは完全に消音状態😡(私は上階の席だったので、1階席では問題なかったのかも)。その聞き取りづらいセリフを聞き逃すまいと神経を集中させていたので、物語の流れが何度も途切れてしまいました😖  「女」は重要なセリフをいくつも言っているだけに、すっごく残念😩

 

 さて、芝居は最後に、彼のいる部屋が崩壊するという大どんでん返しがありました。ベッドは上手側の壁に引き込まれ、後ろの壁は崩れてその向こうに真っ暗な空洞が広がり、下手側の床の端がググーッと持ち上がって床が45度ほど傾き、「男」は闇の中に消え「女」は空間に吸い込まれていきます😱  この瞬間、何が現実なのか、アンドリューのいる世界はどこなのか、すべてが曖昧になる。再び床が元に戻り、呆然とするアンドリューを残して暗転、終わります。

 私は最初、あの部屋は組織が用意した収容施設の一室ではないかと思ったんだけど、もしかしたら、今までのことはすべてアンドリューの妄想だったのかもしれない🙁  1人でいる間にだんだん疑心暗鬼になっていって、国家の監視システムを暴露したのに、その自分が今度はどこかの組織に監視されているのではないか、その恐怖の中で自分の暴露行為を反芻するうちに逆説的な思いに襲われ、パラノイアに陥ってしまたのかも。男女2人の問いかけは自問自答であって、自分の信念が揺らいだ不安が、自分のいる部屋がひっくり返るという、妄想のヴィジョンとして現れたんじゃないかと思ったんですけどね🤔

 

 タイトルだけど、「Wild」の意味と戯曲内容がどう結びつくのかちょっと分からなかった💦  「女」は自分を「ミス・プリズム」と名乗り、それはオスカー・ワイルドの戯曲「The Importance of Being Earnest」に出てくる女性の名で、この戯曲のサブキャッチは「A Trivial Comedy for Serious People」なのよって言う。ワイルドのこの戯曲は、嘘が真実になるみたいな、本当によくできた喜劇なんだけど、ワイルドのスペルは「Wilde」だし、また「プリズム」はNSAの盗聴監視システムの名称でもあるし、結局、なぜこのタイトルをつけたのか疑問のままです😓

 

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