154.発声練習では出ている音が歌では出ないという不思議156.発声の基礎   ~声、あるいは息の圧縮~

2020年11月04日

155.高音についての私見

さて、今回の表題ですが、具体的にある名曲の出だしを
取り上げてみましょう。

ある調で、「ドレミソ/ドレミソ/ドレミミレ(出だしよ
1オクターブ上)/ドラ---」という出だしの、3拍子の名
曲があります。で、この場合、この太文字のソが例えば
高音と呼ばれているわけです。で、これが歌えるように
なるため、一生懸命「」を出す練習をすると。

おそらくそんなやり方だと出せるようになる前に喉を壊
してしまうかもしれません。どんな気持ちで練習してい
るかはもちろん私には分かりかねるのですべて憶測にす
ぎませんが、まず、練習している人に問うてみたいこと
があります。

この歌で、音の並びが、1オクターブ違うだけで、その出
だしの、低い方の「ドレミソ」を歌ったときに、何かこ
う最初の「ド」に比べて次元の違う難しさを「ソ」に感じ
たかどうかです。おそらくそんな人は一人もいないでしょ
う、というか考えた事もなく通り過ぎたでしょう、全体が
"易しすぎて"
---。だったら、こういう解釈も成り立つで
しょう。

同じオクターブ内の「ド」と「ソ」は大体同じ感覚で出し
ていると。だとすると、実は1オクターブ上がった「ドレ
ミソ」も、もしその最初の「ド」がきちんと出てさえい
れば、ー強さが、ということはピッチも当然正しくなるー
「ソ」もその「ド」と大体同じ感覚で出せるはずだと。

もちろん完璧な「ソ」という意味ではなく、それでもそこ
だけ急に頑張って出す「ソ」よりはずっとましな「ソ」が
出るはずです。

実際、1オクターブ下の音で、「ド」よりも「ソ」を全く
異次元の仕方で頑張って出したなんて言う人はいないで
しょう。そんなだったら、だれもがそこで難しさに気づい
ているはず
で、

つまり、下のほうをやっていて、「ソ」の難しさに気づ
く人がいればそれがまさに天才ってもんでしょう、って
ことでしょう。

で、気づいたからには高音じゃなく、そこを一生懸命練
習するはずだから、物凄い速さで上達するのが見えてい
ます。もちろん、私もわかりませんでしたけどね、最近
まで---。

反対に上の「ソ」難しいと分かるのは”凡人”の証拠で、
要するに誰でもわかるわけです、そんなことは。それこ
そ喉が勝手に上がってきて苦しいわけですし、かつでき
てないという自覚もあり
ますからね。

試みにその上の「ド」でわざとピッチを間違えて、その
うえで「ソ」の音を正しく出そうとしてみてください。
それだけで、おそらくものすごく難しくなるはずです。

高音出すだけでも難易度が高いのに、その前の音が間
違っていたら、修正しながら正しいピッチに到達するの
は非常に難しい。

ところがそれよりはるかに難しいのが、「ド」の音がま
力強く出せていないのに、力強さを伴わないことには
決して出せない「ソ」を出そうとすることだと。

つまり、高音「ソ」が難しいというよりも、すべてにお
いて曖昧なレベルの「ド」しか出ていないのに「ソ」に
取り組むことが、必要以上に話を難しくしているだけ
と。

どの分野も結局は同じでしょうけど、歌の場合、特に
習する順序の間違い
が致命的になるわけです。

だから、楽々「ド」の音が出るようになってから「ソ」
の音の練習をしろというのが、気取って言えば、中低音
の充実
という概念でしょう。

だから、オクターブ下からどんどん力強くなって、いわ
ば上の音に必要な力強さとの差が小さくなってきている
からこそ出せそうだとなるわけで、弱々しいオクターブ
下を出しておいて、「ソ」が来たからそこでいきなり力
強く出そうなんて言うこと自体がそもそも無理な話で
しょう。ギターに喩えれば、弦をピンと張らずに力で高
音を出そう
とすれば、先にギターが壊れるのは当たり前
の話で、それと同じようなことが人体に起こるだけのこ
とです。

その体という弦の張り方が難しいわけで、本当にわざ
とピッチを間違えて、それで正しく「ソ」を出すより
ずっと難しいと思いますよ。

というのも、ピッチのほうはわざと間違えたんだから、
そこさえ正しく出せれば「ソ」もちゃんと出せる可能性
があるけど、力強い「ド」ってどんな感じかが、そもそ
もわかっていないことが多い。間違ったんじゃなくて、
分かっていないのに、「ド」でさえ分かっていない
のに、
さらに未知の領域である「ソ」が練習で"正しく"出せる
もんですかね、っていう話です。

