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      HIC ET NUNC(いま・ここで)

 世界はふるびてしまったから
 ひとは、いま、ここ、に執着している
 世界はこちこちになってほころびてしまったから
 ぼくたちは覆いを閉ざし、いま、ここ、にとどまろうとする

 古臭くなった世界にしがみつき称揚するひとたちは
 塗りの剥げたテンペラ画を修復しようとあくせく働く
 世界が泣いている;しずくに濡れた壁のまえに
 安っぽい書割を置いてごまかそうとするやつらは

 嵐に洗い流されて去るがよい
 ぼくらのまえにあるのはすべての植被を
 剥ぎとられたはだかの曠野

 偉大なひとびとが魂を籠めた壁画のかずかず――
 いまむきだしになって
 砂のうみに並ぶ




 

 

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