アルコールに感謝してみる
もし夫がアルコール依存症から回復し、これから先、何年も何十年も、ずっと断酒を続けてくれたら、私はきっと、夫がアルコール依存症になってしまったことに感謝をするだろう。
何故なら、酔っぱらった夫の姿を、もう見なくて済むから。
あの醜態に、嫌な思いをせずに済むから。
昔の私は、夫の酔っぱらった姿に鈍感だった。
夫がどんなに非常識な行動を取っても、それがアルコールのせいだということに気付きもせず、彼の人間性に問題があるのだと思っていた。
私自身はアルコールを飲んで、非常識な行動を取ってしまったことはないし、せいぜい眠くなって寝てしまうだけだったので、アルコールが人格までをも変えてしまうことに、本当に鈍感だった。
そして、夫の数々の問題行動がアルコールのせいだとやっと気付いた時、夫は既にアルコール依存症になっていた。
今では、たとえ夫が酔っていなくても、夫がアルコールを飲んだことに、私はいち早く気付く。
今なら、夫の問題行動はアルコールによるものだと分かる。だから、それを見なくて済むのは、夫がアルコール依存症になって断酒せざるを得なくなったお陰であり、そのことに安堵している私がいる。
夫がアルコール依存症になって良かったことはただ一つ、夫がアルコールを飲めなくなったこと。そして断酒が続く限り、私は常にシラフの夫といられること。
アルコールに苦しめられ、アルコールに泣かされて来た私は、皮肉にも、アルコールのお陰で、今、少しずつ平穏な生活を取り戻せつつあるのだと思っている。