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本日は、またSF系のショートストーリーを
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「時の彼方より」


2018年12月6日(木) 
北へ向かう列車内に篠田 恒はいた。

黒縁の眼鏡をかけ、コートの襟で顔を隠すようにして、進行方向側の隅の2人掛けクロスシートに恒は座り、新聞に目を通していた。

 「これで5人目…!
心療内科クリニックの院長 殺害される」

そう記されたタイトルの記事には、
犯人の特定は未だされていないとある。

恒は、立てたコートの襟の谷間で、
ニヤッとほくそ笑んだ。

今まで殺ったやつらは、最終的に自殺として
片付けられるはずだ。

殺害現場は防犯カメラも設置されてない密室。
首を吊って死んだと断定されるはず。

誰にも割り出せやしないのだ。
…そうとも、誰にも…

そう考えつつ、恒は鼻先で笑う。
鼻先で笑いつつ恒は、
席を立って用を足しに行く。

バカ医者どもめ…
つい口に出し洗面台の鏡を見つめる恒。

と、その時だ…

あの…」と背後から呼ばれた。
ああ?」流石に恒も緊張する。

あの…今何時ですかね?
そう訊いてくる声は、恒と同年輩の
30半ばと言った感じの男の声…
恒はゆっくりと振り返る。

午後4時36分。」無表情に返す恒に男は
どうも…」と、やはり無表情に言い、
じっと恒を凝視した。

なんだ、こいつ…?

恒の胸に一瞬、緊張が走ったが、こんなひ弱い男
なんぞ、どうとでも出来ると直ぐに見くびった。

僕が中学2年生の時、父は死にました。
男が言う。

なに言ってんだ、こいつ?
刑事でもなし、さては、目撃者か?まあ、
何者であってもどうとでも出来る…

恒がそうやって高を括っていると、
男は笑んで見せ、
僕の父ね。偉大な精神科医だったんです。
と言い出すので、恒も
そうなんだ…」と微かに笑って見せる。

父は町の心療内科クリニックの院長でした。」

その言葉に恒はギクリとしたが、
ああ、そう…」と言い平静を装った。

でも、殺されました。
23年前に、連続殺人犯に…

恒はその言葉に尚もギクリとしたが、
まさか、と思った。
殺った医者はすべて40代の男ばかり…
それだから恒は、ごく自然にこう返し得た。

それは気の毒だったよね…
心療内科か…忌々しい思い出の場所だ…

恒がそう言い、目をそらす顔を覗き込み、
男は目を据えて

院長の言葉で傷ついたとか?」と言い、
その言葉を聞いた途端に、
胸の高鳴りを押さえ切れない恒は、

イヤに勘が良いね、君は。」と言い、
男に向かって鋭い視線を投げつけた。

タイムトラベル…この時代じゃうそう言うんですよね? 20年後にそれが可能になるんです。
突拍子もなく男が言う。

なんだ?藪から棒に…
まあ差し詰め、頭がイッてる風を装ってるが
その実は揺すろうって魂胆だろうがな。

まあいい…なら、
もう少し泳がせた後で殺ってやるか…

恒は冷たい薄笑いを浮かべ、
ゆっくり男に迫った。

しかし男はめげもせず、
尚も恒に食い下がってくる。

僕は2041年の世界から来ました。篠田 恒…
あなたですよね? 連続殺人犯は。
そう言われて目を剥く恒。

…君は、危険ドラッグの常習者かい
すると男は冠を振り、
僕の名前は久米敦。あなたがこれから
殺す事になる心療内科クリニック院長・
久米 敦臣の長男ですよ…
と言い、徐に恒に迫った。

へぇ?1度さ、殺されもせず、
未だ健在の心療内科医にでも診てもらったら?

信じられないならそれでも構いません。
あなたは獄中で心臓病を発症した悪運の強さから
死刑を免れ、未だ警察病院にいる…

だから僕があなたを殺しにきたんです、
まだ父が殺される前の時間のあなたの事を……
そうすれば、父は死なないで済むんだ!

あなたを殺した時点で新たな歴史が生まれる…
万一、反対に僕があなたに殺されたとしても…

ほぅ!」そう言われると、何やらそそられて
しまう、殺人者の性の哀しさである。

で、どうやって?

僕とあなた以外のすべての時間を止めときました。タイムストッパー使いましたので。」

え? 」と言い、腕時計を見るが、
16:36のまま作動してない様子だ。

流石に恒は仰天したが、
しかしまだ疑問が湧いてきて

で、どうやって殺るんだ?俺を。」と訊いた。

レーザ銃を使用します。これのエネルギーで
あなたの身体を溶解します!

そりゃ、用意の良いこって!
オマケに時間を止めたんなら
目撃者もいないってワケか…
なら、こちらも好都合ってもんだ

恒は声をたてて嘲笑した。

ええ、僕もそう思います…!

敦は驚くほど冷静に見えるが、しかし、
銃を持つ手が小刻みに震えてる。

それを見極め、恒はヘラヘラと笑い、
徐に上着の内ポケットから
トカレフTT-33を取り出して、

なんぞの時の用心に、闇ルートから仕入れといた奴よ。断っとくけど中国のコピー品じゃないからね。頭、吹っ飛ばして1貫の終わりだね。
と嘲るが、敦は敦で震えた声で

では、どちらが早打ちか競争ですね!
此方は身体にTDUを装着してるんで。
と言い

恒の「TDU?なんだ?それは?
との問いに敦は、

重力歪曲時間転送装着…即ち、タイムマシン。
あなたが打ったとしても転送開始したら、
弾丸もブラックホールへ突入ですから。」と。

小賢しいコトばっか言いやがって!うぜー!
恒は、焦燥と苛立ちが頂点に達し、引き金引いた刹那に、バキュゥッと派手な銃声が轟いた。

そして次の瞬間、右肩を撃たれた敦は、
ぐっ…」と呻いてしゃがみ込み
そしてその様子を見届けた恒は、

へヘヘ…口ほどにもないんだね、君って。」
と、野卑な笑いを浮かべ、止めを刺そうと一歩踏み出そうとし、そしてその瞬間、ドデッと倒れてしまった。

あ"っ…足が…

恒は、己の両膝から下が溶けて肉も骨も液状化してしまっている事に気づき、半狂乱になった。

おまえーっ!よ、よくも…

だ、だから言ったじゃないですか?
競争だって!

苦しげに言う敦だが、言うと同時に止めの2発目を、今度は恒の胸に目掛けて発射した。

ウグッ!!

断末魔と共に、打っ臥した恒を見届けた敦は、徐に肩を庇いつつ立ち上がると、撃たれていない左の腕を腹の上に乗せ、時間転送の体勢に入ろうとした。

しかし、その刹那…
バキュゥッ!

一発の銃弾が、敦の心臓を撃ち抜き、
そして…

お…お父さん…

唸り声とも泣き声ともつかない呟きを最期に、
敦は崩おれた。

ざまぁ…

朦朧とした意識の中で恒もまた、
敦の終焉を見届け、ほくそ笑みながら恒は遂に、
全身が溶解してしまったのである。

そして。

洗面所の空間から突如として警察官数名が現れ、
その胸には時空警察と記されてあり、
警官の1人が時空無線機で、こう本部に連絡した。


転送先時間2018年12月6日 午後4時36分。TDU転送装置窃盗犯、確保。既に死亡しており、殺人も犯している模様…。直ちに転送します。」と…。





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