オンライン観劇㉗ ナショナル・シアター・ライブ「This House」 | 明日もシアター日和

明日もシアター日和

観たもの読んだものについて、心に感じたことや考えたことなど、感想を綴ってみます。

作 ジェイムス・グレアム

演出 ジェレミー・ヘリン

 

 政治劇は苦手なんだけど、これはイギリスで評判が良く、とても面白いと聞いたので観ました。英語字幕が出るけど政治的表現として理解するのが追い付けない😓  それでも最後まで惹きつけられる面白さがありました🎉

 This Houseは、ここではイギリスの「庶民院/The House of Commons」を指します(それに対するのは「貴族院/The House of Lords」で貴族と聖職者から成ります)。イギリスでは1920年代以降、庶民院は保守党と労働党が政権を取り合ってきていますね。

 この作品は、1974年の保守党内閣解散→総選挙→労働党が政権を握る→79年に保守党が労働党に対する不信任案を提出し1票差で可決してしまうまでの、5年間のイギリス議会の裏側を描いている。ちなみに、その後の総選挙で保守党が勝利しサッチャーが首相になりました。

 

 でも、芝居には首相は出てこないし、政策そのものにも触れていない。メインの登場人物は「whip/ウィップ」と呼ばれる「院内幹事」たちです。彼らの役割は、法案採決の際などに自議員を党の方針に従わせたり出席させたりして党をまとめること。

 物語の鍵を握るのが「paring/ペアリング」という慣習です。採決時に一方の党に(病気などで)欠席者が出ることがわかっている場合、対立する党にも同じ人数を欠員させることで議決の数を調整する、一種の紳士協定なのだそうです(イギリスっぽ〜い😊)。

 

 74年に労働党は勝利したものの、保守党と議席数が僅差だったため、法案を通すには他の少数政党(自由党、スコットランド国民党、ウェールズの地域政党など)と交渉して1人でも多く自分たちの側に付ける必要がある。それは保守党も同じです。それも「whip」たちの仕事。

 法案が出されるたびに彼らは奔走し、相手の党を揶揄し、「paring」交渉をする。そうしている間にも、病気や死亡や逮捕や離党などで議員がいなくなったり、補欠選挙で議席を失ったりもするわけで😓  さまざまな予期せぬ出来事に翻弄されつつ、彼らの自党を守るための駆け引きがユーモアを挟みながら展開します💦

 

 舞台は労働党と保守党のオフィスを左右に配した構造。労働党はカジュアルめの衣装で言葉に訛りもあり、保守党はダークスーツで決めて、両党の特徴を的確に表している。舞台上方には生バンドが入り時々ロックのリフを演奏します。70年代はデイヴィッド・ボウイの時代でもあったわけで、ある議員の自殺偽装事件のところで「Rock’n’Roll Suicide」が歌われたり😆  また、イギリスの庶民院は任期5年なんだけど、やはりボウイの「Five Years」をバックに議員たちが右往左往し、1人2人…と政界を去っていく光景はちょっとしたドラマだったな👏

 最後、労働党と保守党の「whip」2人が「paring」の交渉で、党の存続や自らのキャリアを賭けて対話するシーンが見せ場。最後は党派を超え人間対人間として向き合い、信頼で結ばれるみたいな流れです。その結果、労働党は敗北しちゃうんですけどね🙄

 

 ジェイムス・グレアムがこれを書いたのは30歳頃というから驚き😲  確かなセリフでグイグイ進めていく戯曲、それを身体で表現する役者。こういう芝居が生まれる土壌にあるイギリス演劇シーンの奥深さ、底力を思い知りました。

 

にほんブログ村 演劇・ダンスブログ 演劇(観劇)へ
にほんブログ村


観劇ランキング