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また長いのを書いてしまいました。
今回はその前編です。




「亡命者の恋」前編


ある夜の事だ。

我が信頼する友、ヒューマノイドの
ウルトウォルム・H・Йから連絡が入った。

2119年に全面廃棄された折に、
秘かに一部が外部流出していた時間転移装置、
つまりタイムマシンを
探して欲しいと頼み込んでた件なのだが、
遂に見つかったとの知らせだったのだ。

ヒデノシン。お前、どうしても行くのか?
ウルトウォルムは心配げに聞いた。

もう帰らんつもりだ。頼む、ウルトウォルム。
警察には黙っていれくれ!
大丈夫…奴なら絶対タレ込んだりはしないはずだ。
奴だって今の政府には不満やる方ないのだから。

…なあ、やめとけよ…
さらに心配げなウルトウォルム。
しかし俺の決心は固い。

お前には迷惑かけたな…すまん。
でも俺はこれから亡命する!過去へと。
そう言うと俺は、ベルトに密着させた装置に
セットした西暦1721年へと旅立ったのだ。

ーーその昔、
人類には“愛”と言う感情が存在したと言う。

聞くところによると“愛”とは、
“憎しみ”と対極にありながら「紙一重」なので
あり、大変に危険なものだそうだ。

そもそも、
“喜・怒・哀・楽”と言う人類の先天性感情が、
世界戦争と地球壊滅の危機を招く一因となった。

それは非常に邪悪な因子であり、世界平和の秩序
を乱す要素は廃絶せねばならない…と言うのが
現代の教育概念であり、社会通念なのだ。


その昔、俺の先祖は北部地域の百姓だった。
しかしその北部も22世紀後半の現代に於いては
国の管理下にあり、一般人は
立入り禁止となっている。

遠い先祖の墓が、旧岩手県盛岡市の北上川の近く
にあると聞いているが、法律上、墓参りする事も
旅行する事も許されない。

今の世の中、
人の誕生に関しての作業権限はAIが握っている。

ヒトゲノムの遺伝的アルゴリズムを操作され、
培養液の中で育成された人類…、
所謂、彼等言うところの、“最良の”人類の産出を
平和の基盤と称するご時世だ。

因って 現在36才の俺は、実の両親には1度も会った事もなく、両親の家系図と遺伝情報を物心ついて以来、養育ヒューマノイドから1度か2度聞かされただけだ。

幾ら権力持ったと言え、所詮ヤツ等は木偶人形。
ただの機械ではないか。
そもそも人工知能にとっては、人の感情など
解析不能のはずだ。

いつの頃からか俺は、こんな世の中に
強い反感を抱くようになった。
そして俺は決心した。

人類が太刀打ちできない相手から、
絶望しか与えられないようなこの時代など捨て
去り、過去へ逃避してみせると

…そして“愛”とはどんなものなのか、
この目で確かめてみたいとーー。

完全に真っ暗な空間で、物凄い勢いで
上昇する感覚を俺は味わっていた。
この100年近くも昔のタイムマシンは、
500年過去へ飛ぶのが限界だ。

ところで周りが急に明るくなった…
此処は…川が流れてる。
見た事もないような清らかな流れの川だ。

と、その時。
俺は川で洗濯をしている長い黒髪の女の存在に
気づいた。

そして次の瞬間、女が振り向いた。
女は最初、
ギョッとしたように俺を見つめていたが、
やがてうっとりとした目で俺を眺めていた。

空間座標に誤りがなければ、
河川の名はは北上川のはず…

俺は、そこで初めて女の顔を見た。
…色白で美しい人だ。
それに何故か懐かしさを感じる…
不思議でならない。

おめはんは、どなただが?
やがて女は不思議そうな顔で訊いた。

俺は…トムラ・ヒデノシンと言います。
あなたは?
咄嗟に答えたせいで俺は吃ってしまい、
その様をみて女は少し緊張が解れたのか、
微かに笑んで、

おめはんは、おさむれぇ様でがんすか?
わだしはお絹でがんす。
女は不思議そうに小首を傾げて言った。

いえ、俺は…違います。
お絹さん…美しい名前だ!
俺の言葉にお絹はポッとほほを赤らめた。

事情を話した所で信じてはくれまい。
だが、お絹は何か俺が拠り所ない状況で、
助けが必要だと直感したらしい。

お絹は俺の腕を引っ張ると納屋へと誘導し、
その後、両親に俺の事を記憶を失った男だと
嘘の説明をした。

しかしそんな俺を、
怪訝な目でお絹の親兄弟は見ていたのだが…

長時間に渡るタイムトラベルで、
俺の体力はだいぶ消耗しており、その場に倒れ込む俺を見て、両親も渋々「回復するまで此処にいろ」と言うようになり、何よりもお絹の甲斐甲斐しい
看病に俺は、生まれてこの方、味わった事のない
熱い感情を胸に感じたのだった。

そして、ある夜の事だ。

俺は衝動的にお絹を抱きしめた。
不思議な事にお絹は抵抗しなかった。
そして、微かな行灯の灯りの中で、
俺達は激しく求め合ったのだった。

ーーこれが愛と言う感情なのか?
俺の中で声無き呟きが絶えず木霊し続けた。





次回へ続く




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