しかも「ド」はちゃんと出ているっていうのが自己申告
だとするとそもそもそれが間違っている可能性が高い、
どこに客観性があるのか、という話でしょう。

私なら、こういう曲はまず一オクターブ下げて練習しま
す。するとどうなるかですが、下げた下の方の「ドレミ
ソ」が聴こえなくなるわけですが、でも、そんなこと問
題じゃないわけです。なぜなら、これは歌唱練習ではな
発声練習だから
です。

逆にせっかく低音練習しても、そこで焦って、「こんな
小さな声では聴こえないからだめだ」とするのは、まさ
歌唱基準(=つまり人前で歌う場合に重要になること)
基づいた判断で、でも、もし、低音がはっきり他人様に
聴こえるくらいであれば、それはもう既にプロの中でも
マシな方に入ってくる
と思われるので、初心者が悩む事
項ではありません。

ちゃんと出ないに決まってますが、そこは「現時点では
こうなんだな」と己の実力を謙虚に受け止め、出す素振
りだけ見せながら淡々と練習する、すると三か月ぐらい
やってみて原調に戻して下のオクターブを歌うと(上はや
らなくてよい、というかやらない方がよい)、その「ドレ
ミソ」がやけに楽に出るというのを体験しました。

ということは、逆に言うと中音域、自分では軽く出てい
る、何の問題もない音域と思っていたのが、1オクター
ブ下をやることによって、実は中音域ものどに負担がか
かっている
ということが初めてわかるわけです。

そりゃ、そうですよね。何の負担もない(ように思うから)
から中音域舐めてるわけですし、いくら中音域の練習に
励んでも、負担が来てることなんて永遠にわからないわ
けです。

一オクターブ下をやって原調に戻したとき(くどいですが
この段階で高音部はまだやる必要がない)に中音域の今ま
での出し方が喉に負担のかかるものだったことがわかり、
かつ軽く出してるのに(低音練習を経由したほうが)声が以
前より良く出ているということに気づけます。こうやっ
て徐々に負担を下から軽くしていくことによって、初め
て将来高音をやるときにもその備えになります。

また、いったんこの体験をすれば、それこそ人に「低音
練習をやめろ」と言われても決してやめなくなるはずで
す。自分が役立つと体感しているのに---。

というのもこの話から類推すれば、高音のように喉の負
担が自覚できるケースともなると、中音域のように自覚
がないところでさえ負担がかかっているということなの
だとすれば、高音部では相当な負担になっていると思わ
れるからです。

まあ、結論から言うと、素振りもしていない(=鋭い振り
ができてない)のに150kmの球を打とうとするのと同じ
ほど、声の圧縮もしていない(=力強い声ではない)のに
高音を歌って聴かせようとすることは馬鹿げているとは
思いますけど。

で、この圧縮ですが、確かにストロー練習でも息は圧縮
できるので、最重要なものの一つですが、初心者には
際に声を出すという観点からすると、低音練習のほうが
取り組みやすいでしょう。

ハミングでも強いハミングなら同じですが、ハミングか
ら入るなら
、最初にハミング=鼻歌というところを払拭し
てからでないと無意味になる、弱いハミングで何年やっ
てもそれを基礎とは言わないでしょう。

個人的には上の3つの練習(ストロー練習、低音発声、ハ
ミング発声)は同じ趣旨の練習、つまり目的は一つしか
ない
声の圧縮です。素振りだってその目的は当面は一
つ、振りを鋭くするしかないでしょう。

振りさえ鋭くなればなんだってできるのに、そのための
基礎練習を避けて、つまり声の圧縮のための上の3練習を
避けて本番に出続ければ(=試合に出れば)、上達が頭打ち
になるのは必至で、不思議でも何でもありません。

素振りもしてないのにプロになれるということの方がむ
しろ不自然・不思議で、素振りをしない場合は純粋に楽
しんで、しかし体を壊さないようにプロがやるようなこ
とは避けて楽しむという意味で、歌の場合なら声の圧縮
をしないなら、やはり本番を、高音をしっかり出そうな
どと考えずに楽しむべきだと思います。

ちなみに圧縮している段階でそれが歌唱表現として優れ
ているかどうかはまあどうでもいいわけです。ちょうど
振りが鋭くなるまでは変化球が打てなくても極端に言え
ばどうでもいい、まずは振りを一定の水準以上に鋭くす
ることだけが最重要なのですから。

だから、「いろいろ十分歌えるようになった、後は高音
だけだ」というような考え方はたいてい、この前半がす
でに間違っているため、すなわち中低音が充実していな
ことで、後半が不可能なまでに難しくなっているだけ
で、きちんと順序通りやれば、それは普通の難しさにな
るはずです。

極端な言い方をすれば、実際に発声を伸ばすのに役立つ
のは、音符が全音符だけで、低音でしかもテンポが遅い
ようなもので、これだとはっきり自分がそれをいかなる
意味でもキープできないことが分かるので、難しいこと
をやりたいなら、高音でアジリタ、の反対をみっちりや
るべきでしょう。以上私見ですけど---。








q397gc19xkd57opaz287 at 09:19│Comments(0) 

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