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中国人民銀行は、流動性を供給し債券のデフォルト抑制に全力を挙げている。だが、肝心の債券発行の企業体経営は、極端に脆弱化している点を見逃せない。債券格付け機関は、その企業実体を評価する能力がない事実が明らかになった。この一事でも、中国経済の構造的な脆弱性を浮き彫りにしており、立て直しにはかなりの時間がかかるだろう。

 

中国社会は、見える形のものをつくる能力は、先進国を見て修得した。だが、目には見えないシステムをつくり、それに従って経済を運営する能力は不得手である。情実が絡むからだ。近代官僚制という合理的システムが定着しない理由は、ルールを守ることで損を被る時、それに従わない身勝手さにある。話は飛ぶが、米中貿易戦争の本質は、中国がWTOルールを守らないところから始まった。中国は、ルールを守ると損をする。そう考えて、技術窃取やダンピング行為を繰り返している。この脱法行為は、内外あらゆるところで日常的に起こっている。

 

中国の格付け機関が無用の長物になったのは、中国政府が債券デフォルトを未然に防いでくれる。そういう前提に立っていたことだ。国家が、最終的に面倒を見てくれるという甘えの構造である。この国家依存症は、国有企業から民間企業まで幅広く行き渡っている。「人縁」によってコネを使えば生き延びられる。どうにもならない甘えが、中国経済の隅々まで染み通っている。現在の債券デフォルトは中国社会の縮図である。

 

『ブルームバーグ』(8月9日付)は、「中国社債は『ねずみ講』のよう、世界3位に急拡大した債券市場」と題する記事を掲載した。

 

この記事を読むと、肌寒い思いがするほど、当局・社債発行体・格付け企業の三者が、債券発行の重要性を理解していない事実が明らかにされている。こういう状況で社債発行が急膨張して、デフォルト多発の事態を迎えた。この中国経済が生き残れるだろうか。そういう思いも強いのだ。

 

(1)「中国本土で今年最悪の社債デフォルト(債務不履行)があった。炭鉱会社の永泰能源である。与信ブームに乗り借金を重ねたが、当局の政策がレバレッジ解消に転じたことが響いてデフォルトを重ねている。7月に入り永泰能源は人民元建て債に関連する支払いができず、総計114億元(約186億円)が不履行となった。7月5日までにまず15億元規模の社債で不履行を起こし、それをきっかけに別の社債13本、計99億元相当がデフォルト状態に陥った。5年足らずの間に有利子負債が4倍の722億元に膨らんでいた同社は、2018年最大の本土社債不履行という汚名を着ることになった」

 

当局は、企業に対してデレバレッジ(債務削減)の一環として社債発行を勧めた。これで、銀行貸付けが減ったので、表面的には貸倒引当金の計上が減り銀行収益が増えるという操作を可能にさせた。その代わり、銀行債務は社債に置き換えられて、市民が購入して「ババ抜きゲーム」に加えられるという新たな被害者を生み出した。

 

炭鉱会社の永泰能源の場合、「債券発行のハシゴ」をして歩いている。当局が、これを認可したことは、この企業へ最初に融資した国有銀行を救済する目的で、社債に切り替えさせたことぶよるもの。当局は、国有銀行と「グル」になっており、デフォルトの被害を債券保有者に押しつける「あくどい取引」を行なった。「ネズミ講」と変わらないのだ。

 

(2)「永泰能源の情報開示担当者が匿名を条件に述べたところによると、中国の資金調達環境の変化が同社に大きな影響を与えたという。経済の国有銀行依存を軽減しようとした政府が、企業に社債発行を促し、中国本土の債券市場は約12兆ドル(約1340兆円)と世界3位の規模に急拡大。しかし、社債の買い手側は信用調査の経験に乏しく、中国の格付け各社も借り手の差別化といった意識に欠け、中国が14年にデフォルトを容認し始めるまで、デューデリジェンス(資産査定)はほとんど行われなかった」

 

政府は、債券発行を急増させて短期間にその規模を世界3位にまで押上げた。だが、債券発行体を格付けする企業の能力・意識が低く、発行体の資産査定も行なわなかったという。市場参加者全員が、専門知識もないままに集まってきた形だ。それが、中国の社債市場である。